第十六章 第四十一幕 窮奇の行方 (其一)
「ねぇ葵衣。小田原から西に行くと、富士山じゃない? そこに居ると思う?」
「うーん。どうなんでしょうか? 朱莉ちゃんは、何か感じますか?」
「ごめんなさい。あたしには何も感じられないです」
氏康と食事をした翌日の事である。
小田原を出立した俺たちは、とりあえず西に足を運ぶ。しかし蓉子の指摘通り、真西は富士山。日本で一番高い山だ。
「えっと。仮に富士山山頂に、彼らが居たとします。しかし今は秋口。休憩なしで丸二日かかります。そして雪の影響で、雪崩や遭難の危険性も……」
「確かに、わたしたちの時代では五合目まではバスがあったわね。そして山をなめていたバカが、サンダルで登ろうとしたニュースになっていたし」
「茂玄さんの時代では判りませんが、私がいた時代では夏場しか開山していませんでした。それだけ危険なのだと思います」
「悩ましい所だな。登るには時間と体力が必要だ」
ボレアで体験した雪山。正直、あの吹雪や雪崩には二度も遭いたくない。朱莉も含めた三人では、葵衣も守れないだろう。
そして透明化した三苗人が襲ってくる可能性もある。戦闘で俺たちは徹底的に不利だ。そして、もしいなければ時間と体力のロスが痛い。
この考えに三人は頷く。
「じゃあ、富士山を迂回して情報を集めてみる? ついでに今川の坊ちゃんに報告も兼ねて」
「蓉子さんの方針に私も賛成です。最後の手段として、富士山へ討伐に向かうのが」
「でも、葵衣さん。そうすると、人の被害が……」
「朱莉、心配するな。もし、あの山に居付いているなら人を襲う事もないだろう? 人が立ち入らない訳だし」
「そうですけど……」
「朱莉ちゃん。茂玄さんの言う通りだと思うわ。もし人を襲うなら、人里に近い方が可能性が高いでしょ?」
葵衣は朱莉に諭すように説明した。
確かに、エサが居ない所に生物は寄り付きにくい。
そして富士山に討伐に向かっている時間に、人の集落近くに潜んでいれば犠牲は更に増えるだろう。
「な? 葵衣も分析しているんだ。俺が言うより安心だろ?」
「そうよ朱莉。あんたの口癖でしょ?」
朱莉の口癖、それは『信じています』だ。
翌々日の朝、駿府に到着する。無理すれば、一日で行ける距離ではある。鎌倉から小田原と同じように、近隣で被害が出ていないかを確認しながらの行程。そして、朝一に城門に到着する様にしたのだ。




