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第七章 第三十幕 毒当たりの旅人

毒まんじゅうを子どもに食べさせる噂が広がる様になった。



あれから更に四日が過ぎた。

噂は広がる一方ではあるが、被害は全く起きていなかった。


「一向に噂は収まらないけど、被害も出てないからね」

「このまま誰も被害が出なければ良いのですが」

「ただ、このまま待っていても、何も変わらないですよね・・・」


「ま、でも誰も被害が出ないのだから、もう無視して良いんじゃないの?」

「蓉子さ、そうなのかもしれないけど・・・豊受気媛(とようけびめ)の言の通り、怪異が起きてはいるんだからさ。子どもに被害が出るのかもしれないぞ」

「惨たらしい言い方になるけど、死ぬ運命だった孤児たちが生きる糧を得られた。これ以上は首をつっこみ過ぎなんじゃないの?」


「兄様、どうされますか?」

「子どもたちに被害が出ないのであれば、無視するのも手だよな」

「茂玄さん、良いのですか?私は残った方が良いと思いますが」

「葵衣が、そういうなら残るか?」

「茂玄は優柔不断ね」



そんな会話をしていた時、外が騒がしくなる。

「おい、町の外れで旅人が苦しんでいるらしいぞ」


俺たちは噂を聞きつけ、人づてに情報を集め、運び込まれた旅人の元にいく。

町の医者が診ている様だが、原因が解からないそうだ。

「葵衣、この原因がなんだか解かったりするか?」

「ごめんなさい。知識は有っても、私は医者ではないですし・・・」

「いや、葵衣が謝る事はないよ」


「茂玄、急いで湯を沸かして。朱莉は今からいう物を常糧袋から準備、そして葵衣は薬を貰ってきて」

蓉子が急に指示を出し始めた。

「おい、蓉子?」

「とりあえず、早く」


蓉子の気迫に押され、俺たちは蓉子の指示によって動く。

朱莉と葵衣の準備した食料と薬を調合し、精霊魔法で加工する。

できた液体を旅人に飲ますと、旅人の容態は安定した様だ。


「とりあえず一命は取り留められたと思うわ。この旅人の目が覚めたら、わたしたちを呼んでくれない?」

「あ、はい。わかりました」


蓉子の一連の動作に圧倒された俺たち。

そして、診療所の医者やスタッフは呆然とするしかなかった。


俺たちは元居た宿に戻る。

「蓉子に医者の知識があったとはな。早く言ってくれよ」

「いや、わたしにそんな知識は無いわよ」

「でも、蓉子さんの指示通りにしたら助かったじゃないですか?」

「私もあのような組み合わせの薬は知らないです」


「それじゃ適当に調合した薬が、的中したという事か?そんな事ありえるのか?」

「薬を服用したと安心感で良くなったのでしょうか?」

「プラシーボ効果ね。でも、あの人はそこまで意識はないと思うわ」

プラシーボ効果は、病気に効くと思い薬を服用すると、錯覚で効くことがあるという、人間の神秘みたいな物だ。

なので、薬の治験の場合には偽の薬も服用させて、効き目を確かめてから承認を出すそうだ。


「うーん、なんというか。頭の中に声が響いたというか、閃いたというか。その通りにしたら効果覿面(てきめん)だった、と言った所ね」

「蓉子さん、その声って女性だったりします?」

「うーん、響いたとも閃いたとも言えるので、ちょっと判断つかないわね」


「あくまで、可能性の話なんですけど」

葵衣は推理を語りだした。

伊勢神宮で内宮(ないくう)に参拝した。

外宮(げくう)に居た豊受気媛からの指示ではあったが、特に何も起きなかった。

ただ、感じる事ができなかっただけで、実は天照大御神(あまてらすおおみかみ)の力が備わったのしれない。


「なんでまた、蓉子なんかね」

「その、蓉子さんの神格では、ないかと思うのですが・・・」

「あ、なるほど。豊受気媛に命を授かったから、という事か」


「兄様。もう少し、言葉を選びましょう」

蓉子は俺を睨んでいた。

やっぱり、狐の体と言うのは禁忌なんだな。



蓉子に精霊魔法の実験台にされ、落ち着いたときに医者の遣いから連絡が来た。

あの旅人が目を覚ましたらしい。

俺たちは、旅人の元まで赴く。



「この度は、命を救っていただきありがとうございました」

旅人は、丁寧に礼を述べた。

命を助けられたのだ。その気持ちはわかる。


「あれは、病気というより毒だと思う。何か食べませんでしたか?」

「路銀を失くしてしまい、お地蔵さまに供えてあった物をいただきました」

蓉子の質問に旅人は答える。

「その食べ物が腐っていたとか?」

「それはないわね。食当たりではないと思う」


「お供え物に手を出したから、罰でもあたったのかな?」

「兄様。お地蔵さまは旅人を見守る事もなさっています。路頭に迷った旅人が、お供え物を頂くのは普通の事なんですよ」

「え、そうなのか?」

「はい」


俺たちは常糧袋があるから、食べ物に困る事はなかった。

そして、前世の慣習から、道に置いてあるものを食べるという考えはない。

しかし、この時代なら、旅人の飢えを凌ぐことに利用されてもおかしくはないとも思う。


とりあえず、一命を取り留める事はできた。

しかし、毒という接点が見つかった。

他の旅人が口をつける前に、調べた方が良さそうだ。


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