【 Ep.3-009 語られる過去 】
先日の更新日に1日当たりのPVが1,000の大台に乗りました。
累計アクセスのそろそろ60,000に達しようかという所です。
「ってな感じな事があって今はアートゥラ辺境伯の御用邸に泊っているよ」
『それはまた随分とぶっ飛んだところに落ち着きましたね。貴方らしいと言えばらしいですが。それにしても魔族ですか……。こちらの方へ流れてこなければ良いのですが」
「おっさんの話だと開拓村方面へは向かわないだろうって話だよ。近くにヴァイラス蟲宮が存在している影響で、淀んだマナはそちらへ殆ど流れるって話で、そうなると今回みたいに人為的にダンジョンを生成する事は難しいだろうって」
『そうですか。魔族の手によるダンジョン生成の危険は低いとは言え、元からあるダンジョンの方も気を付けなければいけませんね』
会食の後、ボク達は宿泊部屋へと案内されそれぞれ湯浴みを済ませた後寝るまでの時間を思い思い過ごしていた。ボクは邸宅で一番見晴らしの良いテラスへ出て夜風にあたっていたところへ同じアイテムを持つ相手と通話が可能なペンダント型の魔道具が光ったと思うと、カサネさんの声が聞こえてきてこうして近況報告をする事となった。
「ところでそっちはボク達が出てからはどうだったの?」
『隠すまでもなくそれはそれは大変でしたよ。ですがベックさんやホイミさん達を筆頭に皆様方のおかげで大きな混乱に発展するというところまではいかずに済みました。自分達を助ける為に危険な依頼を命がけで貴方達が遂行した話なども交えてね。ベックさんの啖呵からの力強い演説のおかげで大きな爆発は起きなかったというのが恐らく本当の所でしょう。不安や不満は未だ解消されたわけではありませんから』
「ですね。でもこれから先は各自がそれぞれで決める事だよ。みんながみんな戦っていけるとは思えないけど、どうにか無理やりにでも気持ちを切り替えて生きていかなきゃいけないんだから」
『立場上私としては打てる手は全て打っていきたいのですけどね。帰れる可能性がゼロと決まったわけではありませんし、向こうに身体が残っていなくともどうにかなる可能性も残されているはずです。ただ……私も個人的な話しをしていいのであれば、一人の人間としてこの世界を見て回りたいとは思います』
「どっちにしろ冒険者ギルド長だし簡単にはいかないだろうね。だけど、ボクはそう言う道もありだと思うよ。カサネさんがいつまでも”オラクル”に縛られる必要はないと思うし」
『お気遣いありがとうございます。そう言って頂けると私も少し気が楽になります。ですが、やはり打てる手は全て打ってからという方針は続けようと思います。そういう設定だったとはいえ、冒険者ギルド長という肩書きは思いの外有用そうなので。これから先も多少はお力添え出来そうですしね』
何処までも真面目な人だなぁっていう感想は口に出さないけど、現状開拓村の運営は冒険者ギルド及びギルド長の采配による部分が大きい。カサネさんでなければ多くの転移者を含めた凡そ一万人もの人口をあの村で生活させる事はかなり難しいものになると思う。
彼女の言うように幸か不幸か”オラクル”の人員である事が統制の取りづらいプレイヤー達をまとめる為の口実となり同時に彼女を縛り付けている状態だったけど、これからはそう言う部分は薄れてくるだろうしいずれは彼女の希望が叶う日も来るんじゃないだろうか。
「そうだね。各地の冒険者ギルドの情報を得られる立場は望んで得られるようなものじゃないし、ただでさえまだまだこの世界についての情報が不足しているボク達には貴重な存在だよカサネさんは」
『そう言って頂けると幾らかやる気が出ますね。ところで今後の予定は決まっているのですか?』
「一先ずの目的地である領都に着いたからねぇ。明日は領都の冒険者ギルドに顔を出して情報集めかな。有益そうな情報が無ければ王都を目指すのも視野にいれてるよ。カサネさん程ではないかもしれないけど、辺境伯とコネを持てたからその伝手活かせないかなとか考えてたりするけどこればかりはどうしようもね」
