【 Ep.3-022 シオンの悩み 】
前回閑話を挟むといったな?あれはうs…閑話にすると後々ダメになる話になったので構成を少し組みなおしてたら一月経っていました……。
一応閑話は閑話で用意しているものがあるのでそれをもう少し先で挟もうかと思います。
王都ハルカニスでの生活が始まり、天兎メンバーだけでのダンジョン攻略の一歩を踏みだした翌日の事である。しっかりとした休養を取るという名目で天兎メンバーはそれぞれ休暇日に割り当てられたその日を思い思いに過ごしていた。
ハルカニス東区の書店を回っていたシオンとリツの二人はある目的を持ってお目当ての書籍がないか、本でなくとも目的に関する情報が得られないかと幾つもの軒先を出入りしていた。
「――やっぱそう簡単には見つからないなぁ」
「ま、そんな簡単に見つかったら今頃もっと普及してそうなスキルというか能力だからね。そもそもシオンの発想ってこの世界に元からいた人には馴染みが薄いどころか下手をしたら発想に思い至らない可能性だってあるわけだから難しいんじゃないかな」
「そうかなぁ……。何かしらの手段があると思うんだけどね、"体力ゲージ"を"マナゲージ"を見る方法」
そう、シオンとリツは回復職として危機感を抱いていた。この世界が現実となるまではパーティメンバーをフォーカスすると、その対象と重なるようにHPゲージとMPゲージが表示されていたのだが、今はその存在を確認する事は出来なくなっている。
『今まではこれまでの経験則からダメージ量をある程度仮定した上で不確かな計算のもとで回復していたけれど、昨日も何度か焦った場面あったしこの先ずっと騙し騙しやっていくにしてもいずれ限界が来るのは間違いないものね……。一人の負荷が増えないように三人での回復職の態勢にはなっていても、メインのヒーラーが私である事実は揺るぎようがないしそうである以上半端な事はしたくないわ。それに怪我ですめばまだいい。もし……そう、もし私の回復不足が原因で誰かが死んだりなんてしたらきっとあたしはそこから一歩も踏み出せなくなる』
これまでの冒険では仲間の様子を窺いながら長年の感覚で回復魔法を掛けて何とかなっていたものの、昨日のガラテア大迷宮のダンジョン攻略の際には何度か危ないと思われる場面にシオンは遭遇しており、流石にこの先の事を考えると今のまま感覚だけに頼っていては駄目だという危機感から同じ回復職で親交が深いリツに相談した上で解決策になるかもしれないスキルや<天恵>の情報がないかと探していたのだ。今回同行したのはリツのみで、もう一人の回復職であるクロノスレイはセラと行動するという事で別行動となっている。
これまでずっと天兎メンバーの生死を支えてきた自負がシオンにはある。それと同時にゲーム時代ではありえなかったそのプライドが崩れ去る恐怖も、そしてその時起きるであろう自分自身の姿が心の中に生まれた事をシオンは認識していた。
元より国内有数の高偏差値を誇る理系大学に進学していた才女のシオンだが、ゲーム方面においてもその類稀なる学力の高さに驕らずに地道な経験の積み重ねと演算能力の高さをもって自身のキャラクターを研鑽してきたのだ。
その彼女をもってしても現状は綱渡りといえる状況でその役職をこなしている事に危機感を持つのは当然の事と言えた。
『と言ってもそう簡単にどうにかなるような問題じゃないとは思うけども……』
「ねえシオン、一度あの店に寄ってみない?あそこならヒントの欠片くらいは手に入りそうな気がするし」
「あの店って……あぁ、エルドアお婆さんの書店ね?そうだね、行ってみよう」
*****
「――で、アタシん店に顔を出したってわけかい?」
「はい。エルドアさんなら何かしら手掛かりになるようなことを知っているかと思って」
カウンター奥のロッキングチェアにもたれ掛かってキィキィと揺れながらシオンとリツに二人の顔を見ながら事のあらましを聞いたエルドアは尚も体を椅子ごと揺らしながら暫く思案に耽る。
「ふぅむ……。そうさなぁ……。無いこともないんじゃが、かと言って確実に習得できる保証もなければ狙いのモノが来るとは限らんが……一応手段はある」
