【 Ep.3-032 応答者-Answerer-(アンサラー) 】
第五階層の守護者のモンスター達が不気味な蟲によって合成魔獣へと変貌。
ありえない光景ではあるが、天兎メンバーらは長年一緒に戦ってきた連携力でこれを撃破。
違和感を覚えつつもダンジョンの攻略を続ける――。
カルメンは目の前の光景に息を飲み込んだ後しばらく口が開いたままだった。無理もない。自身が現役でパーティに属していた頃でもここまで目を奪われる連係攻撃は数度見たことがあるかどうかのレベルだったのだ。
フロアボス出現時に軽い指示はあったがそれ以降は各自が最善手に近い行動を取り、さもそれが当たり前の様に実行されるだろうと全幅の信頼を寄せ次の手を打っていくという俄かに信じられない連係の良さを見せるなど高ランクの冒険者パーティでもそうそう目にできるものではない。
熟達の冒険者パーティが5,6名で構成されるのは戦闘時の連係を考えた上での最もバランスが取れた人数だからで、これ以上増やすとなると荷物持ちや地図作成者等の直接戦闘に関わらないサポーターである事が殆どなのだ。
だが先の戦闘だけに限らず天兎のメンバーであればこの程度の戦闘連係プレーは身体の感覚が馴染んできた今、無理や無茶をしなくても自然とこなせる状態にある。ラインアークをはじめとするVRMMOゲームで嫌というほど一緒に戦闘を重ねてきた経験が、身体に、脳に、刻まれている様なものである。
この世界に転移してから暫くは身体と精神とのズレが発生していたお陰で十全に発揮できなかった実力も、其々が自身に合ったスタイルで修練を重ねた結果ほぼズレもなくこちらの世界の身体のポテンシャルを引き出せる様になってきているのだ。後は死の恐怖と自身の覚悟との綱引きをどう制御して付き合っていくかだ。
こちらの世界での戦闘経験を積み重ねてきた事もあり、死への恐怖は仲間への信頼・仲間からの信頼によって打ち勝っている。少しでも仲間への信頼がなければ先の戦闘の様な連係攻撃は上手くつながらず誰かが大怪我を負ってしまう事もあり得るのだ。
これは天兎に限らず、長年一緒にプレイを共にしていたメンバーで作られた転移者のパーティでも同様の事が起きており、天兎ほどではないにせよその連係力の高さは頭一つ抜きんでている為各地の冒険者ギルドでは期待のルーキー達として一目置かれはじめている。
「凄いな、君達の連係力は……」
「このくらいならわけねーって!」
「っすね。油断は出来ないっすけどまだまだやれるっすよ」
一時的に隠遁を解いたカルメンが姿を現して思わず口にした言葉にケントとシキは余裕ぶって答える。
世辞抜きにしてもそういった評価は有り難いところだけど、態々隠遁を解いてまで姿を現したのはその言葉をいうためではないだろう。
「ああ。君達の実力についてはよく分かった。だが監督役としてはこの先に進むのは考え直して欲しい」
「それはなんで?」
「……このダンジョンは明らかにおかしい。君達がこれまでの道中に戦ってきた合成生物だが、あんな歪なモノは今まで見た事がない。更に合成魔獣もこんな浅い階層に出るようなモンスターでもないんだ。今戦ったやつだってそうだ。合成魔獣は基本的に錬金術の結果生み出されるモンスターであって、あの奇妙な蟲が核となってその場で変貌するだなんてあり得ないんだ。異質過ぎるんだ、ここは……」
真剣な顔で忠告してくるカルメン。だけどここで引き下がる訳にもいかないだろう。何しろ国からの指名依頼を途中放棄する事は後々の事を考えると良い結果にはまずならないだろう。それにこのダンジョンはボク達を逃すつもりはないらしい。
