第二章 第三十八幕 茂玄の自問
俺は出て行った蓉子を見つけるが、彼女の考えを聞かされ力が抜けて膝から崩れ落ちた。
「三日間だけ待ってあげる」
蓉子が最後の救いの言葉を差し出した。
「わたし達は、その間旗揚げ神社にて過ごす。もし、わたしたちに言うことが有れば、そこで聞くわ。くれぐれも、迎えに来てくれるとか甘ったれた考えはするんじゃないわよ。これで良いわよね? 葵衣、朱莉」
朱莉は不満げであったらしいが、豊受気媛の無言の頷きを見て蓉子についていった。
「兄様、信じていますから」
という言葉を残して。
さて、残るは俺、豊穣の女神豊受気媛、北欧の戦乙女オルルーン。
「蓉子も甘いわね。茂玄なんか置いていけばよいのに」
やれやれと言った感じで、首を左右に振って呆れている。多分俺に対してだが。
「言っておくけど、因果で出会ったからとか、家族を助けてくれたお礼とか、そんな言い訳は通じないからね。自分の正直な気持ちを言わないと、頭の悪いあなたの良い訳なんか蓉子は直ぐに見破るからね」
そう言い残すと、オルルーンは豊受気媛に捨て台詞を吐いて空に舞い上がった。
「あとは、や・さ・し・い・魔女狐様がなんとかしなさいね」
「吾は、とりあえず立ち去るが、何かあれば問うてみよ」
豊受気媛も消えていった。
俺の気持ちにシンクロするように、空が曇りはじめ氷雨が降り始める。しかし、一歩も動けない。
女神と天使が導いた四人が出会い、当たり前の様に過ごしてきた。ゲームやアニメの影響なのだろうか。
見捨てられた? いや、朱莉は信じていると言ってくれた。でも葵衣や蓉子は? 何にも役に立てていない俺は必要なのだろうか?
力なく立ち上がり、とりあえず雨宿りができる徳音寺に向かった。
蓉子の放った精霊魔法で、背後にいたモンスターは倒されたらしい。その時に出来た頬の傷をさすりながら思い起こす。
蓉子は怒っていた。なぜ怒るのか?
三日間待つと言っていた。なぜ待っていてくれるのか? 答えは簡単だ。
なんだかんだ言いつつも、まだ俺を信じていてくれている部分があるからだろう。
空想世界では、あんなにキャラクターの心情が解るのに、不思議なものだ。鈍感系主人公は俺自身であったのだ。
ただ、ここはリアルな世界。もちろん、やり直しも効かなければ、その責任は全て自分が背負うことになる。オルルーンも言っていたが、口先だけではダメだ。俺自身が本当に考える必要がある。生半可ではダメだ。
夜になり、月が煌煌と照らしている。満月にはまだ少し足りないな。まだ二か月経っていないのか。頭を使い過ぎた俺は、倒れるように寝てしまった。
知識、格闘、料理は葵衣にかなわない。妖怪の使役や妖怪知識は朱莉にはかなわない。精霊・魔術、頭の回転では蓉子にはかなわない。
俺の勝るものはなんなのだろうか? オタクの知識、ゲームやアニメの知識がなんの役に立つのか。
夜の帷が深くなり、俺の気持ちは凪いでくる。一層の事、武士らしくここで腹を切って詫びるか――しかし、ここで躊躇する。
朱莉は信じていてくれると言ってくれていたじゃないか。ここか? この朱莉を理由にしているのが悪いのだろうか。
居ても立ってもいられなくなり、木曽義仲、巴御前の墓前で冥福を祈る。朱莉の反魂の術が無いのでもちろん助けはない。
この二人はなぜ、歴史に名を刻むことができたのか。俺の家族を含め、多くの者は子孫に名を残すのみ。
しかも時代が下れば誰もからも忘れられる。しかれど、皆その日その日を生きている。喜怒哀楽を共にして支えあっている。
俺は彼女たちと共に支えられる人物たるのであろうか?




