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第二章 第三十三幕 巴御前の御霊

 蓉子(ようこ)の助け舟もあり、葵衣(あおい)の夢と思える巴御前の墓参りに行くことになった。場所は近くの徳音寺(とくおんじ)




 徒歩にして三十分もかからない場所にそのお寺はあった。平安時代の英雄が眠る寺にしては真新しい感じがする。

 村興しって、この時代にもあったのだろうか?  そんな理由も財政もないと思うが。


 葵衣に理由を聞くと、以前は山にあったらしいのだが、土砂崩れで寺が半壊。数年前にこの場所に移されたのだという。

 元々亡くなった場所ではないから骨は無く、魂を迎えるためのお寺だろうから自由なのだろうなと思う。



 木曽義仲の墓に参り、続いて隣に建つ墓に向かう。伝説にもなった女武者巴御前の墓だ。葵衣にとっては憧れの人物であり、感動も一入(ひとしお)だろう。


 葵衣が心清らかに、安らかな眠りと憧れの人物に想いを語っていると思う。

 隣で、蓉子が朱莉(あかり)に合図を送る。朱莉はうなずき、白い人型の紙を取り出し何か呪文を唱える。


「葵衣よ」

 歳をとった声が聴こえ、葵衣の前に老婆の霊が現れる。

 巴御前のその後については色々な説があって不明らしいが、老婆の姿で現れたということは天寿は全うできたのだろう。


 俺は驚きと共に朱莉を見る。反魂の儀とも言うべきものか。

 葵衣は、涙を流していた。本当に尊敬していたことが肌身にしみる。


「少し、失礼した」

 と老婆の霊が言ったと思うと徐々に若返り、三十近い綺麗な女性の姿になっていた。凛々しくも整った顔立ち、綺麗な黒髪、服の上から見ても想像できる引き締まった肉体。

 葵衣も歳をとったらこうなるのであろうか。俺は見とれてしまう。



 突然の出来事で、嬉しさと驚きで声がでない葵衣。

「私は巴。義仲様の最期を見届けられなかった、不出来な女」

 自己紹介を聞き、巴御前である事がはっきりした。



「我などに、心からの冥福。嬉しい限りである」


 葵衣の薙刀を見て、巴御前は声をかける。

「そなたも薙刀を振るっておるのか? 戦の世で女子(おなご)が振るうとは悲しき世ぞ」

「滅相もございません。巴御前様の話を伺い、憧れ、始めた物ゆえ。今はただ仲間の為に振るえる事こそ喜びと感じております。そして今、巴御前様に逢うことができ、言葉を交わせる奇跡に感謝の念が尽きません」


 巴御前は優しく微笑む。

「こうして逢えたのも何かの縁。もし、そなたが望むのであれば、我が流儀を教えてしんぜよう」

 葵衣は、一瞬目を輝かせたが、いつもの顔に戻る。

「折角の申し入れですが」


 言い終わる前に、俺は口を出していた。

「俺たちの事は気にするな。伝説の巴御前様に教えていただけるチャンスを無駄にすることはない。たっぷり稽古をつけてもらうんだ!」

 朱莉は笑顔でうなずき、蓉子は頑張れよとジェスチャーする。


 葵衣はうれし涙を流していた。そして、涙を拭き去り巴御前に向き直り頭を下げて言う。

「よろしくお願いいたします」



「どれくらいかかるのかしら?」

 蓉子が尋ねると

「七日七晩でやり遂げたいと思います」

 葵衣が力強く応える。そして強い決意を顔を現す。

 巴御前も、よかろうと応じ、葵衣に対し頑張れという顔をした。


「勢いで、勝手に時間を決めちゃってごめんなさい。茂玄(しげはる)さんたちは……」

「なんか、この近くの山に妖怪が居るようなので朱莉のエサにしてくるわよ」

 蓉子が勝手に言い出し、朱莉が少し頬を膨らませる。


「特訓、頑張れよ」

 俺は葵衣に声をかけ、朱莉、蓉子と共に妖怪退治に出かける。葵衣は俺たちが見えなくなるまで手を振っていた。


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