「冒険者の先輩であるカルメンさんの忠告は有り難いのですが、今回ボク達が受けた指名依頼はこのダンジョンの攻略です。それに相手もボク達を逃すつもりはないみたいですよ?」
「何?!」
ボクの視線の先、カルメンの後方にあるこの広場に繋がっていた通路が奥の方からどんどん樹々によって塞がれていく。一応いざという時用に帰還スクロールは荷物の中にあるけれど使うつもりは勿論ない。本当にヤバくなったときは別だけどね。
「この先に何が待ち受けているかは分からないけど、その何かはボク達を招いてるのは間違いないみたいだしボク達も引き下がるつもりはありません」
「……ッ!退路を絶たれたか……。そうだな、君達が受けた依頼を踏まえれば確かに引き下がるのは問題がありそうだ。なら、いざとなれば私も加勢しよう。出過ぎた真似をしてすまない」
「いえ、頭を上げてください。ともかく今は前に進みましょう」
今は兎に角前に進むしかない。退路を塞いだことといい、どうにもまだ見ぬこのダンジョンの主はボク達を試しつつも自身の元へとボク達を招きたいという思惑が煤けて見える。危険は確かにある事はあるけれどそれは別にこのダンジョンに限った事じゃないしね。
気を取り直したボク達は第六階層に続く階段を降り、程よく肩の力を抜きながらも注意警戒を怠らずに更に奥へ奥へと足を進めた。
第六階層から第八階層はダイアーウルフ、虎の身体に狼の頭部と羊の頭部、猫の尻尾を生やしたレッサーキマイラ、赤い肌色に鋭い角を持ち<火玉>も使用してくるヤギ型モンスターのクルーエルゴート、人の頭部大の体躯を誇る蝙蝠型のモンスターケイブバット、サッカーボールが八つ連結したようなボディに頭部と思わしき先頭部にずらりと歯が並んでいる芋虫型モンスターのバイティングキャタピラーなどが襲い掛かってきた。
この中で厄介だったのがバイティングキャタピラーだ。第六階層からは更に深い森の疑似フィールドになり碌な光も届かず足場が不安定となった。その様な環境下での戦闘は他のモンスターは比較的視線の高さが一緒なので<光源>の灯に照らされて視認できるのに対し、バイティングキャタピラーは地を這っている為に視認しづらく、襲撃してくるタイミングも他のモンスターに紛れて近づいてくるため気付けば足元まで接近を許すという事態も何度か発生したのだ。
夜目が利くボクやシキにベネであっても常に足元を見るわけにもいかず、ドーンエルフの種族補正と斥候のクラス補正でメンバー内で最も夜目の利くセトをバイティングキャタピラーの警戒担当に回すことで戦闘の安全度を上げて攻略速度を戻すことに成功はしたが、見た目が気持ち悪いバイティングキャタピラーが足元でうねうねと蠢きながら噛みつこうとする様は間違いなくトラウマを覚えるレベルの光景だった。
そうして第九階層に到達すると其処からのダンジョンの様相とモンスターはまた一変した。これまでの擬似フィールドとは違いどこかの廃れた廃坑の様な洞窟へと姿を変えたダンジョン内部。
狼に似た体躯にオレンジ色に明滅する独特な紋様が刻まれ、<火玉>をも駆使して襲いかかってくるレッサーガルム。人の大きさを優に超える体長に毒々しい緑の甲皮に赤茶色の無数の脚、強烈強靭な顎に毒を持つ百足型モンスターのポイズンセンチピード。黒い体表と毛に覆われ妖しく発光する大顎を備えた骸骨の様な頭部を持った巨大な蜘蛛のモンスター、ウンゴリアント。異様に発達した細長い脚が上下に八脚ずつ生えた頭部と胴体が一体化したボールの様な奇妙な身体、その前面部に大きく開いた口は二重になっており喉の奥の方に一つの目玉が見え隠れしているトーテムレッグと呼ばれるモンスター。そんな形でも一応は蟲に分類されるらしいのだけどゲジゲジ並みの気持ち悪さがボク達を襲ったのは言うまでもない。
