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【 Ep.3-026 謁見 】

ペインゴッズに従士という立場で同行する形でハルキニア国王へと謁見に臨む天兎メンバー。

謁見の間に立ち入ると全身鎧に身を包んだ近衛騎士達からの鋭い眼光が一同らに向けられ――





 そこに至るまでの細々とした紆余曲折を経てボク達は謁見の間の扉の前に立っていた。


 もう一度全員の顔を見回し心構えができていると判断したボクはペインゴッズのおっさんに頷くとおっさんは扉の前に立つ衛兵へ合図をした。


「アートゥラ辺境伯ペインゴッズ卿及びその従士の方々ご到着です」


 中へもよく通るような声で謁見の対象者が到来したことを衛兵が告げると、少しだけ間を開けて内側へと扉が開かれた。ダンジョンのボス部屋の扉みたいな重い音はならず、スゥっと滑るように滑らかに開かれた扉の中へおっさんを先頭にしてボク達は一歩ずつ足を進めた。


 部屋の中へ入った瞬間突き刺さるような視線がボク達を貫き、思わず背筋に冷や汗が流れる。恐らくボクだけでなくシキもそうなっているはずだろうけど尻尾の毛が逆立ったはずだ。目を伏せがちにおっさんの腰のあたりをみながら進むのだけど、奥へと進むにつれより一層強い視線を正面から感じる。それと斜め前方からも他より少し強い視線が一つずつ。まるで檻に入れられた動物を検分するかのような鋭い視線に体が嫌でも強張ってしまう。


 ゆっくりと謁見の間を進みある程度行くとおっさんが立ち止まりボクもそこから少しだけ下がった隣の位置で止まる。背後のみんなも止まったタイミングでおっさんが片膝をついて頭をたれたのでボク達もそれに倣って片膝をつき頭をたれた。この辺りは事前に教えてもらっていたので大丈夫だ。


「アートゥラ辺境伯ペインゴッズ・アル・アートゥラ、及び我が従士十一名ここに推参致しました」

「アートゥラ辺境伯が従士代表及びファミーリア天兎マスター、セラ。ここに推参致しました」

「面を上げよ。余がハルキニア王国第23代国王リーブラ・エル・ヴァーミリアである。此度は招聘に応じ参内した事、誠にご苦労」


 半ば様式美ともいえるやり取りを経てボク達も顔を上げる。視線だけ走らせると左右に5名ずつ白を基調に黄金色の装飾が施された全身鎧(フルプレート)を着込み、一見儀仗用に見える装飾がされつつも実践向けであろう造りのハルバードを持った近衛騎士が立ち並びこちらの一挙手一投足を見逃すまいと兜のスリットから鋭い視線を放っている。その五名から少し距離を置いて玉座へ近い場所へそれぞれ一名ずつ此方へ視線を投げかけている人物がいた。

 左手側は白を基調に桃色のライン装飾が施された長いローブを羽織っているものの、インナーはかなり扇情的なドレスを着た猫獣人らしき女性。綺麗な碧色をした宝玉が嵌め込まれている自身より少しだけ長い銀色のロッドを持っている事から魔法師団である第二騎士団の団長か副団長だろう。

 右手側には近衛騎士に負けず劣らぬ重厚な全身鎧を着込んだやや大柄な男が仁王立ちしている。近衛騎士との差異はワンポイントとなる色が黄金色から赤色に変わり、近衛騎士とは違って兜を脱いで脇に抱えもう片方に持ち手基部に近いところから二手に分かれている変わった形の槍らしきものをもっている。だが何よりも目を引くのは綺麗に剃り上げたその頭部であろう。褐色の肌をこれでもかとアピールするかの様なスキンヘッドに糸目と言う顔立ちのこの男性が消去法で王都守備を主目的としている第六騎士団の団長か副団長であろう。


 玉座の方へ目を移すと国王の右手側に眼深に純白の生地の縁を金糸で刺繍されたフード付きローブを羽織った神秘的な雰囲気を纏ったやや小柄な人物が控えている。角度的に目元は見えるはずだけど恐らく認識阻害の魔法が付与されているのか表情を伺い知ることはできない。

