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第二章 第五十幕 海の化け物

 西日本巡回強行軍に足を痛めていた朱莉。彼女の足を休めるために暫く船旅をすることにした。




 能登の堅城七尾城を見て、再び船で日本海を船で行く。



 この時代、大型の外洋船などないので、荷を運ぶ船に便乗・乗り継ぎをしての旅になる。陸路と違い、船や波の状態で思い通りにはいかず、時間が過ぎていく。九州から四国。四国から山陽までの船旅は経験していたが、日本海は気分屋らしい。




 成長期の朱莉は怪我の回復は順調であったが、俺たちの身体も休まり、このまま出羽まで旅する事にした。

 朱莉は自分のせいと思っているようであったので、越後長尾家が一触即発状態なので船で行くのだと言い訳をしてある。




 なんだかんだで、直江津の湊近くまで来た俺たちだが、海の化け物に出くわしてしまった。

 大きな蛇の様な物が船の上を通り過ぎていく。その胴体からは脂が滴り落ち、船乗りたちはその脂を手桶を使って船の外に掻きだす。もちろん、俺たちも手伝いをする。

 が、一向に通り過ぎる気配はない。



 船乗りの話では、この妖怪は『アヤカシ』という。この辺の海で出た記録は無く、山陰地方が主で初めての事例という事だった。



 蓉子がしびれを切らし、攻撃しようとするのを葵衣が制した。

「下手に刺激して、船が襲われたら沈んでしまいます」




 夜通しで脂を取り除くも、未だにアヤカシは通り抜ける気配を見せない。船員も俺たちも疲労がたまる一方だ。

 朝靄(あさもや)と思っていた霧が濃さを増しているような気がした。霧の奥から松明(たいまつ)の灯が見え始め、武装船団を思わす影が姿を現した。

 国から水軍が派遣されたのであろうか? 船を認識しきる前に、船団から(とき)が聞こえ、矢の雨がアヤカシに降り注ぐ。


「ちょっと、待ってくれ!」

 俺は叫ぶが、鬨の声で相手に聞こえる手応えはない。アヤカシが体をくねらす。船のへりに当たり、船が軋み傾く。



「船頭さん。申し訳ないですけど船を棄てて逃げましょう」

 葵衣が船頭にお願いをする。船頭にしてみれば自分の財産であり商売道具を手放す話だ。簡単には承諾しないだろう。明らかに躊躇しているのは見てわかる。


「あの武装船団も妖怪の類。助けを求めるのは無理だと思います」

 葵衣が指さす方向に、攻撃を仕掛けた船団がしっかり認識できた。

 船も帆もボロボロ。武者にも生気は感じられない。敵ではあっても味方にはならないだろう。



「こうなったら、しょうがない。命あっての物種だ。船を棄てるぞ。油の海だから気を付けろ。陸に上がったら、やり直しだ!」

 船頭の声に従い、船員は次々と油の海に飛び込み、陸に向けて泳いでいく。海の男たちだ。無事にたどり着けるだろう。



「オスの三毛猫でも、猫又なら無効なのかもね」

 蓉子は恨めしそうに三毛介を見て、海に飛び込む。朱莉、葵衣、俺も続き、最後に船頭さんが飛び込んだ。

 油の海で泳ぎにくい。元々俺は運動音痴。泳ぎも下手だ。朱莉も海での泳ぎは初めてだろう。苦戦しているのが分かった。陸まで約半里。遠泳の距離となる。


 流石は蓉子と言うべきか、水の精霊と風の精霊を上手く組み合わせ、あまり泳げない俺たちを無事に陸まで導いてくれた。

 船が居た場所を振り返ると、船もアヤカシも武装船団も消えていた。




 幸いにも、全員が無事に難を逃れた。船頭さんを中心に船乗りたちは、無事を喜び、再び頑張ろうと言っていた。

 船頭さんの人徳なのであろうな。俺たちは近くの商家で食料を売り、船頭さんへの復興資金として提供した。


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