時折上層に出現していたモンスターも出るには出るが、下層の敵と比べれば雑魚もいいところだろう。
「すまん、そっちに抜けた!」
「こっちは任せろ!ったく人の嫁にちょっかいだそうたぁいい度胸じゃねえかこの野郎!!オラァッ!!!」
メインタンクであるケントに脇目も振らずウンゴリアント二匹が後衛のマリー目掛けて突っ走る。その前に立ち塞がったのは天兎メンバー一の体躯を誇るベネデクトだ。腰を落として力を込め、自慢の戦斧を横薙ぎに思いっきり振るいそのまま勢いを殺さずに回転し続ける回転旋風斬の前に二匹のウンゴリアントはバラバラに刻まれていく。
第九階層の奥へと進むにつれモンスターの出現頻度が増え、ケントの<挑発>のクールタイムが間に合わない場面が増えてくる。<敵対心>を自身に向ける<挑発>はそもそも何度も連発できるスキルではなく、自身の体内を流れるマナを特殊なエーテルに変換し音の形で放射し一定範囲内の対象の本能を操作するスキルであり一度効果を発現した対象は抗体ができたかのように効きづらくなるという特徴がある。また熟練の使い手であっても効果範囲や効果持続時間の向上はできても再発動可能までのクールタイムは短縮はできない。
ケントも可能な限りスキルを回してメインタンクとしてのロールをこなそうとはするものの、討伐速度よりダンジョンの奥側より出現するモンスターのリポップ速度の方が
早く手が追いつかない。
「キリがないっすよこれ!」
「口動かす暇あるなら体動かして!まだマナポイントには余裕はあるけどこのペースだと長くは持たないわよ」
「流石にこの得物で多数相手の戦闘は厳しいものがあります……ねっ!!」
シキがセトと共にレッサーガルム二体の相手をしながら弱音を吐くが、シオンがすかさず檄を入れる支えてもらっている事を思い出したシキは再びその拳に力を込めるとキレのある動きでレッサーガルムの顎を掌底で綺麗に打ち上げノックダウンさせた。シキに檄を入れたシオンはパーティの中心に布陣して前衛を中心に回復魔法で支えている。いまだ修練の成果は出てはいないものの、パーティにおけるメインヒーラーとしての動きは流石で今のところ皆に大きなダメージが蓄積する状況にはなっていない。チグサは口を動かしながらもトーテムレッグの脚を斬り飛ばしながら駆け、天井に這っていこうと動いていたポイズンセンチピードの関節部を正確に斬り払って両断していた。
倒しても倒しても敵が追加される状況に各自の息が上がってくる。ボクはモンスターを斬り、突き、叩き潰しながら隙を見ては進んできた道から追いすがってくるモンスターたちに向け、森羅晩鐘の固有スキルである樹槍をなるべく交差する様な角度をつけて床へ穿ちつけていく。
「マリー!そろそろいけるよ」
「――炎よ炎、我が望みに応えその姿を壁としてあらゆるものを焼き阻め!<炎壁>!!」
マリーの詠唱に応じて出現した炎の壁はボク達が進んできた後方に展開されボクが穿ちつけた樹槍にも燃え移り後方より迫ってくる敵の加勢を阻む。展開中は魔力を消費する魔法ではあるが、樹槍を燃えやすいように穿っていたおかげで<炎壁>は想定以上の効果を発揮してそのまま燃え続けマリーの魔力注入を切っても火の勢いは衰えない。この様子ならばしばらくは炎の壁は維持されるだろう。<炎壁>の維持をせずに済むと言うことはマリーの戦力を足止めだけでなく殲滅にも回せるのは大きい。図らずもマリーの魔力消費を抑えた上に足止めと殲滅に回せれるという相乗効果も得ることに成功した。
「よし、今のうちに前面の敵を突破しよう!モーリィは後方の警戒をお願い。他は前面集中でいくよ」
