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15 帰り道 やっぱり俺は……



「おい、なぎぃ〜お前今日は一緒に帰れるのか??」


翌日の昼休み、海知からこんなことを言われた。いつもなら、「いや、遅くなるから今日も一人で帰ってくれ」と言うのだが、昨日の一件がある。


あの後、嶋崎さんは一言も言わずにただひたすら沈黙を貫いていた。重々しい空気のせいで俺はそれ以上、彼女に言葉をかけることが出来なかった。


嶋崎さんなら大丈夫だろう。普段なら彼女が言えば、そうだと思っていたのに、今回だけはそう思えなかった。


本当に大丈夫だろうか?



今朝も彼女を見かけた。普段のようにまた話しかけてくれると思っていたのに、彼女は俺たちの横を素通りした。

最初は怒っているのかと思っていたが、よく彼女を見てみると、彼女の顔がいつもよりもやつれていて、足取りもまるで鉛を背負っているかのように重かった。


きっと家にもこっそり持ち帰っていたのだろう。それで徹夜をしてポップを製作していたに違いない。


いつもなら、鋭く冷淡なクール美女な嶋崎さんだが、その瞳にもキリッとする力も無いように感じられた。


本当ならば俺は今日も図書室に行きたい。


けれど、嶋崎さんのお願いを破って、彼女に迷惑をかけるのも嫌だった。

しかし、あの様子だととても心配でならない。


「おい、なぎ、どうしたんだ?」


考え込んでいる、俺に対して海知が心配そうな顔でこちらを見る。


「い、いや。なんでもない」


俺は咄嗟にそう言った。


「そ、そうかよ……で?今日は?」


「あ、ああ、うん。大丈夫だ」


もう既に考えがまとまっていたわけではない。むしろその逆、全然まとまってなかった。

図書室に行くのを決心したわけでも諦めたわけでもない。しかし、海知に言い寄られて、勢いで俺は「うん」と返事をしてしまった。



これが果たして正解なのだろうか。午後の授業でもこのことでずっと頭を悩ましていた。


放課後。


教科書やノートをリュックの中に詰め込んでいると、海知がやってきて、「帰ろーぜ」と言ってくる。


俺はそれに頷いて急いで、支度を終わらせた。後にリュックを担いで教室を出た。


久々の海知との下校。いつもなら嶋崎さんと途中まで一緒に帰って、いつもの場所で別れて、別れ際に「また明日」と言って別れるのが普通だった。この一週間、嶋崎さんが俺を図書室に誘うようになってからずっとそうだった。

別に海知だから変だというわけではない。しかし、俺の心の中は晴れやかな気分にはならず何かが引っかかって、苦しかった。


その原因、俺は知っている。自覚している。


だって午後の授業中もそのことで悩んでいたのだから。

やっぱり、俺は嶋崎さんが心配だ。やっぱり、俺は助けになりたい。たとえ、迷惑がられて嫌われたとしても。

今朝のあんな姿、嶋崎さんではない。昨日、俺には笑顔で話していたが内心は辛いハズだ。疲労困憊なハズだ。


――だから、俺は図書室に戻る。彼女の助けになるために。



通学路を半分くらい歩いたところで俺は立ち止まった。


「わるい……俺、忘れ物した」


「忘れ物?そんなのいいだろ?」


「いや、それが………」


「まさか、お前、結構大切なもの忘れたのか?」


「あ、ああ。………大切なんだ」


「じゃあ、わかった。今日は俺、先に帰ってるから。また明日な!」


「ああ、じゃあまた明日」


俺はそう言ってもと来た道に戻る。心の中で海知に謝罪と感謝をしながら。彼が俺の思惑に気づいていたかは定かではない。むしろ全然知らずに言っていた可能性の方が遥かに高い。偶然かもしれない。だがしかし、俺は謝罪と感謝を彼に述べるのだ。

彼でなければ、そう言わなかった可能性もあるから。



振り返ってから、いつもなら走らない通学路でも全速力で走った。


今すぐ、大切を助けるために。

次回でこの物語の二分の一が終了します。


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