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【 Ep.3-028 師兄 】

謁見からのゲルハルト公爵から告げられた託宣の内容。

色々と考える事はあるものの一人残る様に言われたセラはペインゴッズと共に城内のある場所に向けて足を運んでいた。


 応接間を出てからおっさんと二人城内の廊下を歩いている。行く先は告げられず、ただおっさんに連れられるがままに。

 たまにすれ違う兵士はおっさんの姿を確認すると背筋を伸ばして立ち止まり、深く一礼をしてボクの方にも視線を寄越しては同じ様に畏まって深く一礼をされた。――おっさんは分かるけど何故ボクまで同じ対応を取られるのかは今ひとつわからない。


「ねぇおっさん。なんで騎士団の総副団長である事黙ってたの?」

「言ってなかったかのう……?ワシの貴族としての務めがそれでな、総副団長などと大層な肩書きではあるが実際は新兵を中心に練兵を行なったりする教導隊で指導をしているだけじゃよ。前線には出ず常に後方に居るだけの飾りみたいなものじゃて」

「ふーん……。じゃあもう一つ聞くけど剣聖からのあの圧力の事知ってたでしょう?」

「知っていたかと問われればどう答えたものかのぉ……。あの御仁の事じゃから何かしら試すような事はするとは思うておったが、あそこまで強烈なものは久しぶりにワシも感じたくらいじゃ。エステラの時ですらあれよりももっと軽いものだったでな、流石にあの時点であれ以上の事はワシから言えなかったのは素直に申し訳なかった」


 ジトーっとおっさんを見つめても必死に取繕ったりしないところからして恐らく剣聖アルマスギリのあの圧はおっさんですら想定外だったと判断してもよさそうだ。ていうかエステラ以上の圧を向けられるってどんな情報があちら側にわたっていたのだろう……。

 それはともかくとしてさっきから気になっていることも聞いておこう。


「嘘ついてるように見えないしおっさんが想定外だったっていうのは信じるよ。ところでさっきから気になっているんだけど、どうしておっさんだけじゃなくボクまで出会う兵士さんからあんな畏まった態度で挨拶をされているの?」

「ああ……気付いていなかったのか。答えは簡単じゃよ。お主のその出で立ち、特にその鎧が原因じゃろうな」

白黒の聖乙女(モノクロームジャンヌダルク)が原因?」

「うむ。冒険者でそこまで質の良い防具を装着している者などそこまでおらぬし、この国の騎士たちは白を基調とした配色の装備品を支給されておるのは気付いたか?その中でも隊長クラスからはある程度自由に自らの装備品に装飾をしても許されておるでな、恐らくワシと共に歩いていることも相まって新しい隊長が就任するものだとでも勘違いしたのじゃろう。はっはっは!」


 なんだそういう事か。確かにボクが装備している白黒の聖乙女(モノクロームジャンヌダルク)唯一(ユニーク)ランクの上級品だ。マンハントハンギング戦のドロップとして森羅晩鐘の次に手に入れる事の出来た代物だけど、市場に出回っている量産品の防具とは比較する以前の問題と言える程度には出来の良さには差があるだろう。なによりも見た目がいいし、デザインも良くて動き易い作りになっていて実用的でもある。


「それにしてもどこに向かってるの?」

「城に来たついでに今後の修練相手となる相手を紹介しておきたくてのう。今はそやつがいる場所へ向かっておるんじゃよ」

「今後の修練?」

「ああ。基礎の部分はワシが面倒を見ておるしお主の呑み込みも早いでな。少し早いが水槍流の使い手から教えを受け始めてもいい頃合いじゃろう。多少問題がある奴ではあるが、なぁにお主ならうまい事扱えるじゃろう」


 そんな事を言われても相手がどんな性格をしているかもわからないんだけど……。ま、兎も角水槍流を学べるのは自分にとっては大きな強化機会だと言える。基礎的なスキルだけでは今後の戦闘についていけなくなる可能性は大いにあり得るし手札が多いに越したことはない。


