10 本屋の前に
沢山のブクマありがとうございます!
作者、嬉しいです!
放課後、今日の天候はいつもと違い少し曇っていた。これはもしかしたら、下校途中に一雨あるかもしれない。
そう思いながら、図書室のドアを開けた。
「あ、いらっしゃい!小鳥遊くん!」
ドアを開けるとそこには嶋崎さんがいた。本の片付けをしている途中だったらしく、本を近くのテーブルに置いてこちらに挨拶してきた。
「すみません。少し遅くなってしまって」
実は今日も直行できた訳ではなかった。ゲル状の海知さんが中々一人で下校してくれなく、それに手こずっていたのだ。
最終的には、海知くんが渋々帰ってくれたのだが……
てな感じで、15分くらい遅れてしまっていた。
「全然気にしてないですよ」
彼女はそう言って微笑むとまた本を持って片付け始める。俺も椅子に荷物を置いて、彼女の手伝いを始めた。
「じゃあ、俺はこの本を片付けますね」
「あ、ありがとうございます。助かります」
彼女は作業しながら、お礼を言った。
さて、この本の片付け場所は………
確かこの図書室は「あ」から「ん」の順番で本が置かれていたはずだ。この本の題名はっと………
「えーと。君が好きだ、愛してる」
「っ!……え?」
俺が本の題名を読み上げた瞬間に嶋崎さんがこちらを見た。
その顔は何故かすごく赤くなっている。
「どうしましたか?」
「い、いえ、なんでもないです」
「この本って、ここでいいんですよね?」
そう言って、彼女に題名を見せた彼女はその本の題名を数秒ガン見してから、
「そ、そういうことだったんですね」
と話と噛み合っていない応答をした。
「え?どういう意味ですか?」
「いえいえ、なんでもないです!」
「そうですか」
一体なんだったんだろう。彼女は一瞬、安堵するような表情をしたかと思うとその後少し寂しそうな顔をしたのだ。
どうしたんだろう……
俺なんかしたかなぁ………
と自分で思い当たる節を探してみると、
あ、もしかしてあのことか?
一つ思い出した。
「そう言えば、今日のクッキーありがとうございました。とっても美味しいかったです」
「そ、そうですか?ありがとうございます……嬉しいです」
彼女は自分の手作りを褒められて少し照れている様子だった。
「それにしてもハート形のクッキーなんて初めて見ました」
「そ、そ、それは!家にあるものが……それしかなくて!!」
「この前は星型のクッキーでしたよね?」
「乾いていたものがそれしかなかったんです!」
なんか、嶋崎さんが必死である。
どうしてだろうか、俺は別に何型でもいいし、珍しいと思ったから言っただけなのに、なんでそんなに慌てているんだ?
少し気になったがわざわざ聞くことでもないと思ったので尋ねなかった。
「でも、本当に美味しかったです。なんか女子からの手作りってカップル気分を味わえてよかったです」
「か、かっ!カップル?」
「あ、すみません!つい……」
そうだ、嶋崎さんはそういうことあまり好きではなかったんだ。俺としたことが、女子から手作りクッキーを貰えて有頂天になっていたらしい。
「本当にすみません。決して、変な意味では……」
苦し紛れの言い訳をしてみたが、こんなのダメに決まってるよな………
引かれることを覚悟していたが………
「わかってますよ?喜んで貰えて何よりです」
彼女は何故か笑顔であった。
あれ?なんでこんな笑顔なんだ?
普段なら鋭い視線が刺さるはずなのに………
あ、そうか!奇跡的に、俺が喜んでいるように伝わったのか!!