「なら付いて来いよ?いくぜ、<シールドチャージ>!!」
<炎壁>を越えてモンスターが現れない事を確認できたので戦力を前方へ集中させる。今は一歩でも早く前へ進んで階層を突破するのが重要だ。ケントが盾を構えたままモンスター達に突撃していき弾き飛ばしては<挑発>を使用して敵の攻撃を自身に集中させそれを盾を器用に使って防ぎいなして捌いていく。モーリィに後方の警戒に当たってもらいながら、火力の一点集中でモンスター共を轢き殺す勢いで殲滅していく。
長く感じた第九階層を第十階層へと続く階段にどうにか到着して一息を入れる。
「一時はどうなるかと思ったけどどうにかなったね。セラの機転とマリーのおかげだね」
「<炎壁>の補助になればと思ってやってたのが想定以上の効果になったのが大きかったね。マリーの火力を足止めだけに使うのは勿体無かったし」
「せやねー。うちだけやったらこうはいかんかったやろうし、まぁ今はうまくいったんやし次ん事考えんとな?」
マリーがそう言って階段の下へ視線を送る。他の階層とは難易度が段違いだった第九階層から続く第十階層への階段の先からは昨日感じた不可解な視線が向けられているのを感じる。それはまるでボク達を値踏みしているかの様で悪意とも敵意とも言えないねっとりとした気持ち悪さがある。
「兎に角一度ここで体制を整え補給と休憩をしっかり取った上で進みましょう。モーリィ、私の武器の軽いメンテナンスを頼めますか?」
「あくまで応急処置でしかねェがまぁ見せるだけ見せてみな。あとケント、お前の盾も一度こっちへよこせ。チグサの得物よりお前のやつの方が損傷してるはずだ」
「おう、頼むわモッさん」
二人の得物を預かったモーリィは手早くチグサの得物を点検し、懐から手拭いを出して刃の部分を磨いていく。後は刃毀れがないか具に点検した後はチグサに返却して続いてケントの大盾の点検に入った。
「こいつァまたえらく傷んでやがんな……。本格的な修繕は帰ってからやるにしてもとりあえずはここを革で巻いて……後は――」
ぶつくさと呟きながら応急処置をしていくモーリィを横目にあまり美味しくはないマナポーションを飲んで減らした分の自分のマナを戻しておく。ライフポーションであれば傷口にかけるだけでも飲むのと比較して多少効果は落ちても効能は出るのに、マナポーションは飲まないと効果は無い上に飲める量も胃袋的に限度があるし短時間に何度も飲むと中毒になる危険性がある。なんとも不便なアイテムだけど、次に進む為にもしっかりと補給をしておかないとね。
モーリィがケントの大盾の応急処置を終えたので再び強化魔法を掛け直して第十階層へ降り始める。今までの階段とは違い体感で倍の長さはあるだろうか、着いた先は即ボス部屋の前の広間となっていた。既に強化魔法もかけ直しているし、戦闘もしていないので準備は万全だと言える。
「ケントをメインタンクに前面に、左翼にボクとベネ。右翼にチグサ、シキ、セト。中央にシオンが控えてケントをメインに支援。リツはチグサ側、クロさんはボクらの方を支援で。後衛にマリー、護衛にモーリィの基本布陣で行くよ」
「おう、任せとけ」
「ちゃんと考えて動いてよ?ケントの支援の手を抜くつもりはないけれど回復魔法だって連続して使えるわけじゃ無いんだから」
「わかってるって。じゃ、開けるぞ?」
それぞれが頷いたのを見てケントが扉に手を掛ける。ズッ……と最初に力を入れた程度で後は扉が勝手に開いていく。開いた扉の向こうの光景は何かの研究施設の様なオフホワイトな壁で構成された八角形の部屋。部屋の中央に緑と紫が混合したダンジョンコアらしきものが回転しながら浮いていてボスらしき姿は見えない。