 そうしておっさんと会話をしながら着いた先、城勤めの騎士達の修練場から絶妙に死角になっている城郭の間のちょっとしたスペースにその相手は壁に背をつけて座り込んで寝ていた。


「やはりここにいたかケイル。お前仮にもエステラと同じ中隊長なんじゃからこんなところで油売っていてはいかんじゃろう……」

「ん~……なんだy……うげぇっ?!親父さアデェッ!?」


 おっさんに声を掛けられ相手を確認したと同時に飛び起きたせいで出窓に頭部をぶつけて悶絶している野暮ったい長さにまで伸びた灰色の髪に手入れのされていない無精髭を生やしたパッとしない恰好のヒュームの男性。見た感じは三十代以上に見えるけど、目元や口周りに皺など見られない事から意外と歳は取っていないはずだ。


「見たところ暇そうにしておるな?」

「いや、まぁその……修練は俺が見てなくてもしっかりやる連中なんで……」

「まぁ良い。今はその方が都合がいいからのう。紹介しよう。この子はセラ、冒険者ランクはDじゃが実力は既にCランクには届いておる。今日からお前はこの子に水槍流を教えてやってほしい」

「セラです、はじめましてよろしくお願いします」


 紹介されたので礼儀正しく少し意識して笑顔を作り挨拶をする。挨拶を受けたケイルは改めてセラの方へ顔を向けると、その可愛さに思わず見惚れて頬を少し赤たが首をブンブンと振ってぶっきらぼうに返答をよこした。


「俺がコイツの面倒を見ろって?!いや確かに俺は水槍流だけどそれなら"陰湿眼鏡女(シヅ)"の方が腕も上で同性で優秀で教え方も上手いんだからそっちのがいいだろ?」

「そうやって自分を卑下するでない。お前とて水槍流の師範に付いて皆伝の腕までいっておるではないか。まぁあれが居たらそうしてるところじゃが生憎彼奴は北方支援の入れ替わりで北方エウレーカへ向かっておる。氷槍流を会得するなどと息巻いておったぞ」

「ゲェっ?!あいついつのまに国から出てたんだよ……。まぁ……親父さんの事だからもう俺の上役に話はつけてあるんだろ?」

「無論じゃ。既にこちらへ来る前に第六騎士団団長へ話しはつけておるし指導の様子が見られなければ減給は避けられんぞ」


 おっさんのその言葉を聞いたケイルはスンと素面に戻ると覚悟を決めたのか、はたまた諦観からなのか頭を掻きながら口を開いた。


「だよなぁ……。親父さんの手回しの良さからは逃げられる気がしねぇ。ハァ……仕方ねえ、コイツに水槍流を叩き込めばいいんだな?」

「うむ。まぁ何も連日連夜面倒を見ろとは言っておらん。先にも述べたがセラは冒険者じゃて週に二回程度しかここへは来れん。じゃからその時にしっかり教えてやってくれ」

「あー分かった分かった分かりましたよ総副団長殿。このケイル・アトゥラン、本日より当該任務にあたらせて頂きます!」


 やけくそと言うべきか投げやりと言うべきか、ケイルがおっさんに軍式儀礼に則った姿勢をとって答えると、おっさんはそれで結構と笑った後夕飯までには戻ってきなさいと言って城内へと戻っていった。残されたボクとケイルはその背中を見送った後改めて向かい合った。


「まぁなんだ。これから暫くお前に水槍流を教える事になるケイル・アトゥランだ、よろしくな」

「セラです。ペインゴッズ辺境伯の従士であると同時に冒険者、ファミーリア天兎のマスターをしています」

「あー、そういう堅っ苦しい話し方はしなくていい。俺も親父さんもそのあたりにゃこだわりがねぇからな。それに教える時に一々畏った会話をするとか面倒でやってらんねぇだろ?て事で早速修練に入るが得物はその背中のヤツでいいのか?」

