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第十五章 第一幕 聖なる水を求めて

「あの、兄様。秀吉さんを、このままにしておくのですか?」

 木下藤吉郎秀吉、後の天下人豊臣秀吉。中国西遊記の暴れん坊孫悟空。ひょんな事から出会い、山陰山陽を旅をした。

 中国の大仙人である太上老君が現れ、この邦に介入した孫悟空を連れ戻す。そして豊受気媛(とようけびめ)に対し、この邦で悟空が存在した記憶を消す様に頼み、実行された。

 葵衣から今後の歴史を考えて、秀吉の記憶も消してもらう様に豊受気媛(とようけびめ)に提案した。京の都から二日の強行軍で尾張に到着して、記憶の消去を実施してもらった。その時の衝撃で秀吉は気を失っているのだ。

 朱莉の心配は、城の近くとは言え放置して良いのかである。



豊受気媛(とようけびめ)。この秀吉は主君の信長に辺境調査と説明して、俺たちに付いてきたんだ。このまま全てを忘れていると、命に係る。その点もなんとかできないか?」

「美しいわたしに惚れて付いてきたのよね。だから、わたしの記憶も消しておいて欲しいわ」

「では豊受気媛(とようけびめ)様。私たちに出会う前、隣国美濃にて工作を行った事には出来ないでしょうか?」

「相分かった。そうするとしよう」

 豊受気媛(とようけびめ)は、再び術を施す。そして、竹中半兵衛が治めている稲葉山城の部屋に放置してきた。これで秀吉と半兵衛の繋がりができるであろう。あの半兵衛なら、秀吉を殺す事は考えにくい。


「とりあえず、今日は疲れた」

「そうですね。私もほっとして気が抜けてしまいました」

「じゃ、今晩は寝てしまいましょうか? 明日の事は明日にして」

「はい」

 葵衣の作った最後の携帯食を食べ、眠りに就く。朱莉と蓉子には疲れている所悪いが、結界等で安全を確保してもらう。俺も葵衣も見張りは無しで、眠る事ができた。




「あ、茂玄さん。おはようございます」

「葵衣、おはよう。今日も朝練か?」

「はい。日課ですから」


「ほんと、葵衣は出来過ぎよね。強行軍のあと、朝練して、朝食も準備して」

「蓉子さんも、持ち上げすぎですよ。食事は朱莉ちゃんも手伝ってくれるし」

「蓉子も少しは見習ったらどうだ?」

「ヒモのあんたに言われたくはないわね」

 確かに、俺は見張り位でほとんどが葵衣と朱莉に世話をしてもらっている。



「さて、美味しいご飯も食べたし。次は何処へ行く?」

「また温泉にでも行くか」


「あ、そういえば温泉ではないですが。ここから南西に向かった所に、霊的な水源を感じました」

「ここから南西……朱莉ちゃん、距離的に解るかしら?」

「そうですね……八里くらいでしょうか」

「ここから、南西に三十キロ。だとすれば、あの地かもしれないですね」

「葵衣。それはどこなんだ?」

「えっと……それは内緒です!」

 葵衣は意地悪ぽっく笑った。この笑いは無邪気な物で、きっと良い所なのであろう。また、葵衣の表情に見とれてしまう。




「もうちょっとですけど、ここでお昼にしませんか?」

「わたしは早く行きたいけど。案内役の葵衣を尊重するわよ」

「あと一時間位だよな? 俺も遅い昼よりは、ここで食べてゆっくり堪能したい」

「えっと、あたしも」

「じゃあ、全員一致。少し待っていてくださいね」

 川のほとりで、葵衣と朱莉の食事を待つ。



「なぁ蓉子。葵衣の目的地ってどんな所だと思う?」

「場所を明かさないという事は、温泉みたいな娯楽施設じゃないんじゃない?」

「そりゃそうだ。でも朱莉は水を感じていた。温泉出ないなら、湖か。でも、そんなに単純とは思えない。そうなると――」

「茂玄さ。食事して、一時間で正体が判るのよ? ない頭で考えても意味が無いでしょ」

 蓉子は盃を空にして、俺に質問を投げ掛ける。


「そうなんだけど、あの葵衣の表情。期待するなと言うのが酷だぜ」

「はいはい、思春期の発情かしら。ま、でも楽しみは楽しみよ」


「お待たせしました」

「お。美味そうだが……でも、なんか喉が渇きそうな料理だな」

「見た目より薄味ですから、そんなに渇きませんよ」

 葵衣の言う通り、そこまで辛くはないのだが。少し口の中から水分が抜けるような感じがする。常糧袋から水を出して飲むこともできるが、葵衣の下準備なら我慢するべきだろう。


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