「え、ホントですか?!」
「あぁ。話を聞く限りではアンタらの言っているスキルは対象の能力を鑑定する鑑定眼や、感覚共有を基にしたスキルの上位スキルか派生、発展したようなナニかじゃろうな。恐らくは<天恵>に該当するようなシロモノになるじゃろうて、そうそう簡単に身につくものではないがそれでもいいのかえ?」
「はい。あたしも一朝一夕に身につくとは考えていません。ただ、目的に少しでも近づくことができるのなら、それへの労力は厭わない覚悟はしています」
訝しむかのようなエルドアの視線に真っすぐに答えるシオンを見てエルドアは頬を綻ばせた。
「いい返事をするじゃあないか。アンタら<天恵>には先天性に得ているものと、後天性で得るものがあることは知っているかい?」
「はい。私たちのパーティメンバーに<天恵>持ちが居るので多少知識はあります」
「そうかい。それじゃぁ話を続けるよ。先天性のものは基本的に種族的な因果に拠って発露する事が殆どでこの点においてヒュームという種族は多種族に比べると先天性の<天恵>が発露する事は少ない。一部の血統はそうでもないみたいだがね?じゃがこれは逆に後天的に発露する<天恵>をある程度意図して獲得する事も狙いやすいという点でもある。とはいえ<天恵>を複数発露する者もいれば全く発露しない者もおるでな……そのあたりは完全に天に任せるほかないが、今アンタらが望んでいる能力はある程度狙って得ることができる可能性がある」
「ほんとに?!」
エルドアの言葉にシオンは目をキラキラさせてカウンター越しに前のめりで体を乗り出した。
「まぁ似た様な魔法ならあるにはあるからの。ヨシ、とりあえず該当しそうなモノをとってくるからそのあたりで座っておれ」
そういうとヨッコイショと声をかけてロッキングチェアから立ち上がったエルドアは店の奥側の書架から目的のものであろう魔法書を探し始めた。時折聞こえてくる唸り声に少し不安になる二人であったが、ものの数分で戻ってきたエルドアは抱えていた魔法書をカウンターへ置くと、それぞれの表紙をみえるように置きなおすと二人に説明をし始めた。
「一応確認するが……アンタらはどこかの神殿就きじゃあないんだね?」
「はい。あたしたちは冒険者としての旅の途中なので」
「わざわざ聞くって事は何か問題でもあるの?」
「いやなに、選んだはいいんだがね、お堅い連中だと煩い代物もあるんでな。まぁ違うんなら問題ないさね。これらの魔法書は<同調魔法>について書かれておる」
「<同調魔法>ですか……?」
「ああそうじゃ。神官連中にとっては異能やら異端やらうるさい奴が口を挟んでくるようなしろもんだ。アンタらは<死霊術師>については知っとるかね?彼らが使う魔法は殊更異端扱いされ忌み嫌われとるのだが、その独特の魔法体系は今のアンタらが望んでいるものにおそらく一番近い。代表的な魔法だと、使役する死霊に自らの受けるダメージを肩替わりさせる<トランスファーペイン>がある。同調魔法はその基礎となる魔法でな、使役対象と自身の生命力を一度同調させた上で発動させねばならん。何故だかわかるか?」
「使役対象の生命力ないし耐久性が分からなければ限界を超えたダメージが逆流してしまうから……とか?」
「その通りじゃよ。便利なように見えてあれはあれでリスクのある魔法でな、だからこそ<同調魔法>がその基礎として必要になるのじゃ。とはいえそれらにも幾つか種類があるでな、関連したものを持ってきたわけじゃ」
そう言われて改めて目を凝らして並べられた魔法書に目を凝らすと、確かに表紙には触覚同調、視覚同調、聴力同調、生命力同調といった<同調魔法>系のものが並べられている。とはいえ同じ装丁のものが無いのでこの店でも貴重な代物である事がうかがえる。その事実に気付くと同時にエルドアが話を進めた。
「まぁ見ての通り<同調魔法>の魔法書は結構貴重でな、それぞれ一冊しか用意できなくての。アンタらには申し訳ないがこればかりは仕入先の都合もあって次の手配にも時間がかかるでなぁ……」
「いえ、気にしないで下さい。あたし達こそ無茶を言ってるんですし、むしろ手掛かりが見つかっただけでも儲けものですよ」