「ん」


 背中に懸架してある森羅晩鐘を一瞥したケイルはその見事な得物に年甲斐もなくときめいたが、出来たばかりの妹弟子に気付かれぬよう顔に出さずに済ませた。


「よし、じゃあ基礎の型は覚えてるよな?一度俺が手本を見せるから見様見真似でいいからやってみな。水槍流は技と技を淀み無く繋げる為の足運びが特に重要になるからそのあたりも見ておけよ」


 そう言ってケイルは手元に自身の得物をインベントリから取り出した。見た目には何処にでもあるような斧槍で謁見の間に居た近衛騎士達が装備していたものとは比較にもならないくらいには質素な感じがする。唯一特徴的な部分が穂先とブレード、フルークの中間地点に水滴を象った魔石らしきものが埋め込められているという点だ。

 そんなハルバードを半身で構えたケイルは行くぞと声を上げると流れるような所作で次々と技を繋げていく。

 基本の刺突から入りその勢いのまま渦を描くかのような連続突き"渦流"へと繋げたかと思うと、その最後の突きの勢いに追従するように身体を運び柄の中心点になるように得物を持つとすぐさま回転して周囲を薙ぎ払う"渦潮"へと繋げた。

 そこから更にいくつかの技を挟み最後にその軌道が水面に映る月の様に見える事から名付けられたという"水月"でケイルの手本はしめられた。


「ザッとこんなもんか。一つ一つの技を無理なく繋げる事を意識してやってみるんだ」


 ケイルの言葉に頷き半身の構えに入る。まずは基本中の基本である刺突!この勢いを殺さぬ様、逆に活かす形で最初に撃ち込んだ刺突の軌跡を中心にして連続突きを放つ――


『たった一度見ただけでここまでやれるのかコイツ。動きにまだ粗はあるが基礎は十二分な程の仕上がりだ。小柄な体格に見合わず得物を扱う力量も問題ねえ……こりゃあ親父さんも気にいる訳だ』


 一度見ただけの自身の動きをかなり正確に真似して見せるセラにケイルは感心していた。綺麗な顔立ち、均整のとれた肢体、美少女であると言っても過言ではないのに面通しでは無表情、無愛想に見えたこの妹弟子への最初の印象はかわいいとは思ったが印象としては悪かった。師である親父さんもこのかわいさに絆されたのだろうと思ったくらいだ。

 だがその考えは間違っていた。今目の前で得物を振るっている少女の目は真剣そのものであり、手本を見せた自分の動きをグリーブで見えるはずのない指先までをもトレースしようとしている気概を見せている。たった一言足運びについて注視を促しただけでここまで効果のある奴など片手の指で足りる程度しかいないだろう。――天賦の才。自身ではついぞ得られる事のなかった才覚の有り様を目の前に不思議と妬みや嫉みと言ったものは湧いてこなかった。


 見様見真似で"水月"を放ち残身状態にあるセラがふぅと一息をついたのを見計らってケイルが声を掛けた。


「たった一度目にしただけでここまでやれるとは驚いた。まだ粗い部分はあるがそれも修練を重ねれば問題ないレベルになるだろう。……正直なところ俺が教えれるものなんざ大したことはねぇが、それでも俺が持っている技を全てお前に伝授できるようやらせてもらうが覚悟はいいな?」


 コクリと頷いたセラを見たケイルは改めて水槍流の基本となる技と技の繋ぎ方、足運びや体幹を意識する位置など事細やかに指導し始めた。

 ケイルはマンツーマン状態で並び立ってセラの動きにアドバイスを出したり技の利点や注意点などを教えたり、これまでのケイルを知っている者が見たら別人ではないかと疑うくらいにはいつの間にかセラへ入れ込んでいた。いつもであれば引き上げる時間になっても姿を見せないケイルを心配して直属の部下が呼びに来るまで熱心な指導が続いた。


