第二章 第三十五幕 蓉子の怒り
葵衣が巴御前の特訓を七日七晩行っている間、俺たちは蓉子の口から出まかせが真実になり、妖怪退治を行った。
さて、約束の夜。俺たちは巴御前の御霊が宿る徳音寺に向かう。山門をくぐり庭に向かった。
そこには、巴御前の霊が立っていた。葵衣は御神木に背中を預けて眠っていた。
七日七晩ほぼ休むことなく特訓を受けていたのだろう。その体力・精神力には脱帽以外の何物でもない。
「茂玄たちよ、お迎えご苦労である。葵衣は約束通り短期間で我が道を受け継いでくれました」
「葵衣の特訓は、無事に終わったんですね。あんなになるまで頑張るなんて!」
「普段の鍛錬に加え、我の実戦経験を積み重ねたことにより、無銘の武士など相手にならないであろう。そして我はまた永い眠りに就くことにしよう」
「あの、せめて葵衣が目覚めてから、別れをさせてあげられませんか? あんなに尊敬し、憧れ、頑張ったのに……」
蓉子は、舌打ちをして横を向く。本当に機嫌が悪い。俺また何かしでかしたのだろうか?
巴御前は静かに首を横に振るい消えていった。
巴御前が消えたのを確認した朱莉は、力なく倒れかかる。俺は慌てて彼女を受け止める。
「朱莉、どうした。大丈夫か?」
朱莉は力が抜けたのを申し訳なさそうにしながら答える。
「兄様、大丈夫です。少し疲れただけですから……」
朱莉と葵衣を本堂に運び、横たえる。葵衣、お疲れ様。
俺は、本堂を出て星空を見上げる。
葵衣は良く頑張ったんだ。きっと、強くなっている。そして、満足しているだろう。
最後に別れを言えなかったのは残念がるだろうけど――。
そして、朱莉も四ツ目入道という新しい式神も手に入れ順風満帆な旅だ。
伸びをして、満足げに想う。
「茂玄」
蓉子が呼びかけて来た。
「なんだ?」
清々しい声で応える。
しかし、予想だにしない事が起きた。頬に平手打ちを喰らったのだ。
「え、なんだ? いきなり。何するんだ!」
俺は怒りを露わにした。
「最初からしょうもない男だと思っていたけど、ここまで馬鹿で無能とはね。怒りを通り越して、これ以上ない怒りと呆れしかないわ」
「もうやってしまったけど、平手打ちする価値もない男。この右手が汚らわしくなってしまった」
本当に言いたい放題言われ、俺は何が何だかわからない。
蓉子は回れ右をして、立ち去ってしまった。




