14 図書委員の仕事
放課後、俺は嶋崎さんがいる図書室に向かっていた。昨日はあいにくの天気であったが今日はしっかりと晴れていて、校舎に西日が差していた。
こんどこそ、直行で向かうと嶋崎さんに約束したから、海知くんには、昼休みのうちに話しておいた。
「今日も、遅くなる」
「え〜〜またぁ〜。最近全然一緒に帰ってくれない」
ふざけて彼女気取りはやめてほしい。ほら、クラスの女子の視線が痛いから。
なんか、俺まで被害を被りそうなので、ここは敢えて大声で、
「そうやって誤解を招く言動はやめような?ほら、ナースが待っとるぞ?」
と言うと、海知が慌てて俺の口を押さえ始めて、「ばかっ!バラしてどうする俺のナースなんだぞ!」と言う。
いや、そうじゃないんだが………
数人の女子はもうその言葉だけで察したようで海知に対してすんごい目線で、彼を見ている。
本来ならば教えてあげればいいのたが、この世には知らない方が幸せなこともある。
と、言うことで黙っておいた。無論、後に問い詰められてもすっとぼける気満々である。
あとは、海知次第だ。
「じゃあ、今日の放課後は一人で帰れよ」
「わかったよ。ナースがいるから帰宅する」
またナースという禁句を口にして…………俺はもう知らない。
てな感じで、海知さんを昼休みの間に片付けておいたのだ。だから、今日は直行できる。三度目の正直ってやつになるなぁ……
嶋崎さん、今日も遅れてくると思ってるかな?
どんな反応するんだろ?
と色々頭の中で考えながら歩いていると、誰かがそっと俺の肩を叩いた。
「ん?だれだ?」
「わたしです」
聞き覚えのある声。
振り返ると、そこには嶋崎さんがいた。
「驚きました。本当に早くきてくれたんですね」
「はい、早く来たかったので」
俺がそう言うと、彼女もまた、
「私も同じ気持ちでした」
と笑顔で言う。
「じゃあ、早く行きましょ!」
と俺が言うと彼女も頷く。廊下を少し小走りしながら俺たちは図書室を目指した。
「小鳥遊くん、私は図書準備室に用事があるので、先に開けて入っていてもらえますか?」
図書室前に着くと嶋崎さんがこう言って図書室の鍵を渡してきた。
「いいですよ、電気とか、カーテンとかもなおしておきます」
「ありがとうございます。助かります」
俺は彼女から鍵を受け取った。嶋崎さんがずっと握りしめていたのか、鍵は少し温かい。
その鍵を使って、俺は図書室を開けた。そして、電気をつけて、テーブルに荷物を置き、カーテンを縛る。
全てのカーテンを縛り終わる頃、嶋崎さんが図書準備室から戻ってきた。そして、謎の箱みたいなダンボールを抱えている。
「お待たせして申し訳ありません」
少し重そうに抱えるその箱には、画用紙やらマーカーペンが沢山入っていた。
「これでなにをするんですか?」
その道具を見て俺はそう尋ねた。
「これでポップをつくるんですよ」
彼女はダンボールを机の上にドシッと置くと、画用紙とマーカーペンを取り出しながらそう説明した。
「へぇ……そうなんですね。すごい量ですけど大丈夫ですか?」
俺は純粋に心配した。だって、ポップなら画用紙は一枚なはずなのに、かなりの枚数がある。きっと沢山作らなければならないのだろう。
「はい、多分大丈夫です。二人分の量を作らないとなので少し負担は大きいですが……」
「一人当番だと大変ですね」
「仕方ありませんよ。人数が少なかっただけなので……」
「今日は、勉強なしにしましょうか?」
「えっ……で、でも……」
俺がそう提案すると、彼女は一瞬驚きつつも、申し訳なさそうに俺の表情を伺ってくる。
「大変なのは見ればわかります。1日くらいなんの問題もありません」
「ありがとうございます、小鳥遊くん。この埋め合わせはいつか………」
彼女は深々と頭を下げると、すぐにポップの制作に取り掛かった。
よっぽど時間がないんだな。
よし、俺も本を片付けて手伝おう。
俺は、急いで本を片付けた。
「嶋崎さん、終わりましたよ。俺も手伝っていいですか?」
「いいんですか?」
「もちろんです。ポップに載せる本は、図書室の本ですよね?」
「そうです」
「了解です。任せてください」
「すみません。よろしくお願いします」
俺も早速、ポップ作りの制作に取り掛かった。
まず、読んでくれそうな本を何冊かセレクトして、内容をサラッと確認する。本来なら、しっかり最後まで読んでから作りたいが時間もない上に枚数も多い。
はじめの50ページを読んであらすじといいところ。そして、表紙に書いてあったイラストを軽く模写して完成。
短時間製作ポップだが、なかなかハイクオリティに仕上がったと思う。
嶋崎さんの方に持って行こうとした時、嶋崎さんが物凄い勢いで書いているのを見た。あれだけのスピードだったら俺の二倍の……いや、それ以上の量ができているはずだが………
画用紙の量は変わらなかった。
なんであんなに多いんだろう。と物凄く違和感を覚えたが、その場では口にしなかった。
キンコンカンコン!キンコンカンコン!
完全下校を報せる学校のチャイム。
俺はあれから4枚のポップを仕上げた。一方の嶋崎さんは12枚。
けれど、まだ残り20枚は確実にありそうである。
俺は我慢できなくなって、遂に彼女に尋ねることにした。
「あの、嶋崎さん……」
「はい、な、なんですか?」
「ポップ………多くないですか?」
「そ、そんなことないですよ……」
「いや、多いです」
「二人分なのでそう感じるだけかもしれませんよ?」
「二人分でもそんな量は普通、作らないと思います。なにかあったなら話してくれませんか?」
俺がそう言ったのだが……彼女は、
「いえ、なにもありません。大丈夫ですよ?」
とニコッと笑って返した。やっぱり、違和感を覚える。彼女はどこか無理をしているように見えた。
「あ、あの……俺、やっぱり!」
「小鳥遊くん!!」
「な、なんですか?」
「もう、帰りませんか?チャイム鳴りましたし……」
「そ、そうですね……」
忘れていたが完全下校の時間が迫っていた。早く後片付けをしなければならなかった。
俺たちはその場にある、画用紙やらマーカーペンやらを急いで片付けて、図書室を出た。
その後の廊下で俺は再び、あのことを言おうとしていた。やっぱり、何かがおかしいと思ったから。
「あ、あの!嶋崎さん!さっきの話だけど」
「小鳥遊くん。」
「な、なんですか?」
「明日は、図書室に来ないで下さい。お願いします」
「な、なんでですか?」
彼女から予想外の言葉が出てきた。一瞬、驚きのあまり固まってしまいそうだったがなんとか持ちこたえ、ワケを尋ねる。
「明日も勉強出来そうにないからです。」
「それでも、俺は……」
ポップ作りなら俺も手伝います!それでもいいですから俺も、図書室に……と言おうとしたその時だった。
「私は小鳥遊くんの時間を奪いたくないです。お願いします。小鳥遊くん。明日は図書室に来ないで下さい」
「で、でも」
「私なら大丈夫ですから!」
必死に笑顔で繕おうとする嶋崎さん。だけど、俺にはわかる。
今回でもう疲労困憊なのに、明日も同じペースで出来ないことぐらい。
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