「もうこんな時間か?!すまねぇ熱が入りすぎてたみたいだ。お前らは先に上がっておいてくれ、俺はコイツを送り届けてから部屋に戻る」


 探しに来た部下にそう答えるとケイルはセラに向き直り屋敷まで送り届けると伝えた。


「一人で帰れるけど……」

「そうかもしれねぇけど一応騎士でもねえ奴が帰るためとは言え城内ちょろちょろしてたら問題になるだろ?その辺含めて親父さんは俺に任せたんだろうしこのまま一人で帰したらそれこそ雷が落ちらぁ。って事だから大人しく送られてけや」

「そういう事なら」


 城門付近までは歩いて移動し、そこからは近くにある厩舎から二人乗り用の騎竜に乗って邸宅前まで送られた。中に入らないかと聞いてみたけども、部下の事もあるからまた機会があったらその時くると返されケイルは再び城に向かって戻って行った。


 食事の場では謁見の後何をしていたか聞かれたり聞き返したりと話題が飛び交う賑やかな食卓となり、ボクの話を聞いたおっさんはやや意外そうにケイルの話題に耳を傾けていた。

 おっさん曰く、ケイルは従士の時からどことなく斜に構える性格をしていて素質は高いもののその性格から本気で物事にあたる事があまりなかったらしい。ただ要領の良さは確かで、物事に真剣に向き合えれば同じ従士で同門のシヅリタよりも高みを目指せるだけの才能はあるとの事だった。シヅリタは同期の中でもケイルとは折り合いが悪く、同じ魔法適性を有しながらも性格は真逆。生真面目が服を着た様な努力の積み重ねを惜しまぬシヅリタと、どこか奔放でその才能によってやる時にやる成果を出すケイルが衝突するのは致し方が無かった。

 シヅリタ……おそらくおっさんとケイルが言葉を交わしてた時に出てきた陰湿眼鏡女がその人のことなのだろう。口に出すときですら心底嫌そうな顔をしてたから二人の仲は想像以上に根深い因縁があるのかもしれない。


 それぞれの活動報告をしながら食事を終えた後は今日学んだばかりの水槍流の復習と、おっさんから手ほどきを受けている基礎の修練をするべく修練場へと足を向けた。


*****


「半日経たずしてあそこまで吸収してくるとは驚くべき才能じゃな。流石のあやつも妹弟子には邪険にはできぬだろうと任せてみたが、いやはや中々どうしてしっかり教え込んでおるではないか。これを機会に更なる高みに至れば良いがの」

「はい。ケイル様もセラ様の学ぶ態度には真摯に向き合うほかなかったのでしょう。ケイル様も旦那様が御教授なされただけあって非凡な才能をお持ちの方、これまで無かった刺激によってようやく蕾が開き始めたのではないかと」

「中々詩的な表現をするではないか。そうじゃな……あやつはあやつの花をようやくつけるのかもしれぬな」


 修練場にて得物を振るうセラを見やりながらペインゴッズはやや後方に控えるアルフリックと語らう。その眼差しは穏やかで目に映るセラだけではなく、これまで目をかけてきた従士達もまたそこに映っているのかもしれない。






更新予定がずれにずれてこのザマだよ( ゜Д゜)


ケイルは見た目からして少し不愛想なおっさんタイプです。

何事にも斜に構えて物事を正面から見ないような捻くれた性格なのもあり、その実力をペインゴッズに認められながらも素直に受け取れずに燻っていました。

同期同門に陰湿眼鏡女と揶揄されたシヅ(シヅリタ・アトゥラン)が居た事が彼の性格形成に影響を与えています。

彼女についての詳細は後々語る機会があるはずですが、生真面目な性格と要領の良さからケイルより常に一歩二歩先を行く秀才であり第五騎士団の副団長の座にいます。


短かったですが夏休み中にある程度書き溜めたのでそれなりに更新頻度は上げれるかもしれません。

良ければ評価を入れていただけるとモチベに繋がるのでよろしくお願いします。

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