『一応貴族ですしね。話を聞く限りではそのあたりは寛容そうだという印象を持ちますけど、私達の置かれている状況を正しく認識してくれると考えるのは少し危険でしょうしその辺りは話さないか限定的な部分に留めておく方が良さそうですね。とはいえ領主の人となりについて私はわかりかねるので、もしセラさんが大丈夫だと判断したのであればお任せします』
「なんとなく信じてくれそうな気はするけど規模が規模だからね。しっかりと話しても大丈夫な相手かどうかはよく注意して判断するよ」
『それが無難ですね。一応王都に行かれるのであれば、王都の冒険者ギルドにも私と同じプレイングゲームマスターが居てるので彼とコンタクトを取れればある程度融通が利くとは思います』
「そこは王都に着いてから考えるよ。とりあえず今報告出来ることはこれくらいかな」
『そうですか。此方で何か有用な情報を得ましたらまた連絡しますね。それでは』
フォンという音と共に魔道具から光が消えた。静かに優しい風が髪を凪いで通り過ぎて行くのが心地いい。
「おや、まだ寝ていなかったのかセラ」
しばらくその感覚を味わっていると、不意に背後から声を掛けられた。振り向くと浴衣に良く似たラフな格好をしているペインゴッズのおっさんが居た。おっさんを確認した後また街の方へと身体を向け、夜風に当たりながらおっさんへ答える。
「開拓村を出てからの一番大きな都市だからね。夜の光景も悪くないなって思ってこうしてここで見てたんだ」
「そうか。まだここへ着いたばかりじゃし、明日は存分に街を見て回るといいさ。食事の場でも言ったが宿泊に関してはここを使ってもらって構わんからの」
隣に並んで一緒に夜の街の光景を眺めながらおっさんは言う。
「うん、ありがと」
「それはそうとセラ、おぬしら一体どこの出身なんじゃ?種族もバラバラじゃし年齢も随分離れている者もおるし、冒険者ギルドからの報告書に目を通してみたがパーティを結成して間もなくファミーリアを立ち上げられる実力者なぞワシの耳に入っていてもおかしくないと思うんじゃがの」
いきなりどストレートでまずい質問きたーーーーーーー!ってここは努めて冷静にそれらしい理由を言わなくちゃ……。
「ボク達その……生まれた場所も皆覚えてなくて、所謂孤児ってやつなんだ。それで気の合う奴らで生きていく為に集まって旅をしてて、ようやく冒険者登録してちゃんとパーティ申請ができたのがあの開拓村なんだ」
「そうか……つまり親の顔すら分からんという事か?これはとても立ち入った事を聞いてしまったな……すまぬ」
「ッ!!」
おっさんの言葉に脳裏に両親の顔が過る。脳裏にあの時の光景がフラッシュバックすると同時に呼吸が荒くなって頭が朦朧としてきた。忘れようとしていた記憶。記憶の片隅へと追いやり出来る限り開けない様にしていた箱の蓋が開かれる感覚。中から飛び出してくるあの日の光景。目まぐるしく駆け回るそれらの感覚に意識をまともに保つ事が出来ない。
「ど、どうしたんじゃセラ!大丈夫か!?」
突然肩で息をし始め、目の焦点も合わずにフラフラとするセラに面食らったペインゴッズは普段の冷静さはどこへやら、あたふたと自身が思いつく限りセラの介抱に手を尽くしていると、しばらくしてセラはようやく落ち着きを取り戻した。
「…………もう……大丈夫」
「すまん、ワシのせいじゃな。この通りじゃ」
ボクに対して真っすぐに頭を下げるおっさんへ慌てて頭を上げてほしいと伝えて辞めてもらった。街中からは見えないとは思うけど、もし領主がそんな事をしている姿を見られたら洒落にならないじゃないか。わたわたしているおっさんを見ていると、食事の時のエスメダさんを相手にしている時とよく似ていて、何故か心が落ち着きを取り戻せた気がする。深く息を吸い込んで、ゆっくり吐き出した後おっさんの目を見て告げる。
