第一章 第一幕 天上の酔っ払い
ここは大陸と海を挟む邦『日本』。
大陸と半島の文化を取り入れながら、独自の文化を発達させていた。
初代の帝の元で樹立したこの邦は、内外との争いは途切れる事は無かった。しかし、他の邦に比べれば安定した珍しい土地でもある。
しかし、日本全土を巻き込んだ未曾有の戦乱が起きる。
初代の帝が邦の樹立を宣言してから、二一二七年後。御家争いに端を発し、京の都を巻き込んだ十年にも及ぶ勢力のぶつかり合い。後に応仁乱と記録される歴史の一大事件である。
この騒乱は飛び火し、全国各地で戦乱が日常化していた。
しかし戦乱開幕時の当事者は、ほとんど生き残っていない。そして新たな名目で争いが続く。
ある者は、自国の民を富ますため。
ある者は、戦乱の世を終わらせるため。
ある者は、己が権力を手にするため。
群雄が割拠し、それぞれの想いを叶えるべく、名乗り争う戦乱期。大陸の春秋戦国時代になぞられ「戦国時代」と呼ばれた世。
この地、この時、因果で結ばれた四人の若者と女神と天使が存在した。
彼らの存在は、歴史には残っていない。しかし後世には、民間伝承として綴られた謡がある。
「
時は戦乱 地獄絵図
古き女神が 導きて
異邦の天狗 舞い降りる
魑魅魍魎を 屠る武士
薙刀振るいし 智慧の神
数多の式神 扱う巫女
天の理 御す妖狐
陰にて 乱を収めゆく――
陰にて 乱を収めゆく――
」
ここは天上。
二人の女性が酒を酌み交わしている。世の因果の乱れを収めた、日本の女神と北欧の天使。
日本の女神は豊受気媛。
豊穣を司り、稲荷神の長として、民間信仰を集めている。その正体は、天照大御神に近しい、神格の高い女神である。古くから、この邦『日本』を見守る神の一柱である。
天使はオルルーン。
北欧神話の主神オーディンに仕える戦乙女。戦乙女は、戦死した勇者の魂を戦死者の館に導く。いずれ起こる、神々の大戦『神々の黄昏』に備えるために。
「珍天狗は、物怪扱い。神に仕える身なれど、滑稽なり。その翼じゃ当然の表現なもし」
「魔女狐こそ、本当に女神なの? 敬われる事自体が筋違いなのよ」
「天狗の意味を知っておるか? 神の狗。つまり使い魔やな」
「豊穣と言っても、身体から食べ物を出せるって聞いたわよ。気持ち悪くて、食べられないわよね。そして、実は単なる化狐の親玉でしょ? 人のこと言えて?」
「汝ら天狗共は乱世や兵乱を望んでおろう? 神の僕を造るために。人を殺める目的で、権力者を誑かす。この邦の迷惑は、汝らが原因であろうや」
「この蛮国では、人を誑かすのは獣。その筆頭である狐の親玉が、何をかまして」
「天狗は霊験高き妖怪なれど、人に騙される事も多い。つまり、間抜けの代名詞ぞな」
罵りながらも会話が弾む。酒も酒菜も逸品ぞろい。贅を尽くした宴の席が、止まることなく続いている。
「しかし、汝の造る酒は格別じゃな。珍天狗の世界の者は幸せじゃ。されど吾が邦の酒には劣るが」
「いやいや、この山海の幸も、なかなかどうして。蛮国だと思っていたけど、食べず嫌いはだめね。それだけ発展していない自然豊かな…つまり田舎なんだけど」
すでに出来上がっている二人は、この謡を肴に、宴を愉しむ。
「屠るなど、勇ましき誉れなれど。粗相にて死んだ引籠りの墜人であったな」
「妖狐ね…。確かに、身体は元狐。そして名前も同じく蓉子」
奇妙な組み合わせで、決して交わらないはずの若者たち。
こんな女神と天使に使われた、もとい選ばれた四人の若者の物語。