「そうですよ。私達だけだったらきっと<同調魔法>の存在にも辿り着けなかったと思います。その上魔法書まで見繕って頂いただけでも十分です」
「ハハッ、そうかねそうかね。でだ、聞くまでもないとは思うが……どうするね?並べといてアレだが、この手の魔法は決して安全な代物じゃあない。何しろ対象と”同調”するわけだからね。精神的負荷はアンタらが想像するよりかはきついはずだよ」
やっと掴めたと思った望みへの手段には相応のリスクがあると忠告し、シオンとリツの瞳を鋭い眼差しを向けるエルドアに対しシオンは真っすぐ見つめ返して答えた。
「勿論買わせていただきます。――もとより雲をつかむようなものだった能力を手に入れられるかもしれない機会が幸運にも目の前にあるんです。あたしはそのチャンスを無駄にしたくない」
真っすぐ見つめ返しながら出されたシオンの答えを聞きそれでも尚暫く見つめ合っていたエルドアだったが、それでも尚揺るがない彼女の"芯の強さ"を見出すと口元を綻ばせた。
「いいだろう、あの嬢ちゃんもそうだったがアンタもいい目をしておる。ただ習得するのは一種ずつしっかり身に着けてから次の魔法書を習得するようにするんだよ?一応本来は<死霊術>の司祭等が伝授していく半禁術だからね。ま、とりあえず値段はこのぐらいかねぇ……」
「払います!!」
*****
「ねえリツ兄、この魔法書どうやって分けようか?」
エルドア魔法書店を出たシオンとリツの二名は入手した<同調魔法>系の魔法書をどう分けるか思案していた。
多くの魔法書は習得と同時にその効力を失効し該当するページが燃え尽きるか灰になる。そして習得したからと言ってその者が習得した魔法を魔法書として生み出せるかはまた別問題であり、一握りの高位魔法使いでなければ魔法書の編纂は不可能とされている。
つまるところ折角手に入れた魔法書ではあるが、使い回しができない以上シオンかリツのどちらかにリソースを集中させるか調整して分けて習得するかが問題となっていた。
エルドア魔法書店で入手できた<同調魔法>の魔法書は、「生命力同調」「視力同調」「魔力同調」「聴力同調」「嗅覚同調」「触覚同調」の六冊である。
「んーそれなんだけど、私はいいからシオンが使いなよ」
「え?!でもそれだとリツ兄の<天恵>の発露がしなくなるんじゃ……」
「別に私はそれでもいいよ。私たちのパーティの要は間違いなくシオンなんだから最優先されるべきはシオンだよ。……それにまぁ他に手がないわけではないと私は思っているんだよね」
「ほんとに?!」
「確信があるわけじゃあないんだけど、エルドアさんの話と<同調魔法>の原理を聞いてちょっとね。その為には一冊だけ私も習得しておきたいものがあるんだけど、とりあえず私の話を聞いてくれるかな?」
「うん、聞かせて」
――シオンがリツから聞いた内容は次の通りだ。
最優先目標として、シオンが希望する能力を獲得する可能性を高める為には極力<同調魔法>はシオン自身が習得するほうがいい。シオンが能力を獲得しない限り話は進められないが、臨んだ能力を仮に獲得できるとして仮定した場合、シオンが体力ゲージとマナゲージを見る事ができるならその視界を共有できればリツ自身は「視力同調」を習得するだけで済む。
クロさんは別途手段をさがす必要が発生するものの、要は体力とマナゲージが見れればいいわけなのでリツの説明にシオンは納得した。
「つまりリツ兄自身は”視力同調”さえ習得すれば、あたしがゲージを見れさえすれば疑似的に同じ能力を獲得した状態になるって事よね?」
「そういう事になるね。どうだろう、悪くはないアイデアだと思ったんだけど」
「いいと思う。やってみる価値が十分にあるよ!……なんにしたってあたしがそうならないと話は始まらないけど」
「必要だと思ったからシオンはこうして動いてその手掛かりを掴んだんだよね?できるよシオンなら。月並みな言葉になっちゃって悪いけど」
「ありがとう、リツ兄。皆のためにもあたし頑張るね!」
「残る問題はクロさんへのフォローだけど……うーん、まぁそこはセラに頑張ってもらおっか!クロさんセラの事凄く気に入ってるみたいだし」
