第二章 第四十一幕 金色の大黒天像
信州から美濃に入り、東美濃の遠山領を悠々と抜けた。途中で葵衣から全国の状態を聞いたが、戦国時代真っただ中というのは理解できた。
美濃の大半を占める、斎藤領。斎藤道三は、一介の商人から大名にまでなったと思っていたが、親子二代によるものだとか。にしても、なんだかんだで身分を上げ大名になったのだから大物なのだろう。戦上手だし。
敵味方、協力や理解が見えないので、山越えで斎藤領に入った。
「できれば、この辺りで有力な協力者を見つけたいわね」
蓉子がぼやく。
「そうですね。身分が高い人にはなかなか会えないですし」
朱莉が思い出したように言う。西上野の長野様と会えたのは、ある意味幸運だった。
「豊受気媛の導きで、少年剣士疋田文五郎に出会えまし。そこから、大胡様、長野様と会えたわけだし、なんとかなると思います」
葵衣は励ましてくれた。
「豊受気媛は、今度はいつ現れて導いてくれるのだろう」
何気なく答えると、蓉子から鋭い軽口が飛ぶ。
「あらあら茂玄さんは、愛しの女神さまに会いたいのかしら。わたしたちよりも」
葵衣と朱莉には何を言っているのか判らないだろうが、的確な言葉は流石だ。
平野部に出て、西へと進路をとる。領内に入ってしまえば普通にしたほうがいい。気を使うのは集落と関所だ。
小川の淵で、若い侍が金色の何かを川に投げ捨てたのが見えた。
「あらあら、勿体無い」
蓉子のセリフだが、俺も同感だ。
侍が立ち去る所を葵衣が声をかけて話しをすることができた。
「失礼ですが、お侍様。何かを川に棄てていかれた様にお見受けしたのですが」
「あぁ、あれか。大黒天様の像だ」
「ありがとうございます。その失礼しました、私は草彅葵衣。仲間と共に武者修行の旅をしております」
「左様であるか。拙者は明智十兵衛。この先の明智城の者だ」
「もし、よろしければゆっくりと大黒天像の話を伺いたいのですが。構いませんでしょうか?」
ほう、と一瞬考えたが、よかろうと承諾してくれた。旅の話も聞きたいという事で、お城まで招待してくれた。
牢人の俺、薙刀使いの葵衣、陰陽師の朱莉、不思議な風格の蓉子の組み合わせに興味を持ったのかもしれない。
城への招待と言っても、身元の不明な者たちである。城下の屋敷に迎え入れられた。
何もない所だが、と言って席を進めてくれたが、葵衣と蓉子が奥に入り酒と肴を準備してくれた。流石に怪しまれるかと思ったが、素直に受け入れてくれた。
「あの像は一月ほど前、あの川のほとりに行ったとき水面に浮かんできてな。国譲りをしたとはいえ、一時は治められた神。しかも金色に光る像ときて、きっと御利益があると丁重に頂き、毎日拝んでいたのだが――」
神の悪口は言いたくないのだろう。言葉を選んでいた。
「大黒様は千人の長となる気運を授けるとの事ですよね?」
葵衣が助け舟を出す。
「そう。無知で恥ずかしいが、それを知らずに日夜拝んでいた。明智家は地方豪族に過ぎぬ。千人の長とは縁起が良いと養父に言われてな」
上を見て、考える。
「この下剋上の世。たかが千人の長で喜んでよいのやら。一万の大軍を率いる大将を目指して、やっと成れる位だと思うのだが」
「国主、斎藤様もそうですしね」
「そう思いなおして、自分を律し日夜励むためにも元に還したという事だ」
城までの道で、葵衣からこっそり教えてもらったのだが、この明智十兵衛は後の明智光秀。織田家臣筆頭にして、本能寺にて主を誅した人物なのだと。




