第二章 第五十二幕 葛尾城からの救援
直江津の村で夜を明かすつもりでいたが、夜襲があり退治する事ができた。
しかし数人が隊を組み言っての間隔で押し寄せてきた。埒があかないと戦線盛り返し、十日ほど経つ頃に抵抗をしている山城にたどり着く。
葛尾城。北信濃の勇将、村上義清の居城である。
今押し寄せてきた軍は、以前山本勘助と対峙したときに後ろに控えていた武者と雰囲気が似通っていた。農民兵なのか戦闘力はほぼ無く、苦戦する事は無かったが数に困っていた。勘助が居ないだけで、蓉子や朱莉の術や式神を遮るものは無い。そういった点では、城の解放は時間の問題だ。
中には手強い者もいたが、葵衣の力量にはかなわない。あっけなく肢体をやられ、戦闘が出来なくなる。
攻め手が全滅したところで、城から使者が来て俺たちは城主、村上様の前に座している。
「失礼ながら、先にお願いしたい儀があります。敵の亡骸を早急にお願いしたいです」
城下に集めて蓉子の炎の精霊で跡形もなく灰にするという。
「よかろう」
と、村上様は城兵に命じて死体の回収任務に就かせた。まだ動いている死体もあるから、集める方も大変だろうと思いつつ、伝令を見送る。
「討ち取ったと思っても、攻撃を止める気配がなかなか収まらなくてな。そちたちの加勢にて、助かったような物だ」
村上様から、お言葉をいただく。信州一の勇将と誉れ高い村上義清。また戦を前にしているせいか、殺気が凄い。
「月初めに、武田の小童が軍を進めてきてな。信濃の各城に配置した兵を合わせ、北信濃を目標にしているのだろう。恥を知らぬ小領主は恐れをなして、武田の軍門に下ったものもいるが……志賀城の惨状をみてな。あれは許せるものでは無い」
簡単な情報交換のあと、俺たちは部屋を一つ借りることができた。そこで一日休息し、約半月に渡る連戦の疲れを癒した。
翌日、隣の砥石城から伝令が来る。城を襲った同じような軍が押し寄せてきているという。
「武田には知恵者がいるのだろう。我らは葛尾城、砥石城を拠点として、武田の軍を上田原にて雌雄を決するつもりだ」
武田信玄が、上杉謙信と幾度となく戦った川中島の合戦。戦場は信濃と越後の国境近くだから、この合戦は負けるのだろうか? しかし、葵衣の表情からはその憂いは感じられない。
「恐れながら、砥石城への救援は私たちに任せていただけないでしょうか? 戦を前にして、兵の損耗は避けた方が良いでしょうし、私たち旅の武芸者であれば亡くしたところで痛みはございませんでしょう」
「昨日までの連戦で疲れているところ、ありがたい。できれば、そなたたちに我が軍門にて力を奮って貰いたいが……」
「私たちは旅の武芸者。戦に関わるつもりはありません。しかし、あの不気味な敵は放っておけず、戦いたいと思います。村上様のご武運を」
「左様か、では砥石城への文を渡しておこう。そちたちの活躍を願っている」
葵衣と村上様の会話は終わった。一日ゆっくり休むことができたので、完ぺきとは言えないが体力・精神力は回復していた。
砥石城への助っ人。そんなに苦労はないだろう。
「言っておくけど、砥石城に山本勘助が居る可能性もあるからね。わたしたちをおびき寄せるためにね」
蓉子が注意する。楽勝な連戦で戦いを舐めていた自分を反省する。
「蓉子の心配はもっともです。しかし多分砥石城に彼は居ないと思います。山本勘助の目的があれなら……。あ、戦いの前にごめんなさい。蓉子の言うように慎重に行きましょう」
葛尾城から砥石城への道に、敵兵はいなかった。砥石城への攻撃兵も葛尾城のそれと比べるとかなり少ない。掃討して入城した。
城代に村上様からの文を届けるため、奥へ案内される。城兵は約五百人。あちらこちらに見知った顔が居る。中に思いもよらぬ顔があった。すぐ上の兄、武居清次郎だ。




