逃走
「おいっ待て!」
「逃がすかっ!」
僕は川に沿うように走った。
警官達が数人追いかけて来ているが、今の僕に足の速さで勝てるはずもなくどんどん距離は離れていく。
パトカーは河川敷の下に降りることは出来ないため、僕を追いかけることも出来ない。
まあ、万が一追いかけて来たとしても僕を捕まえることは不可能だろう。
え?どうしてかって?
そんなの簡単な事だよ。
それは僕がパトカー以上のスピードで走っているからだ。
ね、いたってシンプルでしょ?
電車位の速さはあるんじゃないかな。
・・・・・・。
怖い。自分が怖い。
ヤバすぎるだろ!この力!
ドン引きだわ!我ながらドン引いたわ!
それに何が一番恐ろしいかっていうと、限界を感じない所だ。
今こうして川端を走っていてもまるで疲れを感じない。
むしろ余力を残している位だ。
まあしかし、これなら確実に逃げ切れるだろう。ひとまず安心だ。
さて、これからどうしたかとか...。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
走ること数分。
僕は裏山に着いた。
僕のすむM市は、市駅を中心にオフィスビル群が立ち並んでおり、その周辺を囲う様にして住宅街が広がっている。
しかし市の開発が始まったのは十数年前。
オフィス街こそ立派なものの、それは駅前だけの話。
まだまだ開発の進んでいない端の方は人口も少なく、切り開かれていない山々や森が広がっている。
だからここは人目を避けるにはうってつけの場所なのだ。
それにしてもここは静かな場所だ。
朝から散々だったからな。
久々に心を休められる。
逃げるときに鞄もしっかり回収してきた。
幸い今日の授業に体育があるので体操服が入っている。
後は覚性を解除してこの体操服を着れば良いんだが...。
どうすれば解除出来るんだ?
そもそも僕は覚性する方法すら分かっていない。
うーん、困ったものだ。
身体よ戻れっ!とか頭の中で色々念じてみたりしてみたが何をやっても駄目。
これはどうしたものかと悩んでいると、
ガサガサッ──ボスッ!
頭上になにかが落ちてきた。
「な、何だ?」
恐る恐る手でそれを降ろす。
落ちてきたものの正体、それは虫だった。
芋虫とか何かの幼虫とか、そういった類いの一番気持ちが悪い奴だ。
「う、うわっ!」
僕は思わず悲鳴を上げた。
何を隠そうこの善平譲二、虫が大の苦手である。
小さい頃からあのうねうねした感じや、グロテスクな外観がどうしても無理だった。
突然のことに驚き、虫を慌てて払ったその時
ブッシューーー
突然僕の身体は、穴の空いた風船の様にどんどん縮んでいった。
一瞬で全身の力が抜けていく。
そしてあっという間に元の姿に戻った。
や、やった!普段通りの僕だ!
でも、何故元に戻る事が出来たんだ?
もしかして、あの虫が原因なのか?
苦手なものに反応して力が解除されたと考えるのが自然だが...。
まあ、何がともあれこれで一件落着だ。
取り敢えず体操服を着て、と。
さて、これからどうするかな。
今日はもう学校には行けそうにないな。
親と学校に連絡しないと...
ガサッ...ガサガサッ
ん?今度は何の音だ?
その音は、先程とは比べ物にならない程大きく、僕の背後で鳴った。
今度は何だよ...。
また虫か何かだろうと振り返ると
以外。
以外だった。
そこには一人の女性が立っていたのだ。