「心配させてゴメン。……ボクの両親はもういないんだ。その……目の前で二人とも亡くなったんだ。ずっとその光景が頭から離れなくて……もう、大丈夫だと思っていたんだけどなぁ……」
深呼吸を意識して行って呼吸を落ち着け、意識レベルを戻していく。身体も全く別物になったっていうのに、精神に引っ張られてここまで乱れてしまうなんてボクもまだまだだ……
――乾いた笑みを浮かべる目の前の少女に対し、ワシは過去の自身の姿を重ねていた。――かつての仲間の一人の裏切りによって、最愛の妻と娘を眼前で亡くした消して忘れる事の出来ぬ記憶を。
「ワシも同じじゃ……」
「……え?」
「ワシもかつて自身の目の前で最愛の妻と娘を亡くしておるのじゃ……。おぬしとは状況は違うじゃろうけどな」
テラスのバラストレードに肘を掛け街を見ながら過去の記憶を呼び起こす。雷鳴が轟く中蔓延する血の匂いに塗れた記憶を――
「ワシがかつてSランク冒険者だと話したのは覚えておるか?」
「うん」
「そうじゃな……お主を信頼して話すが、ワシの本当の名はラウル・サーザインと言う。今のペインゴッズ・アートゥラと言う名はこの国に拾われてから国王陛下より賜った名なのじゃ。――この名を名乗る事になる以前の話だ。ワシは昔<サンダーボルツ>というパーティを組んでいてな、リーダーの"雷刃"ザナート・アルバイン、"雷冥"フレニーカ・オルテヌス、そして"雷轟"バルバス・ゴルバルス、"雷燼"ラケル・クィルグィッグら同郷の五人で各地を旅したもんじゃ。ワシらの故郷は雷鳴郷と呼ばれるパルキア戦王国の秘境の一角に存在している特異地点にある隠れ里の集落でな、その名の通り年がら年中雷がそこかしこを奔る危険な地域であった。そんな地域で暮らしているせいからか、雷鳴郷に暮らす者達は己が身に雷に関する<天恵>を持って生まれてくる特異体質だったのじゃ」
「じゃあおっさんの雷槍流に関係する能力もそれに関係して?」
「ああ。ワシの<雷迅>の異名はそこからじゃよ。そんな変わったところで生を受け、共に育ったワシらは閉鎖的な里に嫌気が差し、外の世界へ憧れて共に里から旅立った。その特異能力のおかげでワシらは順調に冒険者パーティとして成り上がり二つ名で呼ばれるようになり、各国でも名を馳せる一角のパーティとして認識されるようになった。じゃがそれ故の問題に巻き込まれてしまう様になったのじゃ」
「問題?」
「おぬしらもいずれ名を上げていくじゃろうて今から覚えておくといい。Sランク冒険者のパーティともなれば指名依頼が回される事が多くなる。一般的に見れば危険な内容も多いがその分報酬も通常の物と比較すれば破格とも言える様なものが用意される。勿論名声も比例して得られた。……だがその陰には常に陰謀が張り巡らされている危険性を考慮して動かねばいけない綱渡りの様な生活へと変貌していった。指名依頼と言っても依頼主は様々でな、冒険者ギルド直轄のものであればあまり心配しなくても済むのじゃが、例えば地方の貴族やとある国の王族ともなれば話が違ってくる。領地に出た驚異的な力を有するモンスターの討伐などならよいが、国を跨いだ陰謀の片棒を担がされそうになった事もある。評価は下がってしまう事にはなるが、時には指名依頼と言えども断る必要がある」
「それは……うんざりするね」
「まぁの。そんな感じの日常に徐々にワシ以外の仲間も辟易していったんじゃろうな……限界を迎えたワシ達はパーティを解散する事にしたんじゃ。元々が閉鎖的な故郷に嫌気がさして、外の世界へ出て各地を旅することが目的だったパーティだったからのう、何かに縛られる生活というのは肌に合わなかったんじゃよ。解散後は其々どういう道を選ぶかは自由、互いの意思を尊重して好きに生きていこうと。ザナートはその腕を買われパルキア戦王国の騎士団へ、フレニーカは魔道の追求の為に魔法王国ジールへ、バルバスは更なる力を求めて何処とも知れず一人旅へ。ワシとラケルはこれまでの旅路の疲れを癒そうと故郷へと戻った。暫しの休養のつもりではあったのじゃが、ワシとラケルはそこで腰を落ち着けて暮らす様になった。パーティを組んでいた時から互いに認め合っていた二人の間に子ができるまでそれほど時間はかからなんだ」