「リツ兄悪い顔してるよ」
面倒事はマスターに任せてしまえとその整った顔立ちをにやりと崩したリツを見てシオンは思わず苦笑した。
屋敷へ戻った二人は早速<同調魔法>を習得すべくリツは「視力同調」を、シオンは「生命力同調」の魔法書を開いてその内容を読み解き、それぞれ無事に習得すると同時に手に持っていた魔法書は灰へとその姿を変えた。
エルドアの言いつけ通りシオンは他の<同調魔法>の魔法書を一度インベントリへと仕舞うと、覚えたばかりの生命力同調を習熟するための訓練を始める事にした。まだ他のメンバーが帰ってきていないため魔法の対象は当然リツになったのだが、戦闘もしていない状態の為に生命力の変動はほぼ無きに等しく同調している感覚がとてもあやふやな状態となり不発に終わった。
シオンは後でセラの修練の際に説明して協力してもらった上で再度やってみればいいと切り替え、リツの視力同調を試すことにした。
結果から言うとリツが吐いてしまってこちらも失敗に近い形となった。
リツ曰く確かにシオンの視覚に同調する事には成功したものの、視界が被る事による目の前の光景の処理を脳が拒絶反応を起こしたかのように感じて戻してしまったらしい。エルドアの忠告通り一朝一夕でモノにできる代物ではないということが図らずも証明された形だ。
とは言えそれは覚悟していた事。リツもシオンもこの程度で挫けるような柔な心の持ち主ではない。気分が回復したリツは再度視覚同調を唱え、シオンと視覚を同調させて自身の限界手前で解除するという行為を繰り返して持続時間の向上に努めた。
ある程度の視覚同調維持時間が確保できるようになった頃にセラとクロノスレイが帰ってきたので二人へ今日の成り行きを説明し、セラへ生命力同調の習熟協力要請とクロノスレイへの魔法書が用意できていないことなどの謝罪を行った。
「話を聞いた感じだと視界の同調だけでもリツが吐いたくらいの強い反動あるんでしょ?生命力だと下手したらそれ以上に危険な反動出たりするんじゃないの?」
「そう言われると返す言葉もないんだけどさ、それでもあたしは諦めたくないの。あたし自身が不安な気持ちを抱えたままの状態でみんなを支えたくはない。だから続けさせて」
「……わかった。でも負担があまりにも大きいようならそこで止めるようにしてね。それならボクも協力するよ。後はクロさんだけど――」
真っすぐ目を見つめて自分の意見を語るシオンを見て根負けしたのかセラはやれやれと協力に賛同した。
「私は大丈夫ですよ?他の皆さんのは見えませんが、不思議とセラさんだけは体力ゲージは見えてますよ私」
「えっ?!」
「はぇっ?」
「んんっ?!――ぇ、えぇ~~~~~……」
「あの……なにか問題があるのでしょうか?」
『えぇ~~……』
シオンとリツの両名が悩んでいた状況について、クロノスレイはただ一人を対象として状況を打破していた。その驚愕の事実にシオンは純粋に驚嘆の声を上げ、リツは声を上げつつも内心なるほどと納得し、セラはその事実を脳が受け入れ理解するまで若干の時間がかかった後何とも言えないこの状況に普段出した事の無い得も言われぬ声を漏らすのだった。
結果的にクロノスレイはセラをメインに支援する事で当面の<同調魔法>の魔法書問題を棚上げする事にし、シオンの能力発露を優先するという当初の方向性で行くことで方針を決定した。
その後夕食前の修練でセラと生命力同調を試したが、結局シオンも思わぬその反動に吐いた。
良ければ評価を入れていただけるとモチベに繋がるので更新速度が向上する可能性があります。
シンクロマジックは当初リンクマジックと書いていたのですが、それは少し意味合いが変わってくるかと思い表記を一新しました。
自分ではない誰かと何らかの感覚を同調させるというのは精神的負荷はかなりあるものだと想像できますよね。自分自身でありながらも別の誰かが内にいるというか、自分では触っていないのにナニか触っている感覚が伝わってくるとか気持ち悪くなるのではないでしょうか。
この後一、二話程度セラ以外のメンバーの成長の為の話が続きます。




