表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/94

【 Ep.3-012 王都ハルカニス 】

ようやく王都が見えてきました。



 レンブラント子爵に見送られラバイクピラーを後にして数刻、ボク達は王都側のナルガレアス大段壁を上っていた。下りは相当な速度で降りたこの巨大な大段壁を竜車を引くファームドラゴンは一歩一歩踏みしめながら曳いていく。

 この長く続く上り道であるが、時期によっては子育ての為に柱状台地の上へと集まってくる飛竜の群れを見る事も出来るそうで、シーズンがくるとこんな坂道であっても観光客で賑わう事もあるんだとか。そんな長い上り坂を午前中いっぱいをかけて上りきるとそこからはツヴァイクベルト伯爵領となる。

 王都ハルカニスはツヴァイクベルト伯爵領、ゲルトハルト公爵領、ブラウグズ特別領、ヴァーミリア直轄領にまたがる形で築かれており、王家が直接的に管轄している領地はヴァーミリア直轄領のみで広さもそれほどない。ゲルトハルト公爵領も同様に領地としてはかなり狭く王都近辺の森林地帯をその領地とする程度であるが、ハルキニア王国三大ダンジョンの一つ<ガラテア大迷宮>を抱えている。ブラウグズ特別領も王都周辺の一部と統一王ハルトの母国テンペルトの地を含め<ゲルクト大墳墓>を擁する重要な領地となっているとはペインゴッズのおっさんの話だ。

 元より王族は国とそこに生きる国民を守護する事を是としており、他国へ侵略戦争を仕掛ける事は国家成立以降は行われていない。凡そ20程の各領地には王に直接封じられた諸侯を信認する形で運営を任せられ、民の負担を踏まえた上での税の設定などある程度自由な統治が認められている。但し国家として発布される法令が最優先事項であり、各領地の条令もそこに準じたものであるんだとか……そういえばおっさんもその領主の一人だった。


「ねえおっさん、ここの領主はどういった人なの?」

「ツヴァイクベルト伯爵か……。そうじゃなぁ一言でいうと”変わり者”じゃろうなぁ」

「変わり者?」

「ああそうじゃ。彼はその爵位にも拘らず身分の差など関係なしに人付き合いをする気さくな人柄ではあるのじゃが、何分自身の研究の為には止まるという事を知らぬ御仁でなぁ。成果物はそれなりに役立つものも多いのじゃが、逆に失敗作となると冗談では済まないレベルのものが生み出されたりしてな……ワシもレンブラント公も何度後処理に携わったか思い出したくもないのう……」


 しみじみと思い出しながら徐々に眉間に皺をよせて語る内容に不安を覚える。これさわりを聞いただけでマッドサイエンティスト的な奴が脳裏を過るのだけど、どうやらボク以外のメンバーも「あー(察し)……」みたいな表情をしている。ノリで世界を滅ぼしかねない兵器を作ったりだとかそんな感じなのかと聞いたところおっさんは首を振って否定した。


「あながち間違いではないのじゃが、彼の研究はモンスターが対象なのじゃよ。テイマーやブリーダーの最先端技術者と言えば聞こえはいいのだが、あまりに手広くやるもんで収拾がつかないんじゃよ」

魔物使い(モンスターテイマー)ってクラスだよね?あのクラスってそう言う品種改良みたいなこともできるんだ?」

「ああ可能じゃとも。この竜車を曳くファームドラゴンなどに代表される騎獣の大半は伯爵家が関わっておる。他にも食肉用のスライムや昨日話した浄化用のスライムなどもそうじゃな。実績や実益を見れば並々ならぬ才能を有する一族なのじゃが、副産物が問題なのじゃよ」

「副産物?」

「例えばより強固で足の速い騎獣を作ろうとした時の話じゃ。伯爵は複数の脚を持ち、砂漠であろうが急斜面であろうが恐るべき踏破性を誇り対象を石化するブレスを持つバシリスクと強靭な肉体を持ちながらも人との協調性のあるファームドラゴンを掛け合わせる事をしておった。ファームドラゴンの温厚な性格と人との協調性に先ほど言ったバシリスクの特徴が加われば確かに成功だったんじゃろうけど、これによって生まれた生物は強靭な肉体に八本脚、どんな悪路も踏破できる能力を持った性格が凶暴なモンスターとなってしまってな。タチの悪いことにバシリスクの石化ブレスまで使えたそいつが大暴れして施設の一部を破壊して逃亡。国民に被害が出ないうちにワシとレンブラント子爵で隊を率いて討伐に当たってどうにか事なきを得たという事があった」

「なぁおっさん……。俺の勘違いだったらそれでいいんだけど、その伯爵家って昔デミゴブリンの研究とかしてなかった?」

「当代当主は関わってはおらぬが、何代か前の当主が研究の際の事故で幾つかの品種が逃亡して捕獲しきれぬままにされたという記録は残っておる。我が領地に居付いているのはその子孫どもじゃろうて」

