第二章 第四十二幕 明智家の苦悩
川に金色の大黒天像を棄てた侍、明智十兵衛。葵衣の話で城下まで入ることができた。そこで、十兵衛の想いを聴いた。
大黒天は千人の長。千人の兵を動かせる物など掃いて棄てるほどいる。言われてみればそうだ。
下級武士の俺としては考えた事は無かった。領主笠原様とて、その気になれば千人程度たやすいだろう。しかし、武田に一瞬で滅ぼされた。
明智家の次期頭首としては、家を守るために色々考えているのだろう。
「我が身内ながら、伯母は美人でな。亡き父が斎藤家に誼を通ずるために嫁に行かせている。戦で死ぬ男も不憫だが、政略に使われる女子も同じよの」
蓉子、葵衣を見て呟く。
「ありがたいことに我らは武芸を極めんと思う者。旗揚げや戦乱に加わる気は毛頭ありませんので大丈夫です」
葵衣が笑顔で応える。十兵衛様は、苦笑いをしていた。
「まぁ、斎藤家としても東の備えとして、明智家と姻戚を結んだのだろう」
つまり人柄や魅力でなく、政略という事だろう。
「父は私が幼いころに亡くなり、叔父が後見人となってくれた。その時の幼い私では家を守ることも出来なかっただろう。しかし大黒様の御利益、たった千人の長で満足するようでは家は守れまい」
話が暗くなってきたのを察知した葵衣が、話題を変える。
「明智家は土岐家の分家筋と伺ったのですが、そうすると家柄は十分ですよね?」
「まぁ、その主家も山城守利政殿にその座を奪われ、血筋などはほぼ役に立たない事は自明の理。だからこそ、私は力を持ってこの家を守りたい」
本能寺の変を知っている、葵衣や蓉子は何を思うのだろうか? 俺としては、武家の長は肝の据わり方が違うと思い知らされた。
「明智様のお考え、とても素晴らしいと思います。是非ご活躍され、今後に家を残していただきたいですわ」
蓉子が言う。まぁ、史上最も有名な反逆者になるとは当の本人には言えない。
「明智様、あのよろしければ、あたしたちの旅の話も聞いてください」
朱莉が語り掛ける。
「左様か、左様か。皆の武勇伝も聞きたいものだ」
幼い女の子の言葉は、無邪気。人の心をほころばせる何かがあるのだろうな。
「ほぉ、山本勘助。武田家でも今後が期待させる者よの。志賀城の惨劇も大変であったな」
流石武家。そしてインテリ武将。情報が早い。
「あたしの式神を見てください」
朱莉が野宿火を出したり、大蜘蛛で柱に糸を巻く。
「折角だから茂玄に使えばいいのに。では、わたしも」
と言って、蓉子も風の精霊を使って見せる。朱莉と蓉子の能力が反対なら、確実にやられていたな。
「愉快、愉快。妖術の話は聞いたことがあったが、これ程の物とは。お主らも修行も大したものだ」
その時、馬の声が聞こえ、急ぎの伝令が来た。
「何事ぞ、失礼」
明智十兵衛様は飛び出していった。
葵衣は薙刀術があるから良いとして、芸のない俺は見せるものはない。ある意味助かったが・・・葵衣の曇った顔が気になる。




