3 放課後の図書室
日別ランキングに入りました。
皆さまのお陰です。ありがとうございます!!
さて、嫌いな月曜日にとんでもないお誘いを受けてしまった。
相手は、塩対応で有名な学年のクール美女。
今朝のその瞳は冷淡そのもので、とても鋭く笑みを浮かべるなんて以ての外、あの笑わないラグビー選手みたいな表情だった。
でも、昨日は………
そんなことを考えながら図書室の前でグダグダしている。完全に怯えて畏縮してしまっている。
ほら、なんで図書室なのか考えればいい。
必死に心を落ち着かせる。
放課後に図書室を利用できるのは図書委員だけ。
ということは、図書委員なのだろう。
でも、わざわざ人がいない所に誘うなんて本当になんの用事だろう。
海知が言うようにはならないと思うが、一応気をつけよう。
ゴクリと生唾を飲んでから図書室のドアをトントンと叩いた。すると、室内から『どうぞ』とあの美女の声が。
やっぱり、朝とおんなじ声だ。
もしかしたらワンチャンホントに殺されるかも……
と思いながら恐る恐る図書室に入室した。
「失礼します………」
礼儀正しく部屋に入る前に大きく一礼。
なんだこれ……面接かよ。
室内に入ると、俺の視線の丁度真っ直ぐの位置にあの嶋崎未来がいた。
彼女は、あの鋭い目付きで、俺を数秒凝視する。
やべぇ……処刑場だったか。
無罪を主張しようとしたその時、突然彼女の表情が和らいだ。
「来てくれて嬉しいです。いらっしゃい、小鳥遊くん」
相変わらずの敬語だが、今朝よりかは砕けた口調。そして、感情もこもっていた。いつも冷淡で相手を睨みつけて威圧感に溢れるその視線も暖かいものを感じた。
な、なんだこれ………
俺は困惑した。例えるなら、死罪宣告からいきなり無罪を宣告された時くらいに。
取り敢えず、俺は、彼女がなぜ俺をここに呼び寄せたのだけ尋ねることにした。
「あの……なんで、俺を?」
「実は、少し確認したい事があって、迷惑を承知でお誘いさせて頂きました。すみません……」
彼女はそう言うとぺこりと頭を下げる。
な、なんだ!?あの嶋崎さんが俺に頭を下げている??
人生とは本当に不思議なことも起こるものだと俺は、この時思った。
「そんなことで謝らないで下さい……で、少し確認したい事とは?」
と俺が言うと、頭を上げ、キラキラと眼を輝かさせる。
「ありがとうございます!……それで…………実は昨日の事なんですが………」
きちんとお礼を言った後に、彼女は少し不安そうにも昨日のことを尋ねてきた。
「ああ、そのことなら誰にも言っていませんし、言うつもりもありませんよ………」
俺がそう言うと、彼女は再びぱあっと笑顔を輝かせた。
うん、なんなのこれ………
俺は更に困惑する。朝のことを考えればあり得ない変化だ。彼女の表情が驚くくらい豊かだ。しかし、昨日のことも考えればこれが普通の彼女なのか?
「ありがとうございます……恩にきます」
彼女がまた一礼。
なんだこれ、軍隊の隊長さんになった気分だ。
やめて下さい少佐。俺ごときに一礼など……やめて下さい。俺が心の中でそう叫んでいると、
「さて……私の確認が終わったので――」
彼女がそう言い出したので、もう帰っていいかと思い踵を返すと、
「ちょ!ちょっと、どこ行くんですか?」
彼女が慌てて、俺の腕を掴んだ。
あの塩対応さんが俺にボディータッチだと?
学年の男子たちは、触れられてもいないのに、こんなガッチリ掴まれて大丈夫か?
あれか?俺、男たちから呪い殺される運命なのか?
「まだ、帰っちゃダメ………です。一緒に、お茶………しませんか?」
俺より身長が低いので上目遣いで少し照れ、頰を赤らめながら、俺に言ってくる。腕を掴まれる状態だから、かなり近距離だ。
「い、いいですけど…………」
こんな夢みたいなシチュエーションで断れる男がこの世に存在すると思うか?
結論を言おう、いない。絶対いない。異論は認めない
俺が了承すると彼女は満面の笑みでニコッと微笑んだ。
『ギャップ』というフレーズがここまで効果絶大だとは思っていなかった。
「実は、いつも家でクッキーを焼いて、ここで食べてるんです……」
そう言うと自分のカバンから菓子袋を取り出した。
うん、明らかにあれ、彼女の手作りだ。
お茶会に手作りクッキーだと?
見える。俺には見える。
明日、俺が学年の男子からめった刺しにされる未来が…………
次はお茶するところからです。
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