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【 Ep.3-030 指名依頼(2) 】

ハルキニア王国からの指名依頼でツヴァイクベルト伯爵領にあるダンジョン攻略へと向かった天兎一行。

監督役のエルフ族の冒険者カルメンが同行するがダンジョンの内部は異様な光景が広がっていた――


 ツヴァイクベルト伯爵領の辺境にある魔造ダンジョンと思われるダンジョンへと突入したボク達天兎メンバーを待ち受けていたのは事前情報とは少し違った光景だった。巨木の洞から突入したダンジョン内部は入り口からは想像もつかないくらい広く、鬱蒼とした暗い森がそこに広がっていたのだ。

 カルメンが姿を消したまま”疑似フィールド型だと?!”と口に出していたので以前ペインゴッズのおっさんに教えてもらった洞窟型、遺跡型、迷宮型の中でも特殊なダンジョンだという事になる。ぱっと見は広く鬱蒼とした森に見えるが上を見上げれば空などはなく黒々とした天井らしきものが見える。そしてダンジョンのタイプだけではなく出現モンスターもおかしかった。

 予め入手していたこのダンジョンの情報だと魔獣(ビースト)(インセクト)の複合タイプのダンジョンという話だった。これ自体は間違っていない。間違ってはいなかったのだが……浅い階層はダンジョンスパイダーやフォレストウルフといった比較的低難易度の事前情報通りのモンスターだったのだけど、第四層へと降りてからがおかしかった。

 出現するモンスターが魔獣(ビースト)(インセクト)が奇妙に合わさったモンスターが出没し始めたのだ。オオカミの頭部と胴体を持ちながらも足が蜘蛛の形をしているモンスター。巨大のカマキリの姿をしながらも頭部はフクロウに挿げ替えられているモンスター。フクロウの頭部と言えば熊の肉体にフクロウの頭部を持つとされるオウルベアーというモンスターは存在しているがカルメン曰くカマキリの姿で頭部がフクロウのモンスターなど聞いた事がないという。いよいよこれは魔造ダンジョンであるという確信めいたものを感じざるを得ない。

 ダンジョンの攻略そのものは各自それぞれ修練をしていた結果が出ているのか苦戦する場面は今のところないものの、距離をとりながらボク達を追随しているカルメンは第五層に降りてからは無言となってその存在を時折忘れそうになっている。


 フィールド型のダンジョンではあったが、生成されてからそこまで時間が経っていない事もあってか広さそのものはそこまでではないのが幸いして階層踏破は順調に進み第五層から第六層に続くであろう場所に辿り着いた。木々に囲まれた開けた場所で奥の方には第六層へと降りる階段らしきものが見える。但し樹木に覆われてすんなりと通過することは出来そうにない。

 いかにも何か出てきますよ感漂うその空間に足を踏み入れると待っていたとばかりに空間の中央の地面に魔法陣が描かれると、魔法陣は中空へと浮かび上がり立体的な模様を描いていく。

 目の前のちょっとしたショーに目を奪われながらもいつでも対応できるように臨戦態勢をとって待ち構えて暫くすると陣の構築が終わったのか鈍い光を放つとその中からモンスターが出現した。


 最初に光の中から飛び出してきたのは硬質な灰色の肌に硬化した皮膚が鱗の様に変質した所々浮き出ている人間大の狼"ダイアーウルフ"が二匹。続いて光の中から出てきたのは人の身長を超す体格を持つ巨大なカマキリであるジャイアントマンティスだった。コイツがこの第五層を守る守護者かと思ったが後ろの光はまだ収まっていない。

 立体魔法陣から放たれる光が一際膨張したかと思うとそこから忘れる事のできない懐かしくも憎らしいモンスターが姿を現した。

 ダイアーウルフよりも一回りは大きな体躯に漆黒の体毛、頭部には四つの鋭く赤く光る眼があり、首元からは先端に両刃短剣が付いた触手を伸縮させている獰猛な魔獣……。


「複数体で構成されるボス部屋な上にそのボスが"ナイトハウンド"かよ……。こりゃ厄介そうだな」

「ナイトハウンドはケントが対応してダイアーウルフはチグサとシキで受け持って!あのカマキリはベネが受け持って最優先で処理。次いでダイアーウルフ、ナイトハウンドの順」