星が支配する夜空を見上げ、愛しい我が子が生まれた時の事を思い出す。その姿が隣にいる少女にふと重なって見えた。
「子が生まれた事もありワシらは雷鳴郷から再び外へ出る事なく過ごしていたのじゃが娘が十を過ぎたあたりだったろうか……里の者しか出入りの方法を知り得ない雷鳴郷にパルキア戦王国の軍がやってきたのじゃ。パルキア戦王国についてはお主も少しは耳にした事はあるじゃろ?強き者こそ絶対であると言う修羅の国じゃ。そんな国が我らの故郷に求めるは何だと思う?」
「……<天恵>の力。」
「然り。彼奴等は何者かの導きによって雷鳴郷へと侵入し、住人を奴隷化する為に捕らえ始めた。所謂人狩りだ。だがワシらも黙って捕まる事はしなかった。――戦争。そう、まさしくあれは戦争だった。里に奔る雷はいつも以上に荒れ、風に運ばれて血の匂いが一帯に満ち、抵抗むなしく多くの同胞が捕らえられ、殺され、踏み躙られた。ラケルとワシは娘を守りながら里から脱出しようと雷鳴郷の人間しか持ちえぬ<天恵>でしか通れぬ抜け道<千本雷柱之回廊>を抜けた。そこで……アイツと再会した」
「アイツ?」
「殿を務めていたワシはこの抜け道を安全だと信じ切って前方への警戒を怠ってしまったのじゃ。先に回廊を抜けた妻と娘を凶刃が襲った。恐らく妻もワシと同じでこの抜け道の安全性を過信していたのじゃろう。ワシの目の前で二人は成す術なく倒れた。目の前で起きた現象に脳が理解する前に二人の元へ急いだ。……だが既に二人は事切れていてワシの言葉に何も答えを返してはくれなんだ。最愛の二人を奪った相手をその眼に認めた時、ワシの頭は冷静に納得し静かに狂った。”お前達なら絶対ここに来るだろうと信じていた”と言い放った男――形は年相応に老けてはいたが、そいつの顔は間違いなく雷刃ザナート・アルバインだった。」
「え……その人パーティを組んでたリーダーだよね?」
目を丸くして聞いてくるセラに頷いてみせ、自然と力が入っていた両手から意識して力を抜いてバラストレードに再び腕を乗せる。想起した記憶ですら未だに自身を内から焼き尽くさんとする苛烈な感情に思考が染められぬ様深く呼吸をしてその火を鎮める。
「そうじゃ。詳しい事は知らぬ。じゃが彼奴がパルキア戦王国に仕えていた事から恐らくは自身の保身や軍内での派閥争いで優位に立つ為に故郷を売ったのじゃろう。奴を確認し認識した瞬間身体は既に動いていた。奴とどの様な言葉を交わし、どの様に戦ったかなど今でもさっぱり覚えておらん。気付いた時には自身の身体は血に塗れ、足下には奴の亡骸が横たわっていた。妻と娘の二人を弔ってやりたかったが、直ぐに追手が放たれそやつらを撃退しながら一人だけの逃避行が始まったのじゃ。そこからどのような道を使って逃げたかはハッキリとは覚えておらん。ただパルキア戦王国の版図から逃れようと死に物狂いで道なき道を三日三晩駆けた。」
「満身創痍の極限状態で三日三晩だなんて……それに道でない場所なんてそれこそ追手だけじゃなくモンスターの危険もあったでしょ?」
「ああ。敵は追手だけではなかったのう。そんな状態で意識も朦朧としてきて遂に限界が来た。追手の一人を倒したワシの目の前に現れたのは当時パルキア戦王国とハルキニア王国との国境にあるガルバラ山脈一帯の主、忌むべき人面の怪物"グリム・マンティコア"だった。眼前に降り立った奴の咆哮を前にワシの意識はそこで途絶えた」
「そいつを知らないけど……おっさんはいま生きてるよね」
