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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

リア充兄が学園のアイドルを家に連れ込んだらなぜか私が襲われた件

作者: 今川幸乃

美少女になって学園のアイドルに迫られたい(願望)

「ただいまー」


 私、水無瀬(みつる)が帰宅すると、珍しく兄の靴が玄関にあった。いつもは遅くまでほっつき歩いて夕飯ぎりぎりに帰ってくるようなやつなので、私はふと嫌な予感がする。しかもその予感を裏付けるように兄の靴の横には見慣れない女物のローファーがある。これは、まさか。


 そこへ階段を歩く音ともに愚兄が二階から降りてくる。うちは一階にリビングやキッチンがあり、二階に私と愚兄の部屋がある。

 私の愚兄の翔平は絵に描いたような陽キャリア充だ。髪は明るめの茶色に染め、耳にはピアスをし、制服の胸元のボタンを開け、ズボンも腰まで下ろし、いつも軽薄そうな笑顔を浮かべている。

 が、今日は特に気分が良さそうだ。


「よう盈、帰ったか。実は今俺の部屋に雪村皐月が遊びに来てるから、お前は一歩も部屋から出るな」

「え、雪村さんが?」


 どうせそんなことだろうと思ってはいたが、その相手が雪村皐月だったというのは驚いた。私はまだ高一だが、愚兄と雪村さんは二年で先輩にあたる。そして雪村さんはうちの学校の女子ではトップクラスの有名人だ。


 きれいな長い髪に涼やかな瞳、整った容姿とどこか深窓の令嬢のような雰囲気。人当たりもよく、時々私のような日の当たらない後輩にも笑顔で挨拶してくれる。そして当然のように成績も良くて運動も出来るらしい。

 そんな彼女なので男子からはもちろん女子からも人気があり、多数の告白を受けているらしいが、いまだに誰とも付き合っているという話は聞かない。


 だからてっきり少女漫画に出てくるようなイケメンか童話の王子様のような人と付き合うのかと思っていたが、それがうちの愚兄と付き合っていたと分かると全く関係ない人なのにがっかりしてしまう。

 今も兄は私が驚く顔を見てにやにやと嬉しそうに気味の悪い笑みを浮かべている。


「そうだ。どうしてもうちに遊びに来たいって聞かなくてね。お前もネットばかりしてないで早く彼氏作ったら? あ、陰キャだから無理かwww」


 兄はわざとらしい下品な笑い声を上げて煽ってくる。いつもは無視に徹しているが、今日は雪村さんが家にいて調子に乗っているからかいつも以上にうざい。


 するとそんな兄の後ろから雪村さんがひょいっと顔を出す。そして私の方を見るとにっこりと笑う。なぜかそんな彼女と目が合って私は少しだけ緊張する。いつ見ても彼女はきれいだ。今もいつもと同じ制服姿なのになぜか気品がある。


「ごめんね、お邪魔して」

「いえ、どうぞごゆっくり」


 そう言って彼女は私に意味ありげに笑いかけると、そのまま部屋に戻っていってしまう。


「何がごゆっくりだよ。とにかく部屋から一歩も出るなよ」


 そう言ってこいつは階段を降りると冷蔵庫を開けて飲み物を取り出す。うん、本当にこいつとは釣り合わない。私は自分の幻想を壊されて少し悲しい気持ちになりつつも部屋に戻る。


 それからしばらくは私にとっては嫌な時間が流れた。何せ隣の部屋から愚兄と雪村さんが楽し気にしゃべっているのが聞こえてくるのだ。愚兄が楽しそうなのも不快だし、その相手が学園のアイドルなのはさらに不快だ。

 仕方ないので私は自室のパソコンの前に座ると耳にイヤホンをして音楽を流しながらネットの海を巡回し、それが一段落するとソシャゲの画面を開く。


 そんなことをしていて一時間ほどが経ったころだろうか。不意に私はドアがノックされる音で我に帰った。全く、部屋から出て来るなと言ったくせに何か面倒事を押し付けようというのだろうか。


「何?」


 私は思わず棘のある声で答える。


「ごめんなさい、ちょっと入ってもいい?」


 が、聞こえてきたのは予想に反して雪村さんの透き通るようなきれいな声だった。


「え、雪村さん!?」


 てっきり愚兄だと思って答えたので私はその声を聴いて凍り付く。今すごく嫌な声で答えてしまった。


「ど、どうぞ」


 まずい、私の部屋に友達を呼ぶことなどないので本や漫画、教科書が散らかっている。何でよりにもよって初めて入ってくる家族以外の人が友達ではなく学園のアイドルなんだと思うけどもう遅い。ガチャリとドアが開いて雪村さんが入ってくる。


「え、ええと、何で私の部屋に……」


 緊張のあまりどもってしまう。普段は軽薄の擬人化のような兄を見ているため多少コミュ障でもいいと思っているが、今はそれが恨めしい。

 雪村さんはそんな私にお構いなく、目の前に腰を下ろす。気のせいかもしれないが、いい匂いが私の周りに広がる。


「実は今日は、お兄さんじゃなくて盈ちゃんに会いに来たの」


 ああ、やっぱりあの愚兄と雪村さんじゃ釣り合わないですよね……て、え?

