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第二章 第二十二幕 無邪気に敵なし

 箕輪城で長野様に志賀城の件を報告した俺たちは、宴で歓迎された。一部冷っとしたことはあったが。



 次は大胡城へ向かう。そこにはライバルと思っている奴がいる。

 疋田文五郎。十歳の少年剣士だ。まぁ向こうはそうは思っていないと思うが。



 戦乱の世とはいえ、この辺りは割と平和である。平野部を通るだけなので楽々と移動ができた。

 朝ゆっくり目で出立したが、昼過ぎには到着した。大胡城に到着し、門番に用を告げると割とすんなり入ることができた。


葵衣(あおい)姉様!」

 元気な声が俺たちを迎えてくれた。

茂玄(しげはる)さんも、蓉子(ようこ)さんも、朱莉(あかり)さんも久しぶりです!」

 少年らしいハキハキした声で挨拶してきた。

「文五郎君は、毎日稽古している?」

 葵衣が挨拶しかえす。

 もちろん、と文五郎は胸を張って答えていた。


「葵衣姉様、今日も稽古つけてください!」

 無邪気にお願いをすると、葵衣は了承していた。葵衣と互角に稽古を付けられる文五郎に舌を巻くとともに、俺では相手にもならずお願いもできないヘタレ具合に苦笑いする。



 文五郎の案内で、大胡武蔵守様に目通りする。

 長野様に報告した内容を同じように説明した。

 大胡様の目下の相手は北条家であるが、武田の仕打ちには眉を(しか)め今後の信州を心配していた。

「葵衣殿、文五郎に稽古をつけてもらえるかな?我が甥ながら腕白でな。力試しをしたい様なのだ」

 旅の装いから、練習用の服に着替え文五郎の稽古に入る。

 何度見ても見事だ。文五郎の太刀筋は粗いものの的確に急所を狙ってくる。一方の葵衣は、剣道の形を思い起こすような無駄のない太刀筋で受け反撃する。


 文五郎には才能があるよな。と改めて思いなおす。彼は葵衣をどの様に思っているのだろうか? 朱莉の件で、蓉子の言葉を思い出す。

「あんたは、しょうもないバカね。女はいくら小さくても女なの」

俺はあれぐらいの時、どんな思いをしていたのだろうか。

別に葵衣は俺の彼女というわけでもない。でも、誰にも渡したくはない。思いがグルグルと回る。


「葵衣姉様は流石だな。一本もとれないや」

「文五郎君も、筋が鋭くなってきたわね。その内こてんぱんにやられちゃうかも」

葵衣は笑顔で文五郎を褒める。二人とも汗で体から熱気を感じる。

「なぁ、文五郎。疲れているところ悪いけど、俺に剣術の指導してくれないか?」

 子どもらしい無限の体力なのか、ニッと笑って準備をしてくれた。

 葵衣は、その間に湯浴みをしてくるとか。



 夕餉の時間、大胡様と席を同じにして貰えた。

 文五郎は葵衣との稽古を興奮しながら叔父に話し、長野様はうんうんと満足げに聞いていた。大胡様も武術が好きなんだろうな。


 話が盛り上がってきた時、ヨタ話として榛名湖の伝説の話が出てきた。

 湖の神に魅入られた姫とその従者たちの悲劇だった。

 普段は何を考えているか判らない蓉子が興味を示し、聞き入っていた。


「ねぇ、明日行ってみない?」

 まぁ行くのは構わない。文五郎が付いていきたいと言ってきたが、蓉子はそれを上手くはぐらかし同行を拒否していた。


 榛名湖には何があるのか、蓉子は何を考えているのか。釈然とはしないが、文五郎が同行しない事に安心を覚え床に就いた。


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