「「「了解!」」」


 即座に指示を出して戦闘態勢を整える。ケントであれば複数体受け持つことは可能だと思うけど、相手があのナイトハウンドとなると不確定要素が大きすぎる。元より俊敏な動きを誇っているのにあの触手短剣の動きは容易に読めるものでもない。そこに他のモンスターを任せるのはケントが受け持つリスクが大きすぎると判断した。ダイアーウルフも油断ならない敵ではあるけどナイトハウンドと比べればまだマシな相手だろう。チグサとシキであればタイマン状態にしてやればそうそう簡単に引けを取らないはずだ。

 相手の構成上もっとも厄介なのはナイトハウンドで間違いはないけど、ジャイアントマンティスの前肢の鎌と棘は放置しておけるほど生易しい相手ではない。ダイアーウルフの体当たりや牙も脅威ではあるものの体格差による攻撃の多様性の差で踏まえればジャイアントマンティスの方が危険度は高い。後単純に見た目からの威圧感というものもダイアーウルフの比ではない。


 指示を出してすぐにケントが<挑発(タウント)>を使用してナイトハウンドの敵対値(ヘイト)を稼ぎながら即座にシールドチャージで速攻をかけナイトハウンドの初手を潰していた。距離を強制的に取らされたナイトハウンドを横目に襲い掛かってきたダイアーウルフ達はチグサとシキが攻撃を仕掛け自分達に敵対値(ヘイト)が向くように行動をとっている。

 特に指示は出してないけれどシオンはケントを、リツとクロさんはチグサとシキに付いてサポートする体勢にはいっている。言わなくても最善を考えて行動できるのはボク達の強みだ。


 ジャイアントマンティスはその特徴的な逆三角形の頭部についている触覚をピクプクと動かし複眼にボク達を捉え、獲物を厳選するかのように首を傾けて鎌の手入れをしていたがそこへ思わぬ攻撃が飛んできた。ビュゥンと風切り音を立て飛来した手投げ斧を前肢の鎌で弾くと、その投手であるベネにターゲットに決めたのか細い残りの四本脚を動かし急速に近づいてきた。いつの間にあんな物騒なもの買ってたんだ……怖い。


「そうだ!こっちへ来やがれ!!お前の相手は俺だっ!」


 言葉が通じているかは別としてジャイアントマンティスは一直線にベネに接近し大鎌を振りかぶった。


 ギィィィイイイイイイイイインッ!!!


 ベネの持つ両手持ちの戦斧とジャイアントマンティスの大鎌がぶつかり派手な音を響かせた。金属と金属がぶつかり合った音がしたのは気のせいではない。そんな音をものともせずジャイアントマンティスの右後方より近づき後脚の関節部を目掛けて得物を振るう。連撃ではないものの"水月"の威力は単発スキルとしても優秀な様で、ゴシャリと乾いた音を立ててジャイアントマンティスの右後脚の途中から先を斬り飛ばした。

 体勢を崩しながらもボクの方へ目を向けたジャイアントマンティスが右手の大鎌を振り下ろしてくるが後ろに飛びのいてそれを回避する。元より無理な体勢から放たれた一撃に正確な狙いなど付けられはしないがそれでも鎌の鋭利さと棘の鋭さは油断ならない。<纏風脚(エアステップ)>のバフのおかげで身体の動きが軽く、続いて振るわれた横薙ぎの鎌も落ち着いて回避する。


 身体を支える四本の脚のうちの一つを失ってもジャイアントマンティスは攻撃姿勢を崩しておらず、三本の後脚で器用にバランスをとって鎌を前面に構えて身体を左右に揺らしながら攻撃の隙を窺っている。

 そんなジャイアントマンティスを囲む様に突如炎の壁が展開された。後列で詠唱を行なっていたマリーが味方を巻き込まないタイミングを見計らって放った<炎陣(フレイムサークル)>だ。意識を前衛であるボクに向けていたジャイアントマンティスは突然炎の壁に囲まれ慌てて防御姿勢に入って炎を耐えている。だがここで手を緩める程ボク達は甘くない。


「<暗闇霧(ブラインドミスト)>!」


 ジャイアントマンティスの頭部に向け漆黒の霧を放ち相手の視界を奪う。同時に気配を消しながら後方に回り込んでいたセトが勢いをつけて<バックスタブ>を決めに行く。セトの姿が<炎陣(フレイムサークル)>に飲まれる寸前にマリーの魔法操作によって炎の壁は消え、ジャイアントマンティスの腹部にセトのダガーが突き刺さる。