「やっぱり……」


 その他にも何件か伯爵に付いて話しを聞かせてもらったのだけど、結局のところモンスターの魅力に取りつかれた偏執狂というイメージは一切払拭できなかった。伯爵ほどの爵位でありながらそんな人物だなんてこの国大丈夫なんだろうか……。


「ねぇペインゴッズさん。伯爵の情報のついでにゲルトハルト公爵についてもあたし達に教えてくれない?」

「む?んーむ……まぁ他国にも知れ渡っている情報であれば問題なかろうて、その程度でも良いかの?」


 通常であればシオンの質問は国家の安全保障にも関わるような内容なのだけど、他国にも知れ渡っている情報であればたしかに一冒険者であるボク達が知ったところで問題はないだろう。公爵と言えば王族を除けば最上位に位置する爵位であり、その権力は時として王族をも凌ぐ事すらある。


「ゲルトハルト公爵はのぅ、このハルキニアが成立する以前の頃より王家に仕える一族の長なのだ。まだテンペルトという名の小国だった時代より王家と契約を交わしたその一族は代々の王に仕える剣であり楯である。そのあり様はもう一つの王家とも言って差し支えのないほどでな、ハルキニア王国建国以来侵略戦争を起こさなかったのはこの一族あっての結果でもある」

「そこまで重要な一族だとすると重要な役職に居るって事だよね?」

「ああ勿論。古くは戦闘関連の要職に就く事もあったらしいが今は代々宰相を務めておる。国王と共に国政にあたり、補佐をするだけでなく時代に応じた政策をも提言なされる御方でもある。これだけ聞いていると優秀な文官という印象を受けるとは思うが超級魔法すら行使なさる大魔導士(メイガス)でもあってな、一度だけ目にする機会があったがあれは最早常識の外に身を置く存在であると言わざるを得ない程の代物であった」

「これまでの話を聞いていると王家よりも実力を保有しているのにその地位に甘んじているというような印象を受けますが」

「元より地位等に拘りなどないのじゃろうよ。何せゲルトハルト家は最古の七氏族(セブンスリニエッジ)の一つ<ハイエルフ>じゃからのう」


 <七氏族(セブンスリニエッジ)>……確かこの世界における主だった種族であるヒューム族、ドーンエルフも含むエルフ族、ドワーフ族、アニール族、アンヴァル族に巨人族、そして神族の7種族の原型とされた種族だったはず。

 それぞれハイランダー、ハイエルフ、プロトドワーフ、プロトアニラ、アンヴァルプライム、ギガントオリジン、プロトディヴァインという名称で公式サイトに紹介されていたのを覚えている。こういう時に興味のある物事だけは無駄に記憶力が抜群にいいっていうボクの特技は役に立つ。


「それって私達エルフ族の真祖とも言える種族だっけ?」

「ああ、そうじゃな。彼らはただでさえ寿命の長いエルフ族よりも長い寿命を持ち、悠久の時を過ごす種族じゃ。ハルキニア建国以前より統一王ハルトと共にあり、以降延々とこの国を守護し続けているのでな、他国も良く知っているというわけなんじゃよ」

「建国以前からって一体何年生きてるのよ……」

「ハッキリとしたことはワシにもわからぬが……大体のエルフの寿命が5,600年、ハーフエルフだとその半分だと聞くが、少なくとも公爵は1000年は優に生きておるじゃろうな」

「1000年以上とか想像もつかないんだけど……。でもそこまで生きていて変わらずに王国に尽くしているなんて精神的に擦りきれないのかしら」

「さてのぅ。ワシもそのスケールからすれば赤子も同然じゃし想像もつかぬよ」


 1000年も生きるなんて感覚はボク達には想像もつかないとてつもないスケールの話だ。そんな年月を生きていれば、自分だけ残してこの世を去っていく見知った顔を何度見ればいいのだろう。ボクならきっと心が死ぬと思う。とは言えあくまでもそれは今までの人間であった時のボクの感情なだけで、この身体になってからのボクの思考も徐々に変化していくと考えればいつかは分かるのかもしれない。


「そのハイエルフのゲルトハルト公爵が宰相をしているって事は、王都にいって報告をする際に対面するって事だよね?」

「そうじゃな、そんな相手がいる場に共だって行かねばならん以上おぬしらも気を引き締めてもらわんといかんのう。まぁ王都に着いて直ぐにとはいかぬから時間的余裕はあるのでな、王への謁見に際しての注意点などのレクチャーを受けてもらえば問題なかろうて。と、そろそろ王都が見えてくる頃合いじゃな。御者台から前を見てみるといい」


 おっさんの言葉に従って御者台から顔を出して前方を見ると、まだ距離はあるものの白く輝く城壁が見えている。街道もこれまで通ってきた道幅より拡張されていて様々な馬車の類いが行き交っているが、ボクらの乗っている竜車が領主仕様でその周囲を六騎の護衛兵が囲っているお陰で道を譲られているのでどうやら優先車両みたいな制度でもあるのだろう。

