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第二章 第二十五幕 北欧神の訓戒

 榛名湖の伝説。悲劇の姫と従者たちを救った俺たち。

 俺は酷い目に遭ったが、蓉子(ようこ)はどこ吹く風。

 力が増したことを喜んでいるのか、右手に着けている指輪を磨いたり、太陽に透かしたりしていた。



 一段落した所で、北欧の戦乙女(ヴァルキュリア)オルルーンが俺たちの前に舞い降りてきた。

茂玄(しげはる)の泳ぎ方は初めて見たわ。流石東の小国。文化が違うわね」

 溺れていると分かっているくせに。


「蓉子も容赦がないわね」

 口だけだという事は口調と顔から判断できた。

「蛇と蟹とは面白い組み合わせだったので、ちょいと覗いただけよ」

 蓉子とオルルーンには似たところが多いような気がする。



「さて、我が主オーディン様の万物を見通す力によって分かった事らしいけど」

 と前置きをして語りだした。

 内容に入る前に、オーディンを中心とした北欧神話について整理する。

 神話は主に四つの世代に分けられる。天地創造、オーディンの物語、神々の黄昏(ラグナロク)、終戦後の新たな世界。

 オーディンはラグナロクに対し、戦力増強のため戦で命を落とした英雄を迎え日々訓練させている。その英雄の選別、案内、世話係がオルルーン達戦乙女なのだが。



 因果の乱れによって、オーディンの見えていた未来とは結末が変化しているとの事である。北欧と日本のこの時代だけではなく、あらゆる世界・次元に繋がり相互にパワーバランスが崩れているのだとか。

 俺たちには、歪みの特異点の様な物が有るようなので注意するように。そして、他世界からの介入を排除するようにと。



「確かに伝えたからね」

 と言い残すと、オルルーンは飛び去って行った。


 オルルーンの話が終わり、ポカンとしている朱莉(あかり)に北欧神話について話す。

 俺たちのいた時代では割と有名なので蓉子も葵衣(あおい)もイメージはあるだろうが、この時代に生まれ、他の世界を知らない朱莉にはちんぷんかんぷんなのは理解できる。

 俺は、教師面をして朱莉に北欧神話のあらましを説明した。


 朱莉は興味津々で、目を輝かせ聞いている。自分の知らない事に詳しい俺への尊敬の眼差しといったところだろう。

 蓉子は、偉そうに語っている俺に哀れな眼を向けている。


 葵衣が補足に入る。

「えっと、茂玄さんの説明も間違いではないけどが……」

 ラグナロクは英語の発音で、オルルーンの説明では『ラグナレク』

「神々の運命とでも訳すべきだとは思います」


 葵衣は申し訳なさそうにしている。

 俺はゲームやラノベ程度の知識しかない。三毛介に慰められ、恥ずかしさと情けなさでその場から逃げたかった。


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