第二章 第十幕 忍びの定め
山本勘助一行を見つけるが、禍々しい気配に動きが止まっていた。
最後尾にいた葵衣が何やら気配を感じて振り返り、薙刀を構える。
目の前に居たのは小汚い格好をした者三人。短い刀を構いていた。
殺気から感じて、俺たちを殺そうとしている事は間違いない。
人外を相手に戦った事はあるが、人間と命のやり取りができるのであろうか。
そして、彼女らには人の血で手を汚してはもらいたくない。
蓉子が風を操り、落ち葉を舞い上がらせ彼らを怯ませる。
その隙をつき、「たーっ」葵衣は石突(注:刃の付いていない、地面につける部分)で真ん中に構えている人物の鳩尾に寸分たがわずめり込ませる。
軽装のため、鎧を着ていないのが敗因だった。樹木が乱立する中での攻撃に感嘆の声がでる。
「大蜘蛛」朱莉は残る二人に蜘蛛の糸を巻き付け動けない様にしていた。
山本勘助への反動か、三毛介は動けない一人の顔を引っかいている。
蓉子は美しくも妖艶な笑みを浮かべ、もう一人に近づく。
「さて、」と声をかけた瞬間、その者は苦しみだし、口から血を流し、息絶えた。
尋問を恐れ舌を噛み切ったようだ。
「ふぅ、愚かな事。無駄に命を散らしたわね」
哀れむ目を向ける。しかし、目には薄っすら濡れた様な光が。
人の死を目の当たりにし、これが戦乱の世だと全員が実感したようだ。
急に周りが曇りはじる。
「煙幕が張られたか。まだ仲間が?」
パーティーが咳き込む。今襲われたら拙い。何もできない歯痒さと、危機感が募る。
煙幕で苦しいながらも、三人の名前を何度も叫んだ。
「葵衣、朱莉、蓉子」
今思えば、敵に場所を教えることになるのだが。
煙が薄くなり、視界がはっきりしてきた。
のされた者、蜘蛛の糸で動けなかった者、そして自ら命を絶った者。
三人の姿は消えていた。
忍者と言えば黒装束に身を固め、暗器を使い、術を駆使して任務を遂行するイメージがある。そして、失敗したら命を絶ち、存在すら残さないとも。
葵衣の話では、あれは全て忍者への偏見。
「忍びの村に生を受けたものは、成長の過程で特異な事を見出し、その特技を昇華させるべく修行を行う。いくつもの術を駆使できるのは本の一握り。もちろん、武術や仲間内の連絡などは別だけどね。
そして、任務に対して装束は毎回違う。町中の諜報活動で、あんな格好では変でしょ?
あと忍びにはランクがあって、上忍、中忍、下忍。中忍は人選と監視、下忍が先ほどの実行部隊。煙幕は中忍が回収の為にはったのね。使命に対して命を張ることはあっても、失敗したら命を取られることはまずはないわ。忍びの数は少ないし、育成にも時間がかかるしね」
しかし、人が物扱いでいることに説明している葵衣自身も悲しそうな顔をしている。
朱莉はいつも通り、俺の袖を掴んでいる。
存在が知られ、また工作部隊がただ物ではない事を悟った俺たちは、妨害作戦を諦め、元来た道を戻る。
頼りは、関東管領の援軍だ。




