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第二章 第五十六幕 再開、勘助を知る旅を

 上田原の合戦を始終見て、陣取った神社にて野営をしていた。

 その時、目前に道鬼を名乗る山本勘助が現れた。 彼とは酒を呑みながらの問答で終わったが、立ち去った後は戦闘以上の疲労を感じていた。




「みんな大丈夫?あの感じだと、今日はもう襲撃はないと思いますが」

 葵衣は皆に気を使って言葉を発した。

「正直、話しているだけでも心が攻撃されている様でした」


 威圧感もさることながら、道鬼のやり方に恐怖を覚えたのであろう。俺の昔の仲間を殺し、彼らを使て、おびき寄せた。

 優しい朱莉からすれば、想像できない事なのだろう。



「今日も無粋な客で、酒が不味くなってしまったわ。あんな化け物見ながらの酒なんか美味い訳がない。茂玄、なんか場を盛り上げる余興をやりなさい!」

 口では強がりを言っているが、蓉子自身も彼のプレッシャーを感じていただろう。


「え?俺かよ」

 とりあえず、出来るだけ明るく返す。しかし芸と云っても思いつくものがない。社会人は凄いと思う。


「ねぇ、三毛介。あれをやってよ」

 朱莉が三毛介に何かを頼んだ。やれやれという感じで、三毛介は朱莉から手ぬぐいを受け取った。


 三毛介の鳴き声で、近隣から猫たちが集まってくる。三毛介は二本足で立ちあがり、手ぬぐいを頭にかぶり端をちょいと(くわ)え、踊りだす。徐々に真似する猫が現れ、どこからか御囃子が聞こえてくる。そう、まるで猫たちの宴会だ。


 蓉子は、胡坐をかいて座り直し、膝を叩きながら大笑いする。いいぞー、もっとやれーと合いの手を入れる。蓉子がいつものペースに戻ったところで、俺たちも落ち着くことができた。今度三毛介には高級魚でも食わせてやるか。



 三毛介大活躍のおかげで、いつも通りに夜を明かすことができた。




「食事中には悪いと思って言わなかったけど、ちょっと聞いて貰えます?」

 翌朝、朝食を食べ終えた後、葵衣が口を開いた。

「寝ながら、昨日の山本勘助の事を考えていました」

 それは普通だろう。俺も考えていた。何も結論には至らなかったが――。


「彼は自らを道鬼(どうき)と名乗っていました。歴史では、武田晴信が出家して信玄を名乗ったときに、勘助も同じく出家して名乗った事になっています。今から十年後の話になります」


「彼は朱莉の姓から家系が分かる程、陰陽道の歴史に詳しい。つまり本物の陰陽師。朱莉ちゃん、陰陽師の秘伝とかにそういった物はあります?」

「あたしも全てを知っているわけでは無いですが、基本は式神を使って相手に術をかけます。鬼だったり、動物であったり」


「そして、私達が船に乗っている事も知っていた。人の過去を探るのは良くないと言っていたけど、明らかに私達の動向は常に把握していると思います」


「来るべき時の自分の軍が欲しいとも言っていたわね」

 来るべきとは、川中島だろうか?

「色々複雑に絡み合う彼の能力と言動から、私はある仮定を立ててみました」


 俺は、生唾を飲み込む。

「いや、もうちょっと情報を集めてからにさせてください」

 コントならみんなでずっこける所だが、葵衣の性格からネタではあるまい。まだ、その仮定は知らない方が良いとの判断だろう。



「で、これからどうするの?」

 蓉子が聞いてくる。

「山本勘助に行動が把握されているので危ないと思いますが、彼の足跡を追ってみたいと思います。目的地は駿河国」

「あの、葵衣さん。あたしもついて行っていいですか?」

 朱莉が葵衣に聞いてきた。


「いいの? 命賭けになるかもしれないのよ?」

「あたしも、彼の考え方がわかりません。人を信じたいから、何がおこったのか知りたいのです」

「私も行くわ。あの醜男に好き勝手されるのは癪だし。で、茂玄はどうすんの?」


 二人の言葉を聞いて、俺は不思議に思っていた。何を言っているのだろうと。

「え、みんなで行くんじゃなかったの?」

「バカね。葵衣は危険な旅だから自分だけで行く、と言っていたの」


 俺の頭はやはりゲームやラノベのファンタジーらしい。

「もちろん、俺も行くよ」

 ありがとう。葵衣はみんなに礼を言っていた。



 こうして、俺たちは中座していた勘助の足跡をなぞる旅を再開する事になった。今度こそ、山本勘助が何者か知るために。


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