少年と塔の魔女5
しばらく月を見ていました。
頬が乾いたのでお家に帰ります。
村の外れにある小さな小屋が僕のお家です。
草が元気いっぱい好き放題に生えてます。
僕が帰ると、みんなお家から駆け出して迎えてくれます。
お父さんも、お母さんも、お姉ちゃんも、お兄さんも。
みんなに囲まれておうちに入ります。 寂しくなんてありません。
なのに。
「父さん、母さん……」
また頬が濡れました。
お母さんが心配そうにしたから見上げてます。 そして、悲しそうに、「くぅん」と鼻を鳴らしました。
「大丈夫だよ、僕は大丈夫。 だから心配しなくて良いよ、お母さん」
心配そうに鼻を鳴らすお母さんの、ふわふわの毛並みの頭を撫でます。 お母さんは心配そうな顔をやめて、尻尾を振っています。
それをみて他のみんなも撫でて欲しそうに僕の周りに集まってきました。
みんながいるから寂しくありません。
今日は。
今日だけは特別です。
優しく名前なんて呼ばれたのは久しぶりだったから。
僕の願いは変わりません。
大丈夫。
神様にだって誓います。 いるかどうかはわかりませんが。
「わん」
「うん、もう夜もふけたしね、寝よっかみんな」
こんな日は、きっと眠るに限ります。
嫌なもの良いもの。 全て奥に押し込んで。
朝が来る頃にはきっと落ち着きますから。
こうやって、ふわふわの毛並みの中で眠れば、寂しくもないし、寒くもないですから。
胸の奥が痛いのは、きっと食べたくないのにお昼にパンを食べたからです。 きっと、そうです。
全く。 何で夜ってこんなに長いんでしょう?
「魔女、教えてよ? どうすれば、夜は早く終わるの?」
まぶた越しに外が明るくなっていくのがわかりました。
朝が来たようです。
眠れたのかどうかわかりませんが、どうにも頭がぼんやりしてます。
多分寝不足ですね。 きっとそうでしょう。
魔女の塔に今日も行こうと思います。
外に出ると、畑に行く人なんかがうろうろと歩いてますね。
僕の方を見ると目を逸らします。
嫌になりますね。 僕が何をしたっていうんでしょう。
しばらく歩きます。
「あ、ヨルン君」
呼び止められました。 振り向いたら、居たのはパン屋のお姉さんでした。名前はエルザさん?だった気がします
あまり得意じゃないです。
なんだかおどおどとして僕の事を避けているような、そんな感じです。
「ヨルン君、パン、食べない?」
意外でした。
「昨日いっぱいパン買ってくれたでしょう?余程お腹が減ってるのかな?と思って持ってきたんだけど」
「いいの?僕もうお金はないよ?」
あれば魔女のお金です、次を期待してるのであれば僕は何も払うものはありません。
「いいの、できればもらってほしいのよ。 私なんかから貰うのは嫌かもしれないけど、パンは美味しく作ってるから」
そうだね、あなたからのパンはできれば口にしたくないかな。
「ううん、せっかくだからもらっても良い?」
思った事を口にするのはやめました。 この人が悪いわけじゃないですし。
頭では、わかっているんですけどね。
「あの、ヨルン君、その、ごめんなさい」
「何が?」
「その、あなたの家族のこと、村のみんなの…….」
「それ以上は言わないでよ、僕に許せ、ていうなら」
そんな残酷なお願いされたら、僕は。
どうすれば良いか、わかっちゃうから。