 ちらりと見えている透き通った肌から察するにこちらの人物が宰相でもあるゲルトハルト公爵だろうか。敵意は感じないもののこちらに対して好奇かそれに似た視線を向けているのを感じる。


 そして国王の左手側に立つ人物、先ほどから尋常ではない威圧感を放つ存在はそこにいる。

 他の者達とは違い軽装とも言える左胸を中心に守る程度の胸当ての他は膝下までの丈がある白いロングコートの様なものの上に各関節部を守る程度の簡易な装甲。オールバックに近い燻んだブロンド色のその髪に、おっさんとは違って控えめな口周りの整えられた髭。正しく精悍さがそのまま人の姿を取ったかのような佇まいだ。

 強烈な威圧感を放ちながら逆にその他はあまりにも静謐で風の一凪すら感じさせぬ静けさを有するその人物は両の手を合わせ、掌で直立させた抜身の大剣の柄を支えて仁王立ちしている。一見隙だらけにも見えるその立ち姿ではあるが、微動だにしないその姿は逆に何かあれば即座に反応できるだけの"タメ"でもあるように思えた。


 表情を伺おうと目を向けた刹那視線が交差した。瞬間――全身の毛穴という毛穴が逆立ち、これまでに感じた事のない恐怖を感じ反射的に身を守ろうと得物に思わず手が伸びそうになるのを必死に手を握り締め抑え込んで踏みとどまる。

 ……なるほどこれはエステラの事を馬鹿にはできない。目前に迫った生命の危機に反射的に体が動こうとするのだ。この恐ろしいまでに静かに研ぎ澄まされた殺意によく似た圧を前に抗って闘うのか、または尻尾を巻いて逃走するのかの二択が脳内を飛び交うのだから。

 これがおっさんが言っていた"相応の圧"だというのだろうか。だとしたらあまりにも理不尽な応対に思える。この理不尽な迄の恐ろしい実力を持つであろう人物……この人が…この男こそが王国最強と名高い剣聖アルマスギリで間違いないだろう。


 そんな生死の狭間で鬩ぎ合うような空気を破ったのは他でもない国王陛下の声だった。


「もう良いのではないか?アルマスギリよ」

「ハッ!失礼致しました。武人として名高いペインゴッズ卿が見初めた冒険者たちと聞きましたのでつい。すまない事をした客人よ」


 そう言って頭を下げてきたが、これは形式的なものだろう。隣のおっさんが特に何も言わない事を考えれば、おっさんも含めて先程までの行為は仕組まれていたと考えていいんじゃないだろうか。後で聞き正してみよう。

 それはそれとして助け舟を出してくれたこの国を治めるハルキニア王国第23代国王リーブラ・エル・ヴァーミリア陛下を見やる。

 肌触りのよさそうな白い衣を身に纏い、ベロア生地の様なシックで落ち着いた赤色のマントを羽織っていて如何にも王様然とした出で立ちである。だが王冠の様なものは被ってはおらず、代わりに額の部分に複雑に編み込まれたかのような金のサークレットをしている。

 顔立ちは精悍で彫りは深く、整った顔に生やした髭は髪の色と同じ綺麗なブロンド色をしている。どこかでみた海外映画のトップを飾る俳優のようだ。瞳の色は驚くほどに澄んだ青色をしており、その優しくも凛々しさのある瞳に吸い込まれそうになる。凛々しさのある表情の中にどこかしらか柔和さを感じさせるこの人の雰囲気こそ賢王と称され国民に敬愛される王のあるべき姿なのだろう。


「さて、では改めて。此度は余の招聘に応じ参じてくれた事にまずは礼を言おう。ペインゴッズ卿より報告を受け、其方らの功績についてはある程度把握しておる。卿の領地ではあるが、我が国の国民を救った事は変えようの無い事実。聞けば其方らは旅の途中偶然にも卿を助けた上に危険なダンジョンの踏破攻略に貢献したと聞く。ここに改めて貴殿らの功績に準じた褒賞をと余は考えておる」

「発言よろしいでしょうか?」

「うむ、許そう」

「はい。では……恐れながら陛下、その申し出大変嬉しくこの身に余る栄誉だと思いますがお断りさせて頂きたく存じます」


((?!))


