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【 Ep.1-006 相棒 】


 時間にして3分ほど包囲され続けただろうか。ようやく先程ウィスパーで聞いてた声の呼び掛けが聞こえてきた。


「お~い、セラどこだー?」

「ココだよココー!」


 応じると共にその場でジャンプして手を挙げてアピールする。周囲を囲まれているのと、今の身長が他人より低いのでそうせざるを得ない。現実(リアル)では逆なんだけどなぁと思うけど、これはこれで悪くないなと思う。


 その言動がまた目を惹いたのか、それまで最初の返答以外うんともすんとも言わず、勧誘文句にも一切返事もせず、暖簾に腕押しだった相手が明確に、それでいて声色も明るく反応を示した事により、包囲している連中から俄かに殺気めいた空気が漂う。


「はーいちょっと通らせてねー、横通らせてねー、俺が通りますよー。」


 軽い感じで喋りながら、人の包囲をかき分けて近寄ってくるヒューム男性。人当たりのよさそうな顔と声で近づいてくるのは言動から間違いなくケントだろう。

 ラインアークでもケントはどこか緩い空気を纏いながら接敵して敵を倒していたからな……。それにしてもこいつ今回は割とイケメンベクトルでキャラメイクしたのか。


「すまんセラ、少し遅れた。」


 言葉とは裏腹に、その表情には一切の謝罪の感情はない。それどころかテヘペロとしそうな一歩手前の表情で明るく言い放つあたり、伊達に「腐れ縁」じゃないなぁと自分でも思う。その程度の問題でお互い怒ったりはしないからね。


「遅い。早く武器もらいに行こ」


 若干拗ねた感じでぶっきらぼうに答えるも、多分演技だと見抜かれているだろう。だけど、こういった芝居がかったロールプレイは互いに好きなので問題ない。


「あぁ、そうしよう。」


 近付くまでに周囲の状況を把握したのだろう、ケントも場を離れる事に賛同する。普通にこんな不毛な勧誘合戦のやり取りにこれ以上時間をとられたくないのは当然だろう。だというのに、この手の手合いは全く度し難い。


 案の定


「ちょっと待てよお前!いきなり横入して何しれっとその子連れ出そうとしてんだ!大体お前はその子のなんなんだよ?!何様だ!!!」

「そうだぞ、俺らの方が先に声かけてんだぞ?順番守れや!」

「その子だってお前みたいな頼りない奴より、俺達と一緒にプレイする方が良いに決まってるだろ!」


 なんだこいつら…保護者気取りか似た様な感じが物凄く気持ち悪いぞ…。例えるならこぼした牛乳をふき取って中途半端に乾燥した雑巾レベルに気持ち悪い。そう、これはあれだ…ゲロ以下の匂いがプンプンするぜぇってやつだ。


「何様も何も、相棒(ツレ)と合流して行動するのがそんなにダメかよ?」

「「「 つ、相方(ツレ)ッ?! 」」」


 何故そこでハモる。そして何故驚く。相棒(ツレ)の一人や二人いるだろ…いるよな?


「ま、待てよ!お前が勝手に相方(ツレ)って認識してるだけで、当の本人は何も言ってないだろう!俺たちをだまして抜け駆けしようとしてるんじゃねぇ!!」


 食いつくねぇコイツ。その頭ん中のお花畑にガソリン撒いた後、火をつけて燃やし尽くしてやりたいわ…。


「という事らしいけど、俺達相棒(ツレ)だよな、セラ?」

相棒(ツレ)だよ?」


 二人で顔を見合して頷きあう。


「「「 ―――ッ!!! 」」」


 何故そんなにショックうけてんのこいつら。遠巻きに見てた連中も似た様に表情を曇らせるやつもいるし、逆に何か納得して頷いているような連中もいる。その状況を見て、成程相棒(ツレ)の意味を恋人みたいに認識していて、意味の齟齬が生じていたのだと理解した。そのおかげで囲っていた連中に隙ができている今が絶好の退避チャンスだ。


「そんな事より早くいこう」

「おう、行こう行こう!そういやセラはメインウェポンどうするか決めた?」

「もち、もう決めてあるよ」


 メインとして使う武器をどれにするか話しつつ集団から抜け出す。すれ違いざま何名かは名残惜しそうにこっちを見つめてきたが努めて無視する。そんな表情されても今までの塩対応でわかりそうなものだと思うんだけどなぁ。


 もみくちゃにされるかと思われたが、意外とそんな事はなくスムーズに通してもらえた。無事に人ごみの中を抜けた後は初期装備を取得するべく、視界右上に表示されているミニマップに初級インストラクターと描かれている光点に向け移動する。



「でさ、セラは何使うわけさ?」

「人に聞く前に自分の方を言えよー。大体想像つくけどさぁ」

「初の神経同調形VRだしオーソドックスに片手剣と盾の組合せで行くつもりだよ俺は。どのゲームでも最初は定番からってね。んでセラは?」

「結構手堅くいくのなー。こっちはポールアーム、ハルバード主体にするつもり」

「長物か~。槍とか両手剣とか身体に不釣り合いな武器結構好きだもんねぇセラは」

「リーチもあるし、何よりもギャップがいいじゃん。このナリでぶん回すんだよ?」

「らしくていいねぇ!でもさ、大丈夫なの?今までのゲームとは違うみたいだしこれ」

「ん~多分大丈夫だと思うよ。基本的にどの種族でも武具の制限はないの確認済みだし。種族補正で得意武器はあるらしいけど、初期ステータスは全員共通ラインから開始で、そこからスキルや熟練度で得手不得手が出てくる感じかな」

「て事は突き詰めていけば、ウェポンマスターみたいな存在も夢じゃあないって事かぁ」

「マスタリーというか、熟練度も数値化されてるわけじゃないからそう簡単にはいかないと思うけどね。見てきた情報もそのあたり結構曖昧なのが多くてさ」

「そっか。後は魔法だな。魔法剣士とか夢があるよなー」

「魔法とかは種族特性が強く出るみたいだね。ドワーフだと地属性が得意だとかそういう。ちょっと前、どこかに情報リークされたとかで載っているの見たよ」

「その辺は割とありきたりな設定なんだな。自分の属性とかどうやって調べるんだろう?」

「そこまではわからないけど、この初心者エリアのNPC回ってたらわかるんじゃない?っと、見えてきた。あそこで武器とか選べるみたいだ」


 そこにはちょっとした倉庫みたいな建物の前で、偉そうに腕を組んでいる兵士達と数多くのプレイヤー達がいた。




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