第二章 第四十九幕 朱莉の怪我
京を出て、山本勘助の旅をなぞる旅は収穫もないまま山陰最固と言われる月山戸田城まで続いた。
そこから播磨に入国し、正月を祝っていた所に無粋な野盗が現れ蓉子の怒りは爆発。しかし、この野盗から勘助に繋がるとは夢にも思わなかった。
「小物ほど、小さな結果を大きく吹くのね」
蓉子が呆れていう。
橋本柳巴という、村で一番強い剣士がいた。旅をしていた山本勘助に試合を申し入れ敗死。一度干戈を交えて身に染みたが、勘助は剣の腕も立つ。村一番どころでは相手になるまい。
今度は弟子というか、取り巻きだろう。彼らが三十人ほど勘助を取り囲み、攻撃。しかし勘助は二十人近く死傷させた。たまたま例の野盗が勘助の左足に深手を負わせたのだろう。
「深手を負っても殺されなかった事を考えると、山本勘助は武人として尊敬できるわね」
葵衣が褒める。敵とはいえ、認めるべきところはきちんと認める。器が大きいと感じる俺だった。
葵衣のブーツは神器に匹敵する物だから壊れることはないが、俺たちの履いている履物は別だ。この強行軍に耐えられるものでは無い。何度か履き替えている。
まぁ、下級武士が言えの自分で調達するスキルが役に立ったのだ。
例の如く、俺が作ったものに履き替えている時、蓉子が朱莉の足に気が付く。
「朱莉、なんでもっと早く言わないの」
「ごめんなさい」
母親に叱られる子どもの様にうなだれる。
「おい、何を言っているんだ?」
俺が止めに入ると、蓉子は真剣な顔で話した。
「まぁ気が付かなかった、わたしが一番悪いんだけど……朱莉の足に負担がかかり過ぎていたの。子どもの身体には、大人の旅は厳しかったわけ。朱莉は痛さを我慢して歩いていたのよ」
蓉子にしては、反省を述べるのは珍しいが、それ以上に朱莉が痛みを我慢して旅していたとは思いもよらなかった。
「兄様たちに迷惑は掛けたくなかったのです」
朱莉がか細く言い訳をする。
「いい、朱莉? わたし達は旅を一緒にしているの。全員で行動しているのだから、不調はきちんと言わなきゃ駄目」
蓉子は諭すように話しているのだが、朱莉にはダメージが強かったのであろう。
「肝心な戦いのときに、朱莉の足が痛くて動けなかったら、みんなが困るんだから」
蓉子が朱莉を抱きしめる。朱莉は静かに泣いていた。
蓉子が応急処置を施し、朱莉は俺がおぶる事にした。背負子は葵衣が代わってくれた。
「次の目的地は能登の堅城、七尾城。良かったら船で行かない?」
葵衣の提案で船旅につく。
とりあえず、若狭まで出て、そこから船に乗るようだ。
朱莉を背負い、彼女と話しをしながら歩く。
「こうして兄様に負ぶってもらえるなら、痛いの我慢して良かった」
朱莉も甘えたい年頃なんだろう。
「でも、無理はダメだぞ。蓉子の言う通り、朱莉がいないと困るんだから」
朱莉の顔は紅色に染まっていたそうだ。