 周囲は大規模な農園が広がり綺麗に区画割りされている。王都で暮らす人々の食料の一部はこうしてある程度は自給しなければ開拓村の様に人口を賄いきれなくなってしまう。陽はまだ落ちるまでに余裕があるので田畑には多くの人の姿も確認でき、目を凝らしてみるとその表情も明るく農奴にされているといったような厳しい扱いを受けている様子もない。


 ふと何かの影が刺したかと思った次の瞬間、先陣を切る護衛兵の横に全身純白の鷲の上半身に獅子の下半身をしたファンタジー世界でも定番の幻獣グリフォンが並走していた。実物大のそれは思わず息を飲んでしまうほどの存在感をありありと周囲に振り撒いているが、そのグリフォンをよくみると背中に騎士らしき姿が見えた。ガチガチのフルプレートではなく極力無駄を廃した様な白を基調とした配色のライトアーマーを装着し、背中には十字架を囲う様に曲線で構成された刃を持つ槍の様な長物を懸架している。


「お、おい!アレってグリフォンだよな?!」

「うわホントだ!純白色のグリフォンとか神々しいねー」

「上の方にももう二頭いますね。そちらは茶色ですが……想像以上に大きいですね」

「なんじゃおぬしらグリフォンを見るのは初めてじゃったか?あれもツヴァイクベルト伯爵が手を入れた品種でな、人によく慣れ性格も原種に比べれば温厚で騎乗し易くされておる。流石に野生のグリフォンは性格も獰猛で気高くおいそれと人が騎乗するなどはできんからのう」


 存在としては知ってたけど実物見ると感動するなあ!ああいうグリフォンとかってやっぱり騎乗するのにスキルとか色々要るんだろうなぁ、そうおっさんに聞いてみた。


「勿論じゃよ。魔物使い(モンスターテイマー)のクラスのスキルも必要じゃし、騎兵(ライダー)の騎乗スキルは必須と言ってもいいじゃろう。それを兼ね備えていてもライドモンスターとの相性があるからのう……因みにグリフォンの他にもライドワイバーンやフライングホース、エアーマンタレイなんて言う変わり種もあるぞ」

「いつか乗ってみたいなぁ」

「流石にあの手の騎獣は国家の管理対象じゃからのう……国からの認可が無ければまず敵わん要望ではあるが、野生のモノを手懐ける事ができれば或いは可能かもしれぬな」

「ところであれは何をされているのでしょうか?並走して飛びながら何やら話しているように見受けられますが」

「ああ、あれは王国騎士団の第六兵団である王都守備隊の哨戒部隊じゃな。ワシらの隊列を確認して誘導にきたのじゃろう」


 よくそんな事までわかるぁと感心していると、おっさんは王国騎士団についてボク達に説明してくれた。

 ハルキニア王国騎士団は正式名称を子午線の騎士団(メリディアンナイツ)と呼ばれ、大きく十の騎士団に分けられているという。王直属の近衛騎士団と王家専属の護衛騎士団とは別に、第一から第九騎士団まで分けられており、一から順に陸戦、魔法、航空、兵站、治安維持、王都守備、後方支援、諜報、工作の九騎士団があり、王家直属のものと合わせて十騎士団という内訳らしい。それら十騎士団にはそれぞれ騎士団長が任命され、更に王国騎士団総団長としてハルキニア王国が誇る最強の男”剣聖・アルマスギリ”がその座に就いているという。


「あの色のグリフォンに乗っとるのは……確か第六騎士団飛行第三中隊のエステラじゃろうな。王都にもこれで問題なく入れるじゃろうし到着まで好きにするといいぞ」


 おっさんの言葉に甘えて御者台から顔を出して近づいてくる王都ハルカニスの荘厳な光景を只々目に焼き付ける。

 俯瞰に近い構図でその規模を正確に認識できなかったログイン画面でのハルカニスなど比べ物にならない程の圧倒的な存在感と質量、熱を持った都市が目の前に迫ってきている。王都を緩やかに囲む第一防壁を超え、更に第二第三とそこまで高さのない防壁をグリフォンに先導されながら通過するといよいよ王都を取り囲む白く輝く巨大な構造物がはっきりと視認できるようになった。

 この防壁はそれまでの防壁とは違って高さは数倍あり、エイブラムの城壁と比べても優に二倍以上の高さをしている。これで城ではなく都市を守る為の防壁だというのだから、そのスケールの大きさにひたすら圧倒されるしかない。この防壁から内側は結界が張られている事もあり、ゲート以外からの出入りは特殊な護符を持ったものでないと不可能に近い状態なのだと御者さんが説明してくれた。如何にも便利なシステムだけど、話の内容からはそれでも絶対的な防御結界というわけではなさそうだ。御者さんが言うには王城の結界はこれ以上に魔力強度も密度も濃いものであるらしく、比べ物にならない程の防御力なんだって。

 そんな防壁が近づくにつれどんどん馬車や商隊の一団、冒険者と思われる一団などが増え、様々な人々が行き交う中を王国騎士団が先導しているという事もあって海を割るかのように専用のゲートへと向かって突き進む。


 これから暫く滞在する事になるこの王都ハルカニスへの入口に向かいながらボク達の心は静かに踊るのだった。







次話から王都生活の始まりです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