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第十章 第五十七幕 宝積寺顛末記

バラ―と共に行方不明となった、セタンタさんとモリガン。その直後に小幡図書の手勢が宝積寺(ほうしゃくじ)を襲撃し、寺は灰燼と化した。




「彦三郎さん。ご無事でしたでしょうか?」

「ありがたき事に。みなさんが居られなければ、私たちは図書の手勢にやられていたでしょう」

彦三郎さんは目を固く閉じ、奥さんは袖で涙をぬぐっていた。



「とりあえず、誰も犠牲が出ずに良かったです。図書の配下にはきつく言ってあるので、もう襲う事はないでしょう」

「おや、あの槍を持たれた方は?」

俺は、葵衣を見る。葵衣は首を縦に振った。




「信じられないかも知れませんし、また俺たちが原因なのかもしれません」

俺は彦三郎さん夫婦と主従。そして、寺の僧たちに語り始めた。


強い妖気を纏った鬼が現れた。それを察知して、蓉子に避難を頼む。

彦三郎さん一行が避難したのち、俺たちは苦戦。洪水にのまれ、その鬼とセタンタさんは行方不明。

この騒ぎを好機と見た、図書の手勢が寺を焼き討ちにした。しかし、葵衣が全て撃退。最後の仕上げに、俺たちは図書の元に行く。


魯岳(ろがく)和尚。私たちが至らなかったせいで、大事なお寺を・・・」

「いやいや、葵衣さん。寺など建物に過ぎません。お仲間が行方不明になられ、心中お察しします。されど寺の者、小幡様たちも無事であられた。これに勝る事などありますまい」



「少し強行軍になりますが、皆さまを箕輪城にお連れしたいと思います。娘さんの顔を見れば、長野様もお喜びでしょう。そして、彦三郎様たちの庇護と寺の再興も」

「姫は拙者が背負って参ります。姫は、無礼のご覚悟を」

「彦三郎さま・・・」

「ここは、そうしよう。強行軍とは山を越える事。お前の体では無理であろう」



「茂玄さんたちは、良いのですか?お仲間を探さなくても?」

「心配はありがたいけど。ただ洪水に呑み込まれた。少し探して見つからなかったわ。わたしたちは旅の武芸者。いつ命を落とすか。その覚悟はできているわよ」

「あの人はとてもお強いです。きっと、この洪水も切り抜けていると思います。ただ、探すにしても、少し水が引かないと・・・」


「蓉子や朱莉の言う通りです。俺たちは長野様に報告をしなければならない。そして、すぐに次の行動に移らないといけません。ですから皆さんが意を決し、箕輪城に向かってくれるのが一番ありがたいです」



俺たちは、避難した人たちを箕輪城に案内した。左程高い山とは言えなくても、道はない。悪いが、姫さんでは無理だろう。家臣のお陰で、昼過ぎには箕輪城に到着した。



長野様に謁見。宝積寺と小幡図書の件を報告した。

長野様は、娘と婿の登城に喜び、また忠臣たちをもてなした。そして、寺の再興も約束してくれた。



御前から下がった後である。

長野様の前では話さなかったが、一名出発時から抜けていた。魯岳和尚である。


「まさか、途中ではぐれたんじゃ・・・」

「茂玄。あの和尚は自らの死で、寺を焼いた事を詫びる気よ」

「蓉子、なんで止めなかった?!」

俺は蓉子をゆする。


「止めてよ無駄よ。わたしたちが優しくすれば、その分傷つく。だから、道から逸れた和尚の事は言わなかった」

「兄様・・・」

「あぁ。分った。蓉子が認めるからには、俺たちでは無理なんだろう」


なんだかんだで、蓉子は良く人を見ている。そして、死に得など絶対に許さない人間だ。その蓉子が言い切るのだから、無理なんだろう。



「よしとりあえず、セタンタさんたちを探そう」

「はい、兄様」

「朱莉。恥ずかしいかもしれないが、一つ頼まれてくれないか?」

「なんでしょうか?」

「俺が負ぶって歩くから、朱莉は四ツ目入道で川の状況を見てくれないか?」

「茂玄さん、あの姫様を見て思いついたのですか?」

「あぁ。できれば情報は多く欲しい」

「ま、兄妹で仲の良い事」

「恥ずかしい事は恥ずかしいですが・・・でも、直ぐに山に入るんですよね?なら、頼みます」

「ありがとう」





「なぁ、葵衣。モリガンはなんで、自分の身を投げさせたのかな?」

「えっと・・・あくまで私の考えですけど」

葵衣は、モリガンの行動と影響の推理を教えてくれた。


モリガンは、戦と破壊の女神。彼女の体を通過する事で、ゲイ・ボルグの威力が増したのではないか。セタンタさんの攻撃でもダメージを与えていたとは思えない。モリガンの力で増幅されたからこそ、倒せたのではないか。


「ま、あの化け猫も神さまの一人なんでしょ?あの程度では、死なないわよ」




山を越え、宝積寺の麓に着いた時である。川の底に、梵鐘が沈んでいた。そして、住職魯岳和尚の亡骸と共に。

俺たちは小さな石塔を立て、和尚の冥福を祈る。


また宝積寺からの下流では、洪水の爪跡が多く残っているようだ。これは、朱莉の四ツ目入道からの情報だけで、実際に見に行かなければならないだろう。俺たちの、いや俺の責任でもある。


そして、途中の村で風の噂で聴いた小幡図書の動きである。

宝積寺を襲った手勢は、大天狗によって蹴散らされた。しかし、その天狗も遂に力尽き、巨石の上で自害。そのまま死体は風で空に舞ったという。

残された兵は、その激戦から這う這うの体(ほうほうのてい)で戻り、図書はそれ以降手を出さないと宣言したという。

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