「なんだ……?やけに明るいしボスが湧いてくる様子もないぞ」
「兎も角警戒は怠らずにコアに近づこう」
ケントを先頭にダンジョンコアへ慎重に近づいていると部屋全体へまるでアナウンスされるかの様に音声だけが響いた。
『ようこそ皆さん。ここまでの道中は如何でしたか?』
「「「?!」」」
声質的に女性。だけど姿は見えない。特定方向から聴こえるのではなく部屋全体から発せられた様な声だ。
「誰だ!?姿を見せろ!」
『ふふ……。私が誰か?ですか。そうですねぇ……今はとりあえず"応答者"とでも答えておきましょうか。姿については試練を乗り越えたなら考えてもよろしいですよ?ふふふ……』
「応答者……?お前の目的は何だ、このダンジョンを作ったのはお前なのか?」
『目的……。そうですねぇ、"今の"目的は情報収集といったところでしょうか。ダンジョンについてはそうとも言えますし違うとも言えますねぇ。私はただ命じられたままに種を撒いただけ。貴方達の敵でも味方でもありませんわ。それはそうと……そこの片隅で姿を隠して聴き耳をたてている貴方、その様な不躾な態度は失礼ではなくて?』
「!?……すまない。聴き耳を立てていたわけでは無いのだが、私も貴方と同じく今は彼等の敵でも味方でも無い立場だ。どうか理解してくれると助かる」
『ふぅん……。なら余計な事はしない事ね?』
「あ、ああ」
はっきりとしないやりとりに少し苛立ちを感じつつもこの姿の見えない相手の真意を探る。応答者はボクに答えつつも隠遁で姿を隠していたカルメンに気付いていた様でそれを指摘し、その異様な言葉の圧に根負けしたカルメンが姿を露にすると詳細は伏せながらも自身のスタンスを説明した事でどうにか事なきを得た。
「敵ではないというのならこのままここのダンジョンコアを渡してほしいんだけど?」
『一次目的は果たしたので必要ないと言えば必要はありませんけれど、タダでそれを差し上げるのはあまりにも面白味がないでしょう?ですので一つ貴方達にもう一つ試練を受けて頂きますわ。ふふふ……。さぁ御出でなさい』
応答者の呼び声と共にダンジョンコアとボク達との間に魔法陣が展開される。第五階層のボス部屋で見たやつとはまた別の紋様で、立体的にはならず二次元で展開された魔法陣が光ると地面からヌメリと白黒のマーブル模様をした液体の様なスライム状のモノがせり上がり、人程度の高さになるとポチャリと弾けて魔法陣の中へ吸収されると魔法陣は消え魔法陣のあった場所には一人の男が立っていた。
――項垂れ禿げ上がった頭部に背中は湾曲しており手足もかなり細く決して健康的とは言えない容貌をしている。纏っているローブはしっかりと仕立てられていたのだろうが薄汚れて台無しになっている。小汚く小柄なその男が首を上げこちらを見やる。
窪んだ眼孔から覗く眼はギラつき、とても理知的とは言えない形相をしていて狂人と言っても差し支えのない雰囲気を醸し出している。
「応答者よ。此奴らを始末すればワタシにも貴様の持つ叡智を授けてくれるのだな?」
『始末できればの話よ?貴方に出来るかしらね、パームゴッソ』
「フン!長年の研究成果を見せてやろうではないか。その為の媒体たるこのダンジョンコアが有ればこの程度の冒険者共など取るに足りんわ!!」
歪んだ笑いを浮かべたパームゴッソと呼ばれた男が此方に視線をよこしながらダンジョンコアを手に取る。
「ぱ、パームゴッソだと?!」
「知っているのですか?カルメンさん」
