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第二章 第五十四幕 上田原の合戦

 砥石城にて、葵衣による激励が行われた。兵の士気は高まり合戦の場と想定した上田原に出陣する。

 彼らを見送った俺たちは北に大きく迂回して激突するであろう場所の西、浦ノ山の麓にある弓立神社に陣を構えた。




 村上本軍四千五百人は、千曲川を超えた平野部に陣を敷く。西側が浦ノ山に面し、東側が川で場所は文句ないだろう。遅れて砥石城から四百人が千曲川の中州に集まった。

 武田軍が到着したのは、その日の夕方。村上本陣から約半里南に下った山の麓に本陣を置く。その数約八千。村上軍の約二倍。苦戦は免れないだろう。


 両軍、緊張を解かぬまま夜になり、陽が昇る。武田の先発隊と思われる約千五百の兵が歩みを進め、村上本陣との間を詰めてくる。砥石城兵は牽制役となる。先陣の大将は旗印から武田の勇将板垣信方。百戦錬磨の名将だ。


 村上本体も南進し両軍がお互いの鼻がつきそうになった時、双方から法螺貝が響き鬨の声が上がる。

 前衛の槍隊がお互いの切っ先が届く前に両陣営から矢が飛び交う。矢が刺さり伏せる者もいる中、兵がお互いに進み、斬り合いになる。数で勝る村上軍は鶴翼に広がり武田の先鋒を包囲せんとした。

 ここで武田は第二陣、第三陣を繰り出し、村上勢の翼をそれぞれ包囲せんとする。それぞれ千五百。合計五千近い兵が繰り出してきた。

 砥石城の兵は敵右翼に阻まれ、援軍にもいかれない。


 両軍の将がそれぞれ指揮を執り、銅鑼や法螺貝、兵の掛け声、悲鳴。俺たちの目の前で、まさに殺し合いが行われている。



 俺は朱莉を後ろに庇い、黙ってみているしかなかった。葵衣と蓉子も乱戦を観ているようで、かといって集中している風ではない。多分、山本勘助が何かを仕掛けてくる事に用心しているのだろう。

 志賀城の時は一方的な殺戮。今回は戦。どちらにしても多くの人が傷つき、死んでいく。目を背けたい。できればこの場から逃げ出したい。

 俺たちが出会った時、蓉子に釘を刺されていた。ゲーム感覚が抜け切れていない事を実感し、反省する。



 一刻も経たないうちに、形勢は見えてきた。武田の先鋒が村上軍の中央を突破。左右の翼に別れた軍は、完全に武田の先陣と二陣・三陣に包囲される形になる。

 村上様は、劣勢を感じ取りすぐさま本陣まで引き返した。砥石城の兵も中州から元いた城へ退散する。


 双方多数の死者が出たようだが、総崩れとなる事は無かったようだ。

 ある程度追撃はしたが殲滅までは至らなかった。

 いままでの信濃勢との戦闘で、手応えが少なく雑魚に用はないと思ったのだろうか。もしくは武田晴信から無駄な殺生は禁じられていたのかもしれない。なにせ、領土が手に入れば次は武田の兵になるのだから。


 武田の先陣板垣隊、甘利虎泰隊など干戈を交えた三隊が合流した。その後ろには後詰として武田晴信の弟信繁などが控えている。



 板垣信方はここで陣を整えなおしていた。そこに、山本勘助が伝令として本陣から遣わされてきた。

 俺たちは瞬時に臨戦態勢に入る。しかし、当の勘助はこちらに気が付く風もなく板垣信方に何かを伝えていた。朱莉の四ツ目入道で彼らの偵察を行う。


「板垣殿、この度の先陣、誠に見事であったと殿から伝言がありました。つきましては、戦果の報告を頼むとの命令でございます」

「まだ、村上勢も完全には引いてはおるまい」

「いままでの信濃衆との戦いを思い出してくだされ。反撃する勇敢な将などおらず、すぐに頭を下げ軍門に降ったではないですか。すぐに裏切りはするが、弱兵など相手になりますまい」

「左様であったな。では今から首実検を行う。まずは兜首から持ってまいれ。勘助殿申し訳ないが、儀式を執り行ってほしい」

「は。その為の役目故に」



 武田の前線に出ていた半数が、首実検のため武装を緩め報告に入る。

 それを遠目で見ていた村上様は兵を組みなおすと直ちに突撃を開始する。丘陵地で見えにくかったのも幸いしたのであろう。村上勢は遮二無二突撃する。

 首実検を行うために集まっていた各将は突然の来襲に対応も出来ず次々に討ち取られた。



「板垣信方、討ち取ったり」

「このまま、一気に武田の小童が首を取れ!」

 村上様が号令をかけ、突撃を続行する。

 板垣信方と双璧をなす甘利虎泰は村上本体を食い止めるべく立ちふさがったが、砥石城の兵がいつのまにか転進しており、千曲川を一気に渡り横腹を刺した。


 この結果、甘利隊も壊滅と大将の討死。後備えの隊も混乱が伝わり敗走。

 村上本体も武田本陣に迫る勢いだが、いかんせん兵力の差がありすぎた。村上軍も武田本陣は崩せず退却する。




 この戦にて、武田方は板垣信方、甘利虎泰等宿老級の武将が敗死。晴信も手傷を負ったという。

 一方、村上勢も多くの将を失ったがメンツを保ったのではないだろうか。


 関ヶ原もそうであるが、一瞬で終わる戦もあると体感した俺たちだ。


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