事案発生
「きゃぁぁぁぁあああ!!!」
突如聞こえる悲鳴。
道の前方に一人の女性が立っていた。
取り乱した様子で河川の方を見ている。
通り過ぎる訳にもいかないので、取り敢えず話しかける。
「どうしたんですか?」
「うちの..うちの子が!」
!?
女性の目線の先に目をやると、そこには川に流されている女の子がいた。
必死にもがいて溺れないようにしているようだ。
おいおい、ヤバいぞこれ。
幼女がびしょ濡れになっているのもヤバいが、それ以上に心配だ!
幼女は見るに5~6歳といったところだろうか。
その未熟な身体を必死に動かしているが、体力的にはもう限界に近いだろう。
勢いよく上がっていた水しぶきが、徐々に弱まっているようにも見える。
一刻を争う事態だ。
考えている時間は無い、僕が助けよう!
と、言いたいところだが果たして僕に幼女が救えるだろうか?
川幅はとても広く、川の中腹辺りまでといっても中々距離がある。
往復となると相当だ。
川の流れもそこまで速くないとはいえ懸念材料にはなるだろう。
というか僕そもそも25mプールすら泳ぎ切ったことないんですよ。
いやマジで。
実はというと僕は昔から大の運動音痴なのだ。
これもう無理だろ。
しかし周りには僕と幼女の母親しか居ない。
しかもなんか幼女の母親からは「助けてくれますよね」的な眼差しが向けられている。
あ、やっぱり僕が逝くしかないっすかね。
どうしようもない。
しかし行かない訳にもいかない。
意を決して川に飛び込もうとしたその時───。
「力が欲しいか?」
その声は突然僕の頭の中に響き渡った。