 国王陛下より直々の褒賞を断るという前代未聞の出来事に謁見の間に居並ぶ近衛騎士達は内心動揺していた。無論その動揺は表情にも動きにも出るような事はない。だがどの騎士も言葉を発さずとも目の前にいる冒険者でもあるたかだか従士代表の小娘がなんと無礼な物言いをするのだと怒気を孕んだ剣呑な視線を向ける事となった。

 一方、王国魔法師団である第二騎士団団長"暴風の白猫"の異名をとるルメティ・ラグドールはその特徴的なオッドアイでセラの事を凝視しながらセラの言葉の意図をおおよそ検討し終えて辺境伯の人を見る目に感心していた。また王都守備師団である第六騎士団副団長のゴードン・ゴルキノフもまた近衛騎士達とは違い不興を買うであろうことを踏まえながらも褒賞を断ったセラの意図する事を考え静かに頷いていた。

 

「ふむ。褒賞を断るその理由を聞いてもよいか?」

「はい。陛下からの褒賞の申し出は大変ありがたい事だと理解はしております。ですが、私共は既に辺境伯様より事態の解決に係る褒賞、対価を頂いております。故に陛下よりの褒賞まで受け取るという事になりますとそれは報酬の二重取りとなってしまいます。私共は従士であると共に冒険者という身分でもあります。である以上はいくら陛下の申し出と言えども守るべき規範は守らねばなりません」


 真っすぐ視線を交わしながら発した言葉に優しく微笑みを返して応える。


「なるほど、道理である。法を律し制する者がこれに反する事を勧めるは愚かしい事だ。余の間違いを認め、言の葉に拠って謝意を示そう。――貴公の実直且つ誠実さに惚れ込んで卿が従士に認めた事が頷けるな」

「恐れ入ります、陛下」

「ではそろそろ本題に入ろうか。件のダンジョンの一件、ゼハクと名乗る魔族が関わっていたと聞く。自然発生したものではなく魔造ダンジョン、という事になるのであろう。これが事実であるならば国内におけるダンジョン管理に大きな支障が出る事が考えられる。卿はその危険性を考慮し、本件を具申してきたので相違ないな?」

「はっ。通常のダンジョンとの特性の差異などまだ詳しく把握していない事が多くあります故本日はそのダンジョンで入手しましたダンジョンコアを預かり持ってきた次第です」


 そう言っておっさんは応接間で封印を施したアルティア湖畔ダンジョンのダンジョンコアを取り出した。封印を施したとはいえいまだそのコアは禍々しく鳴動しており、切っ掛けさえあればまた再びダンジョンを生み出さんとしているような気配がする。


「それは私が預かろう」


 今まで目立った動きを見せなかったゲルトハルト公爵が声を上げた。声色は男とも女ともわからない何とも不思議な声をしている。これも認識阻害魔法が関与しているかは不明だがこの場の中で最も神秘的な存在だ。彼?彼女?は音もなく、そして歩いているような素振りも見せずスゥっとおっさんに近づくとダンジョンコアを両の掌の上に浮かせてマジマジと観察し始めた。


「これは……種?いや、少し違う。……ふむ………」


 光に透かしたり顔を近づけたりと様々な方向からダンジョンコアを観察しているのにその表情は一切見えない。まるで貰ったばかりのおもちゃで遊んでいるかのようなその仕草はこの人が公爵であるという事実をどこかへ吹き飛ばしてしまそうになる光景だと思った。


「コホン。公爵閣下、そろそろよろしいのでは?」

「ああ、すまない。つい夢中になってしまった。ペインゴッズ卿、このダンジョンコアはしばらく私が預かってもいいかな?もう少し詳しく調べてみたいのだが」


 わざとらしく咳をついた剣聖アルマスギリからの言葉に我を取り戻したゲルトハルト公爵が調査の為に暫く預からせてほしいとおっさんに伝えた。

 おっさんがボクの方へ意思の確認をする為振り返ってきたのでボクは素直に頷いた。元々ただ持っていてもどんな効果があるかわからない代物だし、調査で何かわかるのであればそれに越したことはない。ボクの同意を得たおっさんは公爵に了承の旨を伝えると調査の結果が出次第追って連絡をすることでまとまった。