「そうじゃな。後に目覚めた時に聞いた話じゃ。ワシの眼前に降り立ったそれを屠ったのは国軍として討伐任務を任された剣聖アルマスギリだったそうじゃ。そこで倒れていたワシとパルキアの追手を見て状況をすぐさま把握した彼はワシの衣服を追手へ着せて追手の持っていた剣で首を跳ね、ワシだと認識させる為に当時の相棒であった雷槍インダリカをその手に握らせ、グリム・マンティコアの亡骸にも手をつけずに置き捨てておくことで、ワシとグリム・マンティコアが相打ちでくたばった様に見えるよう偽装工作をしたそうじゃ。そうした偽装のお陰で雷迅ラウルは死んだと思われ、命を繋がれたワシはこの国へと流れつき、アルマスギリの口添えもあって現陛下へ御目通りし、新たな名を賜ってこの国へと恩返しをしているというわけじゃ。……未だに故郷や妻と子を失う原因となったパルキアに対して思う所はある。じゃがな……折角救われた命を私怨に投じ、恩義ある国を戦禍へ巻き込む事などワシにはできなんだ。妻に……娘に……ワシは一体何と言えば赦されるんじゃろうなぁ――」
時を忘れて話し込んでいたせいか、夜風が随分と冷たく頬を撫でる様になっている。自分が吐いた言葉に対する答えはこの歳になってもまだ見つからぬ。いや、赦されようなど思い上がった考えなのだろう。纏まり切らない想いを抱いて二つの月を眺めた。
「――どうしておぬしが泣いている。こんな話この世界のどこかにそれこそ山と転がっている話じゃ、おぬしが泣く事なぞ何一つないんじゃよ、セラ」
「――ッ!……だって……だってボクなんかより、おっさんの方が何倍も悲しみを背負っているじゃないか……!それなのに……それなのに!!」
おっさんの声に自身の頬を伝うものを認識する。比べてどうこうなるようなものじゃないのは分かっている。不幸自慢をするつもりも更々ない。
それでも――それでもおっさんがこれまで背負ってきた苦しみや悲しみ、自責の念にボクは心の奥から共感してしまった。決して同じだなんて言えないけれども、似た境遇を経験したボクには痛いほどおっさんに自身を重ねて見てしまったんだ。耳から入る言葉だけなのに、自身の記憶がフラッシュバックして"重なる"。ただそれだけなのに、自分の瞳から止めどなく涙が溢れてくるのをどうする事も出来なかった。
「優しい子じゃのう、おぬしは……」
ペインゴッズのおっさんに優しく抱きしめられ、彼の胸元を濡らしてしまう事になった。おっさんの抱擁はゴツゴツとした筋肉質の腕なのに温かく、ボクの身体の震えが落ち着くまでそうしてくれた。
「ボク達……確かに同じなのかもしれないね――」
この人なら――そう思ったボクは一定の部分は伏せる形で生い立ちやこの世界にきた経緯、そして今の目的である魔晶核を収集しなければいけない理由を話す事にした。こんな突拍子もない事を信じてくれるかは分からない。だけど、目の前にいるこの人はこの人なりにまっすぐ聞いてくれるはずだと願って――
***
懇々と自身についてゆっくりと語り始めるセラの言葉に、時に驚き、時に共感し、ペインゴッズはこの不思議な獣人族の少女の話に真剣に耳を傾け、通常であれば突飛もない出鱈目な話と切り捨てるところを彼はそれを嘘だと断じずに、彼女の目を見ながら紡がれていく言葉を一つずつ聴いては頷き、真剣に彼女の話を理解しようとした。
努めて冷静に自分達の身に起きた事態を説明していくセラに自身の娘の姿を重ねていたのかもしれない。だが、それでなくともペインゴッズには彼女がそこまでして嘘を吐くなどとどうしても思えなかったのだ。
「――なるほどのう……。俄かには信じられぬが、あの世界が割れるような空震がワシらとおぬしらの世界を繋いでしまったのかもしれんな。――実のところおぬしらと出逢った理由もあれが原因なのじゃよ」
「そうなの?」
「ああ。あれ以降この領都の周辺でもモンスターの動きが活性化してな、時期的にそろそろ王都へと出仕せねばならぬ故、その前に領地の視察も兼ねて危険なモンスターを狩っていたのじゃよ」
「その結果エスメダさんに怒られてたけどね?」
