第二章 第六十三幕 放たれし獣
俺たちは勘助に戦いを挑むべく、国境の中州にて陣を張って彼を待つ。
俺たちの行動を知りつつも、迎え撃つべく一人現れた勘助は正体を明かし、死人の侍と共に俺たちとの戦いが始まる。
川の中から出てきた死人の侍。狙い通り、足元が悪く向かってくる速度は前より遅い。
「今は土葬がメインだが、俺が居た時代は火葬だ。未来での手向けを味わってくれ!」
俺は気合を入れるために叫んだ。
そして、酒の入った徳利を投げつける。死人に当たった徳利は割れ、中の酒が死人を包む。最後に、蓉子の火の精霊で灰にするという戦法だ。
徳利は俺たちも作ったが、近隣の農家に食べ物と交換で作ってもらったのも多い。酒は蓉子の物だ。
初めは植物から油を絞ったが効率が悪く、結局は蓉子の酒を使った。
「もったいないわ」
と嘆きながらも協力はしてくれた。
水から揚がりたてで相手は濡れてはいたが、有り難い事に何回か同じことを繰り返せば動けなくすることはできた。
酒と精霊の火力では完全な火葬までは行くはずもなく、先輩方への約束は果たせなかったが、しかし、呪縛を解いたので許してくれるだろう。
当初の狙いでは、露払いとして俺と蓉子が死人を蹴散らし、葵衣と朱莉で勘助にあたってもらう筈だった。しかし、実際には相手は鶴翼。つまり俺たちを包囲する形で、その輪を縮めて来ていたので左右からの挟撃を防ぐので手いっぱいだった。
ゲームでは、雑魚が先陣を組んで攻めてきて、それを突破。ボスとの対戦と言うのがお約束だと思っていたが、実際には違うのだな。
葵衣には申し訳ないが、自分たちの道は自分で開いて貰うことになった。
死人を十人ほど倒した時、少し間が空いた。ロキと葵衣の方をちらりと見たが、死人の壁は用を為さなかったらしい。既に倒れていて、剣と薙刀の応酬が始まっていた。
歳をとっていたとしても、昔掴んだ感覚は忘れないのか、勘助の太刀捌きは見事だ。昔、ごろつきとは言え、何十人かを相手にして生き残っている。まぁ、それで半身不随になったのだが。
一方の葵衣は、以前死人を相手にした時は五分からやや優位といった所であったが、巴御前の修行の成果か、勘助相手でも五分で渡り合っている。
こんな時に不謹慎ではあるが、勘助が目が潰れておらず五体満足であったなら、どれだけの剣技を見せてもらいたいものだ。今は敵なので、満身創痍が救いなのだが。
朱莉は注意深く、二人を観察していた。力量は五分。葵衣が注意を逸らした瞬間決着が着くであろうことは容易に理解できる。葵衣の注意がそれないタイミングで式神を使うのだ。
「雷獣!」
朱莉の手から、光の様な獣が高速で勘助に向かう。葵衣と勘助が一旦離れた隙に放つ。以前もそうであったが、この雷を太刀で撃ち落とした勘助には頭が下がる。葵衣は次の攻撃を始めたが、その時には勘助は元の剣戟を繰り返している。
こちらも、残りの死人は十体程まで減っていた。
「頼む、もう少し耐えてくれ」
葵衣と朱莉に願いながら、俺は徳利を投げ続ける。
戦いが始まって、半時ほど経ったであろうか。
死人は全て片付け、俺と蓉子は朱莉の後ろに控えた。流石に蓉子にも疲労の色が強く見えていた。朱莉も集中力は限界に近いと思う。そして葵衣は……よく持ちこたえているとしか表現はできない。
朱莉同様、俺たちも手出しできる状態では無かった。
「朱莉。大蜘蛛で葵衣を縛って」
蓉子は突然言い出した。
「は? 何言ってんだ?」
俺は反論するが、蓉子は続ける。
とりあえず、葵衣を一旦引き上げる。そして、わたしが地の精霊魔法であいつの足場を緩める。最後に朱莉の不如帰で弱らせる。全てはタイミングが命だ。
失敗したら、葵衣は糸で縛られているため、俺たちを護る事はできないであろう。
朱莉は意を決して、蓉子の作戦を実行した……。
とりあえず、作戦は成功し勘助に大雨を喰らわせることが出来た。ひるんだすきに、俺は徳利をすべて投げつけ、蓉子は風の精霊で場を乱し、朱莉は雷獣を何度も打ち込む。
いくら勘助が化け物でも、これならダメージを与えているだろう。本人には悪いが、死んでいてもおかしくない。葵衣に巻き付いた糸を解きながら俺は地に臥せっている勘助を見た。
戦が終わって、一安心。とはいかなかった。勘助は倒れていたが、元居た場所には巨人が陽炎の様に揺らめいていた。これがロキなのか。
勘助とは異なる威圧感がある。
「やるではないか。しかし、お主らは我が僕のエサにしてくれる」
ロキの左右に異次元へ通じる穴の様な物が現れる。
左右から、一体ずつの巨大な狼が姿を現す。
一匹は、胸元を真っ赤に染め上げている。まるで殺した人の血を勲章の如く自慢するように。
もう一匹は、同じく巨大ではあるが、目と鼻の先に火焔をたぎらせている。




