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第八章 第二十二幕 屋敷の主は盛衰を齎(もたら)す

八幡宮の北西にある小さな町、山ノ内に到着した。

安倍晴明が縄張りを行ったという家屋を調査すべく、家主の調査を行う事になった。




「平家にあらずんば人にあらず。その平家も衰退するけどね」


蓉子は酒を煽りながら、欠け始めた月を見て語る。

まるで、月の満ち欠けと繁栄と衰退を重ねて見ているのだろう。


聞き込みから戻り、夜に集まって情報交換をしていた時である。



栄枯盛衰(えいこせいすい)という言葉がありました」


葵衣が平家物語を語る。


”祇園精舎の鐘の声

 諸行無常の響きあり


 沙羅双樹の花の色

 盛者必衰の理をあらはす


 奢れる人も久からず

 ただ春の夜の夢のごとし


 猛き者も遂にはほろびぬ

 偏ひとへに風の前の塵におなじ”



朱莉は、蘆屋道満の家系。

安倍晴明に敗れたものの、今まで面々と続いている陰陽師の血筋が続いている奇跡を感じているのかもしれない。



なぜ、この様な雰囲気になっているのか。

町にて聞き込みを行う中、興味深い情報を得る事ができたからだ。


この屋敷は安倍晴明が造った。

つまり、六百年程前の事である。

伝承も含まれるが、この家の主は次々と変わっている。


維持費に金がかかっている。

普通ならそう思うかもしれない。


ここの主になった者は、この家を買えるほどの金持ちだ。

しかし、主になると急に羽振りがよくなる。

そして、いつの間にか貧乏になって、いつの間にか町から居なくなっていった。



そして現在は空き家となって、町が共同で管理をしていた。



「明日、家を調べるという事で、いいんだよな?」

「何か異常があったとしても、調べないといけないですよね」


朱莉が静かに、そして何か不安を感じるように答えた。




翌朝、町長の案内で”アンテイヤシキ”という黒い屋敷に挑むことになった。


「町長様、ありがとうございます。ここからは危険が及ぶかもしれませんので、お戻りになって下さいますでしょうか。調査が終わったら御報告に伺います」


葵衣の挨拶で、町長には引き取ってもらう。


この屋敷の名は”アンテイヤシキ”。

”安定屋敷”なのか、”暗底屋敷”なのか。

それとも全く別の語源、なのか。



門をくぐり、本体の屋敷の前に進む。

「朱莉、何か感じる事はあるか?」

「特にこれといっては・・・」


何も感じないという事は、物の怪の類のせいでは無いという事だろ。



「ねぇ、茂玄。あそこに稲荷神を祀っているけど・・・」

蓉子の指さす方向には、稲荷と思われる小さな神棚があった。

蓉子の話では、あくまで家内の物で外に実物が有るだろうという。



「茂玄さん、あれを見てください」

葵衣の指さす方向を見ると、何か床が濡れている。

そして、その奥には薄汚い布が落ちていた。



「あの布、臭うわね」


「蓉子は鼻がいいからな。

あのボロ布からの臭いに敏感なんじゃないか」


横っ腹に蓉子の肘打ちを食らう。


「じゃぁ、茂玄。調べてきて」

「蓉子は勝手だな」


ここは、俺が行うしかないだろう。

蓉子はともかく、葵衣や朱莉の手を(けが)したくない。

俺が調べて、何も情報が得られなければ、彼女たちに任せるしかないのだが。



ボロ布の近くによる。

脇差の鞘で(つつ)く。

ただのボロ布の様だ。

俺は汚いと思いながらもボロ布を持って、外に出る。

ここでは暗くて、調べられないからだ。


葵衣たちも外に出て来てくれた。



「これ、子どもの服ですよね?」

「でも、どんな育て方をされたのでしょうか?」

葵衣のいう通り、子どもサイズの服である。

朱莉の疑問は、布の汚さを見てである。

その布は垢だらけで、しかも鼻水やよだれの跡が多い。


金持ちなら、こんな服を着せないだろう。


「これって、座敷童(ざしきわらし)じゃないの?」

「座敷童って、見ると幸せになれるという?」


「確かに、その可能性もありますが・・・」

葵衣の疑問は次の通りだ。


座敷童なら、家の主が裕福になる事は考えられる。

そして羽振りが良くなる事も。

しかし、その後貧乏になり、いつの間にが消えている。

座敷童が居続けているのなら、貧乏にならないのではないか。



「座敷童が、逃げ出したんじゃないの?」

「いえ、座敷童は名前の通り座敷に居付きます。一度離れて、また直ぐに居付くことは考えにくいです」



「それに、もう一点気になる事があります」

「それは?」

「床に残っていた、水気です。流石に長い時間が経っていれば乾いている筈です」



「という事は、この家主を裕福にしたり貧乏にする奴は、まだこの家にいる可能性が高いという事だよな?」

「えぇ、多分」


「しかし、蓉子や朱莉が勘づかないと言うのも不思議だよな」

「ま、気が進まないけど、本陣へのお参りに行きますか」


俺たちの中では一番、蓉子は豊受気媛(とようけびめ)を嫌っている。

しかし、その蓉子が言い出したので、気兼ねなく会いに行ける。



屋敷の北西に赤い鳥居と井戸がある。

鬼門に配置するとは、流石は晴明といった所だろう。


供物を捧げ、祈りをした所で、社が光る。

その光の中から、女神が現れる。


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