「ははは!あれはあれで心配性が過ぎるのじゃ。ワシなど居なくともこの領地の運営は成り立つと言うに。……実際この領地を治めてられているのはあれのお陰でな、ワシなどは飾り神輿に過ぎんのじゃよ」
落ち着きを取り戻したセラの様子を見て人心地ついたペインゴッズは一つの提案をセラへと投げ掛けた。
「のうセラ。コレは提案なんじゃが、お主ら次のワシの王都への出仕に際して従士として共に同行せぬか?先ほどの話を聞くに、これはワシの中だけで留めておく問題とは到底思えぬ。先の魔族の魔造ダンジョン生成の報告の事もあるし、おぬしらが探している魔晶核についての情報収集についてもそうじゃ。どちらも合わせて陛下にお知らせした方が良いじゃろう。おぬしらと似た理由で此方に来た者たちがあの村にいる事はぼかした方が良いかもしれぬがそこは領主のワシが手を打っておこう。王都行きは勿論無理にとは言わぬが彼方での待遇もワシが保証しよう。知っておるかは分からぬが、現国王陛下は賢王と称され非常に人の出来たお方だ、決して悪い事態にはならぬと断言出来るほどにな。どうじゃろうか?」
思わぬ流れから次の目的地への道が拓かれた。ボク達の置かれた状況に理解を示してくれた上にその手助けとなる様な力添えをしてもらえるなんてとても有り難い。
「今この場ですぐに回答は出来ないけど、ボクの話を信じてくれたおっさんの申し出にボクも応えたい。それと……」
「それと?」
「もし付いて行ったなら、あっちでおっさんからコイツの手解きしてくれる?」
インベントリから右手に森羅晩鐘を呼び出しおっさんに尋ねる。
「勿論じゃとも。じゃがワシの指導は厳しいぞ?何せ今の近衛部隊も含め、王国の騎士団の大半を鍛え上げたのはこのワシじゃからなぁ!」
「えっ?!ホントなの?」
「お主に嘘など吐かぬよ。今度の出仕も新兵教練の為と言うのが主な内容じゃからのう。勘違いはせぬ様言っておくが、お主らを従士として連れて行くにしても王国騎士団に入れようなどとは思っとらんよ。じゃからそのあたりも加味した上で考えておいてくれ」
領主にして王国騎士団の基礎を叩き上げる軍人でもあったペインゴッズのおっさんにボクは唖然とした。
「さて、随分と話し込んでしまったな。この時期とはいえ深夜ともなれば冷える。風邪をひかぬうちにベッドに戻って寝なさい」
「……うん。おっさんも風邪ひかないようにね」
「ハハハ、そうじゃの。そうするとしよう」
すっかり冷えてきた空気にテラスに別れを告げてボク達はそれぞれ部屋へと戻った。
この人と出逢えた事がここまでボク達の今後について寄与するなんて思ってもみなかった。それにこの人の雰囲気にボクは言われようのない安心感を感じていた。それが何故なのか、この時のボクは気付く事が出来なかった。
元S級冒険者であるペインゴッズの過去の一部が明かされました。
<サンダーボルツ>メンバーのそれぞれの<天恵>の主だった能力は下記のとおりです。
<雷刃>ザナート・アルバイン
使用する武器に雷の加護を付与できる。付与魔法よりも強化度合いは高く、雷属性を纏った斬撃を飛ばしたり、逆に防御に使う事もできる万能型の<天恵>。
<雷冥>フレニーカ・オルテヌス
雷属性と闇属性の複合魔法、合成魔法の適性を得る事の出来る<天恵>。独自の魔法系統である為対応できる相手は殆どいないが、複合魔法である為魔力消費量は2倍どころでは済まない。
<雷轟>バルバス・ゴルバルス
雷属性の属性付与能力に加え、強烈な音波を操作できる<天恵>。空間を裂くような轟音は対峙した相手を怯ませ、平衡感覚を奪う。使い所によってはかなりの迷惑装置になる。
<雷燼>ラケル・クィルグィッグ
超高圧の電圧操作と電流操作が可能となる<天恵>。その特性上彼女の強力な雷魔法を受けたものは灰燼と化す。強力な魔法特化タイプである反動で、物理的な能力は平均以下というデメリットがある。
※雷鳴郷出身者全てに現れる共通の<天恵>は雷撃無効となります。




