第二章 第二十七幕 悲しい再会と望まない再会
拠点としていた廃寺に戻り一息ついて、それぞれが自由に過ごしていた俺たち一行。酒を呑んで鼾をかいていた蓉子も瞬時に臨戦態勢入る。蓉子と朱莉の結界に反応したようだ。
装備を整えた俺たちは様子を探りに行く。森の奥から具足の音がして、現れたのは志賀城落城時に討死したと思っていた笠原様だった。
血の気の引いた笠原様を見て、思わず声をかけようとするのを葵衣が止める。
笠原様を筆頭に、援軍に来ていた高田様の姿や、志賀城の相談役で俺の師匠でもある玄晏和尚の姿もあり、その数十人ほど。
見ていられなくなった俺が駆け寄ろうとするのを、葵衣が前に出て薙刀で制する。他のパーティーメンバーも緊張の面持ちが一層激しさを増している。
彼らが立ち止まり、左右に分かれたと思うと異形の侍が進み出る。
隻眼(注:片目)に醜い顔。片足は不自由らしくビッコをひいている。志賀城の水の手を止めに来た軍師、山本勘助である。
「これは一体・・・」
俺は誰も答えの出せない質問を口にした。
「死者を愚弄する事は許されません」
朱莉が強く訴える。
「茂玄にも解る様に言えば、ネクロマンサーと言ったところかしら」
流石の蓉子も緊張で顔に汗が出ている。
「ケケケ。この国の者ではないな」
しわがれた声で、山本勘助が答える。
「私達が逃がした人たちを狙っているの?」
葵衣が刃を向けながら質問する。
「あんな小物らに用はない。儂が欲するのは、お主らの様な力有し者」
言い終わるや否や、武装した元武士たちが襲い掛かってくる。
笠原様の斬撃に対し、葵衣が薙刀で払いのける。
「死体は焼かないとね」
と蓉子は炎をぶつけるが怯む様子もない。
朱莉は山本勘助に向かって大蜘蛛の糸や雷獣の攻撃を行うが彼の剣で防がれている。もはや人間業ではない事は明らかだ。
ネクロマンサーに死体とくれば、ゾンビ。ゾンビと言えば聖水が有効なはずだ。蓉子に伝えるが、やれやれと言った感じで水を出す。が、効いている気配はない。
何故だ?
「聖水は、神の力の水よね?わたしのは精霊の水。効くわけないでしょ」
ふむ、なるほど。と感心している場合ではないのだが。
「笠原様、玄晏和尚。茂玄です。武居茂玄です。どうかお気をたしかに」
呼びかけるが変化はない。葵衣は善戦しているが、蓉子も朱莉も有効な手は打てていない。どうするべきか。
葵衣は鋭い攻撃をし、相手が怯んだ隙を見て距離を取る。
「朱莉ちゃん。不如帰で雨を降らせ、雷獣をそこに」
朱莉は最近契約した雨を司る憂国のホトトギスを呼び出し、彼らの頭上に雨雲を発生させる。次の雷獣を呼び出す合間に葵衣は腰の袋から包みを取り出し雨雲に投げる。包みからまき散らされた粉は雨水に溶け、そこに雷獣が走る。
「みんな、逃げて。落ち合う場所はダイダラボッチ」
葵衣の声が響く。
焦げ臭さと腐った肉の交じり合った様な異臭がする。ゾンビたちは黒焦げになり、その場に崩れていた。山本勘助も無傷では無い様だ。
それぞれが散らばり走り出す。俺も皆とは違う方向に走り出した。目の端に葵衣が寺の中に入るのが見えたが、今は葵衣を信じるしかない。
一体何がどうなっているのか。葵衣の指定したダイダラボッチ。朱莉が召喚した蓼科神社に急ぐ。全員が無事に再会できることを願いながら。