「ギュィィィィイイイッッッッッーーー!!」


 強烈な一撃を受けたジャイアントマンティスは耳障りな悲鳴を上げデタラメに鎌を振り回すが既にセトの姿は攻撃範囲外の位置にある。あえてこのタイミングで正面からジャイアントマンティスに特攻をかけ敵対値(ヘイト)を自分に向けてターゲットになる。デタラメに振るわれる前肢の鎌を水槍流の動きで払い、受け流し、時に相手の力に別ベクトルを当てて逸らす。

 

「おおら、飛んでけぇぇぇえええ!!」


 こちらが敵を引き付けている隙にベネの持つ戦斧のヘッドを足場にしてこれまで目立つ動きを見せなかったモーリィが砲弾の様に打ち上げられる。


「どっせぇぇぇぇぇぇぇええええええええいっ!!!!!!!」


 山なりの弧を描きながら最高点に達したモーリィは頭上に得物のウォーハンマーを振り上げジャイアントマンティスの後方の腹部へ落ちていく。このタイミングに合わせて攻守一転反撃に移り、修練中ではあるものの水槍流の連撃の型を交えてジャイアントマンティスがモーリィに攻撃しないように張り付かせる。


「<グランドスタンプ>!!」


 落下の勢いを乗せたモーリィの強力なスキルが無防備な腹部にクリーンヒットし、その衝撃に耐えきれなかったジャイアントマンティスの潰れた腹部から緑色の体液が飛び散った。


「スイッチだ、セラ!!」


 後ろから投げかけられたベネの言葉に真横に飛びのくと、先ほどまでボクの居た位置に勢いよく走りこんできたベネが割って入り、後ろ手に引き絞った戦斧を斜め上にある首に向けて振り払われた。


「<チャージングストライク>!!!」


 戦斧のブレード部にベネの体重も載せた強力な一撃がジャイアントマンティスの頸部にぶち当たる。グシャッっと音が鳴りジャイアントマンティスの頸部がひしゃげて頭部がもげ落ちた。ベネが振り払った勢いを殺さぬ様に前方へ抜けたタイミングで再度ジャイアントマンティスに向けて駆ける。


「<ガストピアース>!」


 頭部との神経伝達が途絶えて防御姿勢がままならない胸部に向け"後"を考えない体重を乗せ、走った勢いも乗せた槍系スキルの<ガストピアース>を放つ。狙いは敵の心臓だ。幼い頃虫遊びをした人は知っているかもしれないが、カマキリに限らず虫は頭部を失っても暫くは自立行動をとる事が多い。頭部がもげ落ちたところで動きは鈍るだろうがまだ敵は"動ける"のだ。故にその肉体を動かす動力器官を確実に破壊する。


バキッ!グブシュッ……!


 鈍い音を立てながら胸部の外骨格を突き破って内部を穿つ。ボク自身の体重と突撃の勢いを乗せた一撃は固い装甲を貫いて内部で弾けたはずだ。穿った孔からドロドロと緑色の体液が溢れ出し、器用に体を支えていた三本の後ろ脚からも力が抜けてジャイアントマンティスはその巨体を地に横たえ動かなくなった。


「よし、次!」


 ジャイアントマンティスの肉体がこれ以上活動しないことを確認できたのでチグサとシキの加勢へ回る。時間をかけたつもりはないけれど心配なものは心配だ。二人を支えているリツとクロさんにターゲットが向いてしまえば状況は悪くなるしね。それに早いところ二人の加勢をして片付けないと、ナイトハウンドを相手しているケントの負担がまずい事になるだろう。



『Dランクパーティだと聞いてはいたが指示の出し方といいそれぞれの手際といいランク以上の実力は有しているとみていいだろう……。パーティのクラスバランスもあるのだろうが、通常のパーティよりも多いこの人数で的確に連携をとって戦闘するのは簡単ではない。各自の特性をそれぞれが把握し、認識し、最優の一手を考えて動いている……。冒険者登録からパーティ編成・登録して間もないと資料にはあったが信じられん』


 カルメンは<隠遁(ハイド)>状態のまま全体を見渡せる位置で戦闘の流れを注視していた。天兎一行の実力を前にして彼は極めて冷静にそれぞれの資質を見極めようとしていた。


