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第二章 第二十一幕 志賀城派兵の裏で

 閼伽流山(あかるさん)仙人ヶ嶽(せんにんがたけ)

 朱莉(あかり)はそこで雨を司る新たな式神不如帰(ふじょき)を得た。


 佐久から西上野に通じる街道を避け、南側の山道を通り、箕輪城に着いたのは二日後の昼だった。

 休憩の度に朱莉は不如帰との絆を高めるために呼び出してはコミュニケーションをとっていた。次の活躍に期待しよう。


 以前とは異なり、箕輪城への入城と長野様への謁見はスムーズに進んだ。

「長野様、この度はご助力ありがとうございました」


 葵衣(あおい)が平伏した。

 俺たちも倣って頭を下げた。

「遠路はるばるご苦労であった。夜に宴を開くため少し休むが良い」

 と気を使ってもらった。

 足湯をしたり、三毛介と遊んだり、誰とは言わないが城の兵と博打をしたり、それぞれゆっくりと時間を過ごす。

 夜になり、簡単な食事と酒と肴が出されて宴が始まる。


 関東管領の派遣軍が大敗退した件、城を囲んでの惨たらしい見せしめの件、志賀城の落城や笠原様、援軍の高田様の討死の件。流石に情報は耳に入っているようだ。

 事前に葵衣から口止めされていたので、奴隷商からの救出の件は話題にしなかった。


「開戦前に、葵衣殿と話しをしていたが」

 と長野様が話し始めた。

 東海一の弓取り、武田の小童、北条の成り上がりが、協力体制を整え、今川家は三河・尾張、武田は信州、北条は関東に進出する考えに落ち着く可能性がある。よって、北条・武田の両面抗争は避けるべき。


 西上野から佐久への街道は一本しかなく、出口で待ち伏せされたら大軍も用をなさない。

 そろそろ、米の収穫時期で農民兵の多い武田勢は長期包囲ができない。

 と葵衣は遠征が不利な点を言ったとの事。

 結果的には、水の手を切られ、平野部で戦ったのだが。


 長野様が続ける。

 関東管領様に、それらの点も含めて諫めたところ、逆にムキになって出陣を決めたという。

 昨年の戦いで、息子を亡くしたことに臆したかとか、腑抜けは戦場にくるなとかも言われたらしい。

「武士が戦場で死ぬのは武門の誉れ。その点で臆する事はないのだが……」

 長野様は、少し上を見上げ亡くした息子の顔を思い出しているのだろうか。


「多数の犠牲者を出したのは、儂の責任かもしれんな」

 大勢の戦死者。志賀城への仕打ちへ使われた事。

 自分が陣頭指揮を執っていれば、また変わったのかもしれないと後悔しているようだ。



「あらあら、長野様ったら。わたくしのお酌で愉しく呑みましょう」

 蓉子(ようこ)が、長野様の隣に座り、酒を注ぐ。

「いやいや、せっかくの宴。暗くして申し訳ない。美人に注がれる酒は格別じゃ。そちたちの無事と活躍を祝そうではないか!」

 流石は蓉子だ。

 武芸の話や、非番の兵から博打で大金をせしめた話、式神のデモンストレーションなどで宴は盛り上がる。

 気をよくした長野様はふと思い出したように、語りだした。


「葵衣殿は、知勇兼備で器量も良い。牢人にしておくのは惜しい。我が家に入らんか?」

 俺は一瞬固まった。この時代では葵衣は結婚適齢期だ。こぞって欲しがるだろう。

 一月程しか経っていないが、一緒にいるのが当たり前だと思っていた。


「お言葉はありがたいですが・・・私は自分の道を極めたく」

 長野様はちらりと俺を見て、大声で笑う。

「がははは。であるか。であるか」

 蓉子(ようこ)は俺を見て、ニヤリと笑う。朱莉も心配したようだが、葵衣の言葉を聞いて安心したようだ。



 長野様はもっとこの愉快な時間を堪能して居たい様ではあったが、朱莉の体力と明日からの旅のために体調を整えたいと切り上げてもらった。

茂玄(しげはる)さん、ごめんなさいね。故郷を見捨てるような事だったから・・・」

「大丈夫。気にしていない。母と妹だけでも助かったんだ。俺が礼をしたいぐらいだ」


 明日は大胡の城。漢の闘いが始まる・・・のだろうか?


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