いやぁ……もう手遅れかと思ったが、よかったぁ……
ここで嫌われてしまってはなんか嫌だった。しかも殺されるかもしれないし。
俺は本当に強運である。
図書委員の当番の本の整理が終わると、俺たちは勉強を始めた。
今日は本屋に行くため、準備に時間がかかる紅茶はなしになった。
正直言って、嶋崎さんの紅茶を飲みたかったが、昨日の予定を変更してもらっている手前、これ以上わがままも言えない。
家庭教師並みの距離でマンツーマンの授業が始まった。教科はもちろん数学。
「あ、そうそう。そうやって、そうです!よくできました!小鳥遊くんはやっぱりすごいです!」
応用問題を全て解き終わると、彼女から労いの言葉を貰えた。
「嶋崎さんの教え方がいいお陰で、数学に自信がついてきました」
「そうですか?それはよかったです!数学はやればやるだけ点数が伸びる教科ですからね」
「そうですね!これからもよろしくお願いします!」
「任せて下さい、私が小鳥遊くんを…………肩を並べられるような存在にしてみせます………」
「はい、よろしくお願いします!」
なんて頼もしい言葉なんだ。彼女から、その言葉を聞けて嬉しかった一方、疑問に思ったこともあった。
なんで、この人途中から声が小さくなっているんだろう?
彼女の声音は次第に小さくなり最後の方はほとんど聞こえなかったのだ。
折角、頼もしい言葉を言ってくれたのに、なんだろうこの気持ちは……
何故、彼女の声音が小さくなったのか、そして、その時彼女の顔が赤かったのか、俺はよくわからなかった。
勉強道具を片付けている時に、完全下校を報せるチャイムが校内に響き渡った。
「じゃあ、本屋に行きましょう」
「はい、そうですね……」
そうして、玄関に行って靴を履いて外に出てみると、、
「わぁ………すごい雨……」
外は土砂降りとまではいかないが結構な量が降っていた。
傘をさせば全然問題がないのだが…………俺は傘を持ってきていない。折りたたみ傘も家に置いてきてしまっていた。
「困った……傘を忘れた」
無意識にそう呟くと、彼女がそれを聞いていた。
「傘、ないんですか?」
「そうなんです。今日、雨降るとは、思ってなくて」
「天気予報は、降水確率100%でしたよ?」
「天気予報、見るの忘れました………」
昨日はいつもよりも寝るのが遅く、それによって朝起きるのも遅くなった。
くそぉ……ついてねぇなぁ……
少し嫌だけど、我慢して濡れるか……
そう覚悟した時、
「あの………もしよかったら………私の傘、一緒にはいりますか?」
「えっ?」
聞き間違いか?と嶋崎さんの方を見てみると、彼女は俯きながら、傘を握りしめていた。
どうやら空耳ではなかったらしい。
「いいんですか?」
「はい、小鳥遊くんなら安全なので大丈夫です」
「俺、傘無しでも大丈夫ですよ?」
「な、何言ってるんですか!?風邪ひきますよ!!傘に入ってください!!」
「は、はい」
彼女は傘を開くと、俺を手招きする。顔はとても赤い。
俺がもし傘に入ったらこの状態は、相合傘になる。
もしかしたら嶋崎さんはこの状態が恥ずかしいのかもしれない。
くそぉ!俺がしっかり傘を持ってきてたら、こんなことには……
自分のだらしなさにイラついた。
「小鳥遊くん。本屋さんに行きますよ?」
彼女が再び俺を呼ぶ。
「あ、はい。じゃあ、失礼します」
「は、はぃ……」
こんなに近距離なのは初めてだった。彼女の制服が俺の制服につきそうである。
少し距離を取った方がいいかな?
とそう思った時である。なんと嶋崎さんがこっちに近づいてきたのだ。
「し、嶋崎さん?」
「密着しないと小鳥遊くんが濡れてしまいます」
俯いてそういう彼女に、俺はまたやってしまったと気づいた。
どれだけ彼女に気を使わせているんだ。
もう少ししっかりしなければならない。
だけど、なんか嶋崎さんとの距離が少し近い気がする。なんかここまで近づかれると窮屈に感じるが、傘に入れてもらっている分際でそんなことは言えないのでそのまま歩いて行った。
もしかしたら、嶋崎さんは雨が苦手なんだな?
それでこんなに近距離なんだ。
雨が降っている下校道、嶋崎さんの新しい発見が出来た。隣で歩く彼女は相変わらず可愛かった。
ブクマ、評価、よろしくお願いします!