『それにしてもこのダンジョン、何かがおかしい。情報にあった魔獣(ビースト)(インセクト)の複合タイプのダンジョンではあるが、第四階層から出てきたあの奇妙な合成生物(キメラ)は何だというのだ……。合成するにしてもチグハグだし何か目的を持たせて作ったにしては雑さ加減が普通ではない。上級ダンジョンであれば合成魔獣(キマイラ)が出る事もあるが、あの様ないい加減に組み合わせた合成生物(キメラ)がダンジョンに出るなど耳にした事もないぞ……』


 天兎の実力と資質を見ながらもカルメンはこのダンジョンで感じた違和感に対し言い知れぬ不安を感じていた。冒険者となってから60年近く経つが、パーティを組んでいた時ですら低層で合成生物(キメラ)が出没するダンジョンには遭遇しなかったし、ここで見た様なちぐはぐのただ子供が適当に繋ぎ合わせたような合成生物(キメラ)などまともな下積みもしなかった三流の錬金術師が錬成した結果でもなければ目にすることなどないのだ。そもそもが合成生物(キメラ)に属するモンスターは二桁台の階層以降でしか出没しないモンスターとして中堅以上の冒険者には知られている。

 カルメンがそう思案している間に状況は天兎にとって有利に傾いていっている。ジャイアントマンティスを倒した事でダイアーウルフを抑えていたメンバーに加勢が加わり二匹のダイアーウルフは奮闘虚しく撃退。決して弱いモンスターではないが、まだ低階層と言えるエリアのモンスターであり何よりも相手が天兎メンバーである。

 カルメンが認めている様に実力も申し分無い冒険者複数での攻撃の前にはダイアーウルフであっても土台耐え切れるものではなかった。


「ケント、お待たせ!」

「ああ、結構早かったな!相手してわかったがよくこんなやつを短時間とは言えやりあえたなセラは」

「そういうのは倒した後で!」

「だな!」


 シオンのサポートを受けつつ一身にナイトハウンドの相手をし続けていたケントの盾には幾つもの傷跡が見られた。特徴的な触手短剣も含めたナイトハウンドの攻撃はベテランの冒険者でも容易に捌けるものではなく、盾一つで自身に大したダメージを負わずに時間稼ぎをやり遂げたケントの防御能力の高さが窺える。

 そんなケントを軸にして取り巻きのモンスター達を排除し終えた天兎メンバーがナイトハウンドに対し攻撃布陣を敷く。触手短剣の攻撃範囲を踏まえてそれぞれの距離は密集しない程度には空いており、また各自がナイトハウンドの動きをしっかり視認出来る位置取りをしている。


 ――ナイトハウンドは数あるモンスターの中でも非常に狡猾で知能が高いモンスターである。

 セラがベタンの森で戦ったナイトハウンドもそうであったように獲物を決めると襲うのに絶好の機会が訪れるまで可能な限り気配を消し、自身が有利な状態になるまで他のモンスターを嗾しかけ利用し、獲物が万全の状態である事を許さず疲弊したところを着実に仕留める。冒険者をはじめとした人族のみならず別種のモンスターにも畏怖されているモンスターなのだ。

 その高い知能を持つ故に天兎の前に立ちはだかるナイトハウンドは自身の不運を呪った。フィールドであればじっくりと得物を見定め襲撃の機会を自身で決める事もできたが生成されてすぐ目の前に武装した敵意を向けてくる獲物がいたのだ。ダンジョンでなければ多少のダメージを負うだろうが一度逃亡して再度仕切りなおすという手もとれたであろう。だが、ここはダンジョン内部のそれも階層守護者の部屋ともいえる一種の閉鎖空間であり逃げ場などない。

 元よりダンジョンで生成された事もあって侵入者を逃すな、斃せ、喰らえ、屠れと誰ともわからない命令が脳内を駆け巡り続けている。

 先程まで相手をしていた盾を持つ獲物さえ仕留めれば後は順にエサを増やしていけるだろうと喉を鳴らしていたが、あろう事かともに生成された取り巻き達はあっという間に倒され自身が数的不利の状態へと陥っている現状は知能の高いナイトハウンドにとって"詰み"である事を認知させていた。


ルオオオォォォーーーッ!!


 状況がどうであろうと逃げられないのであれば目の前の敵を倒す他ない。狩人たる闘争本能とダンジョンによって植え付けられた攻撃衝動によって狂化状態になったナイトハウンドは目の前の敵へと跳ねる様に飛びかかった。





そういえば10万PV達成していました。

今月は本職の方の行事が後半に多くあるので次話以降の投稿は遅れ気味になると思います。


良ければ評価を入れていただけるとモチベに繋がるのでよろしくお願いします。

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