 私は耳を疑った。


「え?」

「言葉通りの意味。私は盈ちゃんに会いに来たのよ」


 雪村さんはいつもの清楚な笑みとは少し違う、少し妖艶な笑みを浮かべる。私はあまりに唐突すぎる彼女の言葉に頭の中が真っ白になる。


「い、一体何で……」

「あなたのことは弥生から聞いていたわ。それで何回か学校でも見たことあるんだけど、やっぱり可愛い」

「え、可愛いなんてそんな……」


 可愛いなんて言われたのは小学生の時以来だ。

 しかもそんな台詞を雪村さんが至極真面目そうな表情で語るので、訳が分からなくなる。そこらの女子高生が「何でもかんでも可愛い」と言うのとは訳が違う。


「ええ、可愛いわ」

「ゆ、雪村さんは可愛ければ誰でもいいんですか」


 私がそう言ったときだった。ちょん、という肩への軽い衝撃とともに私の目の前には天井が広がっているのが見える。そしてすぐに天井の代わりに雪村さんが視界に現れた。


「そんなに言うならあなたの可愛いところを一つ一つ教えてあげる」

「ひゃあっ!? ちょっと……何するんですか」


 どうやら私は肩をつつかれ、緊張して強張っていた体がそのまま後ろへ倒れてしまったらしい。雪村さんはそんな私に覆いかぶさるようにして話を続ける。


「あなたはいつもコミュ障だから他人に関わりたくないみたいな態度をとりつつも、時々クラスメートとかが仲良さそうにしていると、うらやましそうに見てるでしょ? 本当は誰かとの関係を持ちたいって。そこが可愛い」

「そんなの……皆同じじゃないですか」

「じゃあ、髪がさらさらしてる」


 そう言って、雪村さんが私の髪を撫でる。

 急なことに思わず変な声が出てしまう。


「ふぇあっ!?」

「今の声も可愛い」

「ちょっ、そんなのずるいですよ……」


 私は頬が熱くなっていくのを感じる。

 が、それでも雪村さんは容赦なく続ける。

 しかもそれがいちいち真顔なので死ぬほど恥ずかしい。


「目もきれいで好き」

「ぇぇ……」


 が、その時だった。廊下から足音が聞こえてきてドアがガチャリと開く。


「皐月、どうした……て本当にどうした!?」


 愚兄は部屋の床に倒れている私と、それに覆いかぶさるようにしている雪村さんを見て絶句した。

 それを見て雪村さんは慌てず、スカートのほこりを払いながら起き上がる。

 私は何故かいつもより強く愚兄に対して苛立ちを覚える。せっかくいいところだったのに。


「ごめんごめん、ちょっと挨拶に来たら足引っ掛けちゃって」


 そしてちょっと照れたような笑みを浮かべる。先ほどまでの雰囲気とうって代わって、学校での彼女に近い雰囲気に戻る。


「全く、部屋くらいきれいにしておけよな。こんな部屋に皐月を入れるなんてありえねえよ」


 そう言って愚兄は自室に戻っていく。

 雪村さんも後を追って部屋を出て行こうとする。


 何でだろう、それが当然のことなのに私は少しだけ寂しく感じてしまった。どうせならもっと言って欲しかったな、などと思ってしまったのだろうか。


 すると、部屋を出ようとした雪村さんがこちらを振り返った。そして私の何とも言えない表情を見て、何かを察したかのようににやりと笑う。それを見て私はやば、と思った。まるで猛獣に獲物としてロックオンされたかのように、本能が警鐘を鳴らす。


「ごめんごめん」


 そう言って雪村さんが私に右手を差し出す。倒れたままだった私はなされるがままにその手を握る。雪村さんは私の腕を引っ張って助け起こす。


 私はされるがままに起き上がったのだが、不意に唇が柔らかい感触に包まれる。


「~~っ!」


 思わず叫び声を上げそうになったが、口を塞がれているため声にならない。しかも一瞬で終わるのかと思いきや、唇に加わる力はどんどん強くなっていく。


 最初は何が何だか分からなかったが、だんだん雪村さんの唇の甘い味と、体が痺れるような感覚に包まれる。


「~~っ、ふぉんふぁ、ひゃめれくらひゃい」

「やめようと思ったけど、今の声が可愛かったからもう少し続けてあげる」

「ふぇ!?」


 そう言って雪村さんは再び私に唇を押し付ける。とろけるような感覚とともに体が熱くなり、力が入らなくなる。キスを通じて温かさのようなものが伝わって来て、思わず私もそれをむさぼるように応じてしまう。


 どれくらい時間が経っただろうか。ようやく唇が離れたと思ったら、なぜか私は少しだけ寂しさのようなものを感じていた。


「ごちそうさま」

「ご、ごちそうさまじゃないです。ていうかいきなり何するんですかっ!」


 我に返った私は抗議の声を出すが、もはやあまり意味をなしていないのは明白だった。そう思うと、何か急に恥ずかしくなってくる。


「明日、学校終わったら会いに行くね」

「え?」

「じゃあまた」


 そう言って雪村さんは部屋に戻っていくのだった。

 また隣の部屋から二人が楽しそうに笑う声が聞こえてくる。なぜか前よりもそれが不愉快に感じられた。早く明日にならないかな。珍しく私はそんなことを思った。

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