第十三章 第五幕 飛騨の名山
俺のあざの治療方法を求め下呂温泉から北上する。途中朝六橋の伝説の目の当たりにした。
「豊受気媛様は、どういった思惑があったのでしょうか」
「あいつの気まぐれでしょ?自分が与えた宝を大事にしないからと、罰を与えるなんて器が小さい過ぎるわよ」
蓉子の機嫌は悪い。ハッピーエンドかバッドエンドかも不明。そして豊受気媛がトリガーを引き、最後は橋が光るという奇跡がついている。
「兄様は、どう考えますか?」
「俺か?そうだな・・・単なる数多の不思議話の一つなんじゃないか」
「あたしたちの知らない不思議な事が多いという事でしょうか?」
「そうだ。俺たちの旅が関係している物もあるだろうし、昔からある神話もあれば、これから作られる物もあるんじゃないか」
「そうですね。あたしたちは奇跡を目の当たりにしたんですね!」
川を上って、高山地方に到着した。この地は現在、上杉と武田の前線でもある。といっても三木氏と江馬氏の勢力争いに上杉と武田がバックについている。信州北部で起きた川中島の合戦。その派生戦争でもある。
この地域で、一番霊験あらたかな寺に向かう。袈裟山千光寺。弘法大師の高弟である真如が約七百年前に建立。袈裟山自体は、約千二百年程前に両面宿儺という二面四臂の怪物の様である。
「阿修羅みたいな三面六臂はよく見るけど、両面宿儺の二人というのは珍しいよな・・・」
「茂玄にしては詳しいじゃない」
「まぁ阿修羅は敵味方両方で出てくるし。でも両面宿儺は化け物扱いしか見たことないよな」
「えっと、阿修羅様は、仏教界の八部衆の一人。つまり、仏陀様を守護するもの。また同時に帝釈天との闘いによって天界を追われた仏敵ともされているんです。きっとゲームでは、そんな部分が反映されているんでしょう」
「両面宿儺さま。こちらは天孫降臨からの天皇家による、この邦の支配。それに敵対した英雄だと思います」
「朱莉ちゃんのいう通りですね。大和朝廷に敵対した勢力は、土蜘蛛、熊襲、手長足長などと人扱いされず、討伐されていきました」
「それで朱莉が契約した手長足長は、始めは嫌がったんだな」
「はい・・・」
大和朝廷に敵対したなら、日本書紀などでは敵だ。この寺の様に祀っている処が少なければ敵キャラにもなりうるだろう。俺自身も手長足長自体も妖怪だと思っていたし。
「葵衣さ、修羅場と阿修羅って関係あるの?」
「うーん。蓉子さんの希望通りかは解りませんが、関係はあると思います」
阿修羅の阿は接頭語の一種。阿弥陀と同じ様なものだ。そして、天部から追放された修羅は地獄の六道の一つに数えられて、厳しい道を修羅道とかと呼ぶという。
「茂玄の修羅場を見てみたいわね」
「へー、蓉子も言うじゃないか。どうやったら修羅場になるんだ?」
修羅場とは、浮気の場を見られて混沌とする場所である。葵衣は意中ではあるが、葵衣はみじんも感じていない。朱莉は妹の様な物だ。仮に蓉子と恋仲になったとしても・・・考えられるシチュエーションはない。
「え、何?茂玄は気がついていないの・・・哀れね・・・」
「え?」
蓉子は意味深な事を言って、後は黙ってしまう。朱莉は修羅場の意味も解らないようだし、葵衣も何が該当するのだろうかという顔をしている。
「なぁ、蓉子?」
・・・
「あの、蓉子さま?」
・・・
「蓉子、すいませんでした」
俺の土下座に対して、よろしいと言葉をかけて終了した。
「今日は、この寺の宿坊にお世話にならないか?」
「えっと、その意見には賛成ですけど、泊めて貰えるでしょうか?」
「葵衣?」
「いえ、川中島の合戦も確か今年が五回目だと記憶しています。その緊張している所で、私達の様な武芸者を泊めていただけるかな、と思いまして」
「いいんじゃない?頼んでダメなら、その時考えれば」
「まぁ、そうだな」
葵衣たちの会話の端々に、俺のあざを示唆している様に感じる。蓉子から、三人が薄々感じていると言われているからかもしれないが。
葵衣と朱莉の交渉によって、宿坊を借りる事ができた。ただし、男女は別。葵衣たちは一ランク下の宿坊となる。蓉子はブツブツ文句を言っていたが、真言宗など割と古い仏教は男女の格差が大きい。これは、あとで穴埋めをしないといけないなと思う。
俺は布団に入り、あざのできた位置をさする。これは狂戦士と化した代償だろう。あの剣は折れてしまい、豊受気媛が没収。あのあと、モンスターとの小競り合いは何度もあったが、いつも通り俺は参戦していない。そのお陰か、あざは広がるも治るもない。まぁ、葵衣の綺麗な体にあざがつかなかったのは不幸中の幸いである。俺の娘でもないし、恋人でもないから単なる俺の願望だ。
しかし、どうするべきか・・・と考えている内に眠ってしまう。
「茂玄よ」
野太い声が、俺に語り掛けてきた。




