第二章 第四十八幕 祝いの席に無粋な客
山本勘助の情報は京で途切れてしまった。葵衣の推測により、楠木正成を追ったと仮定して河内へ。そして山陽、九州、四国、山陰と旅をした俺たち。
中国地方を代表する勢力、大内氏と尼子氏。戦国末期には中国地方全域を支配していた毛利家は両氏の間を上手く生き抜いていた時代だ。尼子氏の月山戸田城に着いたのはほぼ年末。播磨へ向かう途中で新年を迎えた。
葵衣は誕生日で年を取る。蓉子もそうだろう。
年齢を聞いたら滅茶苦茶怒られたが。俺の場合はどちらだろうか? 武居茂玄として生を受けているので正月で歳を数えるのであろう。朱莉もそうだ。
俺たちは旅に出る前に、オルルーンから不老の術をかけられている。この旅が終わる頃には何歳になっているのだろう。しかも身体はそのままで。
蓉子は喜ぶのは火を見るよりも明らかだが、成長盛りの朱莉はどうなんだろう? ずっと子どものままだ。可愛らしさを残してくれるのは俺としては嬉しい限りだが、本人はどう思うのだろうか?
果たして祝ってあげた方が良いのか?
「なぁ、蓉子。蓉子は今が一番きれいな時で、不老は嬉しいだろうと思うけど、子どもの朱莉はどうなんだろう?」
聞く人を間違えた気もするが、本人には聞けないし。
「あら、茂玄は、わたしの一番が今だと思うの? たとえ不老でも、女は磨けば磨くほど魅力が出るものよ」
蓉子は、右手にはめられた精霊の指輪を見て答える。
綺麗と褒められ嬉しいのか、割とまともな回答だった。
「まぁそれは、女に限った事じゃないけどね」
つまり、俺にも努力しろという事だろう。
「朱莉ちゃん、ひとつお姉ちゃんになったね! これからも一緒に旅をしましょうね!」
流石は葵衣。上手く収めたな。
「うん! あたし、もっとがんばります!」
小さい体ながらもガッツポーズを決める。妹と最後に別れたのが、今の朱莉と同じくらい。この先も彼女に妹像を重ねるのであろうか?
「あらあら、茂玄ちゃんは朱莉ちゃんも気になるのかしら。気が多いわね」
朱莉への目線を見て、蓉子が軽口を言う。本当に蓉子はよく見ている。そして、鋭い口撃力がある。頭の回転の速さには舌を巻く。
葵衣は未来での誕生日の話をしていた。ケーキを食べて、ローソクを吹いて、みんなでお祝いをする。朱莉は目を輝かせて聞いている。
まぁこの時代でも、誕生日はあるが祝わない。正月に歳を重ねるのだが、朱莉にとっては未来は憧れの場所なのだろう。不老なので、このまま令和時代まで生きていたら、それはそれで幸せなのかも。
旅の途中ではあったが、豊受気媛がくれた常糧袋から出た食材で葵衣が簡易おせちを作ってくれた。屠蘇を作るために、どぶろくに灰を混ぜて清酒を作る。蓉子はこんな手があったのかと喜んでいた。
場が和んで居たとき、いらぬ客がやってきた。
「おうおう、ここは俺様の領地だ。ガキと野郎はここで死ね。そこのベッピンさん方は可愛がってやるぞ」
俺は溜息をつく。酒の席を邪魔されるのが一番嫌いな蓉子が立ち上がったからだ。
「なんだ、やんのか? 俺はこの地の剣豪、橋本柳巴を討ち倒した山本勘助を倒した男だぞ」
思いがけず名前を聞いたが、蓉子の怒りは収まる気配はない。
精霊魔法を乱発し鬱憤を晴らす。そして、むすっとしてまた呑みなおした。
翌日この近くの村で聞き込みを行うと、次の事が分かった。
橋本柳巴と山本勘助が決闘を行い、柳巴は敗死。弟子たちが勘助を取り囲み斬り合いを始め弟子は十数人死傷。勘助は左足に深い刀傷を負って不自由になったらしい。ここまで来て、勘助の動向に触れることができた。