「ところで君のその背中の武器、少し興味があるのだけれど少し見せてもらっても良いかな?」


 ダンジョンコアを夢中で観察していたゲルトハルト公爵だが、今度はボクの背中に懸架していた森羅晩鐘に興味を惹かれたようだ。この人かなりの年齢のはずだけど行動原理がどこかしら子供っぽい。

 軽くおっさんに視線をやると大丈夫だと頷いたので背中からゆっくりと森羅晩鐘のロックを外すと俄に近衛騎士達から物凄い威圧感を向けられてしまった。


「控えなさい。私が見せて欲しいと言ったのだから彼女はそれに従ったまでの事。私を心配する気持ちは有り難いが、いまのその行為は彼女に対しても、私に対しても無礼です」


 あいも変わらず男が女か判別の付かない声でそう発言すると近衛騎士たちから発せられていた圧は静かに引いていった。予め予想していたのか団長クラスの二人と剣聖は圧を発していなかったので幾分か緊張感は軽減されたけれど、正直こんな事ばかり続くといい加減胃が痛くなってくる。

 圧が引いたのを確認した後改めてゲルトハルト公爵へと相棒を手渡すと、公爵はダンジョンコアの時と同じ様な行動をとり始めた。


「うん……なるほど。これは世界樹(ユグドラシル)の小枝から出来ているね。これはどこで…?」

「そちらはアートゥラ辺境伯領にある開拓村近くのアルバの森、その森にいた名を冠する者(ネームド)"マンハントハンギング"を倒してむ手に入れました」

名を冠する者(ネームド)……そうか、邪なる存在が偶然にも世界樹の小枝をその身に取り込んだ事で変異したのか……。その変異体を討伐した事で吸収されていた力の根源である世界樹の小枝はその姿を認めた者の望む姿へと変容させた……。ありがとう、十分見させてもらった」


 ゲルトハルト公爵から相棒を返却してもらい再び背中へ懸架しなおす。公爵が漏らした言葉の意味は正直よくはわからない。なんとなく理解できたのは名を冠する者(ネームド)という存在が生まれる仕組みの一つが判明したと言うことくらいか。


「リーブラ陛下。やはりこの者達で間違いはないかと存じます。人払いをお願いしてもよろしでしょうか?」

「そうか……この者達がそうなのか。よかろう、其方らもう下がって良い」


 公爵の意味ありげな発言を受け、国王陛下は居並ぶ近衛騎士達の人払いを命じた。命を受けた近衛騎士達からは戸惑う空気を感じはするが、フルフェイスの兜からはその表情までは確認できない。彼等は一言も発さずに整った所作で謁見の間より退出して行った。


「公爵閣下ァ?私達はここにいても良いのかしら?」

「各騎士団の団長クラスには後程正式に情報の共有を行うつもりですので居ても退出してもどちらでも構いません」

「なら私は同席させてもらおうかしらねェ」

「ならば吾輩も同席させてもらおう」


 今まで無言を貫いていた第二騎士団の代表が艶のある声で同席の可否を公爵に尋ねるとどちらでも良いとの回答を得て第六騎士団の代表も同席する事となった。

 態々近衛騎士達を人払いさせてまでこれから一体なんの話が始まるのだろう……また少しお腹が痛くなってきた。





宰相ゲルトハルト公爵は声色だけでなく見た目も男女どちらかであるかは判別ができないまでの完全な中性的存在で、剣聖アルマスギリはこの世界でも屈指の実力を持つ存在で王国のみならず遠く離れた国でもその名は轟くほど有名です。

ゲーム設定時でも初期位置とされていたこのハルキニアという国の軍事力は周辺諸国と比較すれば頭一つは抜きんでており、その軍事力・統治力に依る治世は長らく平和な時代を築いてきました。

とは言え西方では軍事国家の一つでもあるパルキア戦王国との争いは絶えず、騎士団の練度も高水準を維持し続けています。……割とチート国家じゃない?


総合評価が500を突破しました。ありがとうございます。

良ければ評価を入れていただけるとモチベに繋がるので更新速度が向上する可能性が増えます。

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