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第二章 第十二幕 野戦と妖狐のお告げ

 志賀城のある佐久地方と、関東を結ぶ大きな道に碓氷峠(うすいとうげ)がある。狼煙は援軍の先鋒を見てあげられたものだろう。

 武田方も狼煙には気が付いただろうし、透波(すっぱ)の諜報網もあるだろう。

 八月六日、鬨の声が上がり戦が始まる。場所は志賀城の北にある小田井原。

 武田方は武田家最強の板垣信方、甘利虎泰。数四千。

 上杉方は金井秀景。数八千。

 あくまで、葵衣(あおい)の歴史の知識からだが。



 兵数の少ない武田方は、街道出口で包囲して戦うのが得策だと思うのだが、敢えて平野部でお互いの陣形が整ってから開戦した。

 一方、葵衣は関東管領と闘うべく別動隊が編成されたことで、包囲が薄くなるのを待っていた。比較的人の少ない所に攻撃を仕掛ける。

 と言っても、朱莉(あかり)の式神や蓉子(ようこ)の術を使って、脅かしたり、気絶させただけだが。


 無事に、入城した俺たちは笠原様の元に急ごうとする。しかし、葵衣に止められた。

「援軍が来て、戦っているのは城内ではみな知っているから。何を伝えるつもりなの?」

 俺は答えに窮した。なんの為にいるのだろう。

 葵衣は、蓉子に耳打ちをすると、彼女は面白そうねといたずらっぽく笑う。



 笠原様、援軍の高田様はじめ、軍議を開いている。

 突然稲光がして全員が目をやられ次第に視力が戻るとそこには美しくも怪しげな女性が立っていた。

 稲光は朱莉の雷獣、女性は蓉子なのはいうまでもない。


「我はこの地を統べる神の使い、妖狐。汝らに戦の愚を説きに来た。主らが戦い果てるのは勝手だが、弱き者。例えば女子どもにまで害することあれば全てが祟られるであろう」

「あとは、苦しんでいる其方たちへの恵みじゃ」

 といい、ついたての後ろになみなみと水の入った甕を三つ指さした。


 流石は蓉子だ。あの度胸と演技はすごい。

 再び朱莉の雷獣で目を眩ました後、俺たちは城を抜け出した。

《家族は無事だろうか……》。

 センチな気分を振り切り、葵衣の次の行動に従う。


 一方、関東管領と武田別動隊との戦いはあっけなく終了していた。兵員二倍。結果は明らかだろう。

 しかし、真逆に終わる。


 先年の河越夜戦で大惨敗し、西上野一番の有力者長野信濃守様は出陣せず。将の士気は低い。

 また、兵にしても急に集められ碓氷峠の行軍を行い疲労している。そして、兵数の多さによる慢心と合わさり惨敗に帰したのだ。

 将は十五人ほど討ち取られ、兵は三千人が死亡。約三百人が捕虜になるという関東管領の名折れとも言える記録であろう。



 葵衣はこの事を知っていたのか。そして落城するであろうことも。

 彼女の背負う運命の厳しさを実感した。なんとか彼女の力になってあげたい。

 俺は改めて気合を入れる。



 しかし、本当の悲劇はこれからだった。


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