「君達もツヴァイクベルト伯爵の功績は知っているだろう?そこの研究施設においてあまりにも危険な実験を繰り返した為に追放された錬金術師がいたらしい。その者のその後の足取りは一切掴めず錬金術師ギルドが手配書を出していたくらいだ。そこに書かれてあった名前がパームゴッソだったと記憶しているが……もう何年も前の話だ」
「ほぅ、ワタシの事を知っているのかね。如何にもワタシがそのパームゴッソだ。愚かしくもあの伯爵めらはワタシの研究成果の有用性を認めず追放などしくさりおって……!!奴等に追放されてからは山奥の秘匿された洞窟で研究を続けたがな。貴様らも見たであろう?ワタシの研究成果を。不出来なものは処分もかねて浅い層に放っておいたが第五層のキメラワームは中々のものだっただろう?アレを量産すれば複数のモンスターを素材に合成生物を生成する事が容易となる。考えてもみたまえ!アレを軍事転用すれば態々騎士の育成に時間をかけ、金をかけ、挙句死ねば慰労金などを払う煩わしさは考えなくともよくなるのだぞ。合成生物であれば育成に手間など殆どかからない上に素材次第で強さも変更でき、死んだところで所詮はモンスターだ。比較するまでもない有用性だろう。それを伯爵めらは認めずに追放など何たる傲慢か!!!」
恨みの籠った声でつらつらとパームゴッソが語る。話に聞いた程度でツヴァイクベルト伯爵が実際どのような人物であるかはわからない。多少行き過ぎるマッドサイエンティスト的な側面があるものの研究内容は一応は生活水準の向上やそういった方向が基にされた品種改良であったと記憶している。
だが目の前のパームゴッソはどうだろうか。確かに彼の言う合成生物の戦力としての有用性はあるだろう。だがそれも正しく制御できればの話であって第五層で戦ったあのキメラワームにそんな芸当ができるとは思えない。対峙したボク達が感じたのはボク達に対する明確な殺意。それも知性や知能を基にしたようなものではなく本能に拠るようなもの。ただでさえ合成魔獣の制御は難しいと聞くのにそれの異種や亜種にあたるものを軍レベルで制御しようなど到底現実性があるようには思えない。ツヴァイクベルト伯爵もそういった面も踏まえた上でこの男を危険とみなし最終的に追放したのだろう。
「合成生物の有用性はわからなくもないけど結局は机上の空論でしょそれ。メリットばかり並び立ててるけどデメリットの一つも上げてない説明だなんて詐欺師がよく使う手段だよね。それにあんなモンスターで作った合成生物の制御ができるとでも?」
「ぐぬぅううう……。貴様らもあの男と同じことを言うのか!!良かろう、そこまで言うなら見せてやろう力の根源たるダンジョンコアを利用したワタシの研究成果を……獣の王たるワタシの姿をな!!!」
ボクの指摘に青筋を浮かべて反論してきたパームゴッソは止める間も無く手に持っていたダンジョンコアをそのまま自身の胸へと突き刺した。ダンジョンコアが持つ膨大なエネルギーがパームゴッソへと流れ込み、紫と緑色の光の奔流がパームゴッソから放たれ彼の姿が見えなくなり部屋全体を光が包んだ。
なんだかんだでありがたい事にブックマーク数も215に達していました。
応答者はまだ声だけの登場。パームゴッソは暗い場所でその姿を見ればゴブリンと見間違うレベルの貧相な肉体に小汚い恰好をしています。彼については何らかの機会を設けてちょっとした過去とかに触れたいところですがそこまで重要なキャラというわけでもないんですよね…うーん。
次話投稿はちょっと未定です。早くアップできればする予定ではあります。
良ければ評価を入れていただけるとモチベに繋がるのでよろしくお願いします。
2/16 アンサラーの漢字を回答者から応答者に変更しました。
※今後の展開的に適切なのが其方なので。




