【 Ep.3-004 ペインゴッズ 】
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――セラ達の突然の乱入により後少しで追い詰めたと思われた状況が一転し、立派な髭を生やした老獪な戦士と蜘蛛顔の魔族ゼハクとの一騎打ちが始まった。
初撃をゼハクに放って弾き返されたセラはそのまま女性魔族キリカと交戦に入り、インプ達の相手はケントを中心にした天兎メンバーが担っている。
このゼハクこそ厳格な封建制が敷かれている魔界に於いて絶対的な地位を誇る"魔大公レゲネンエルト"に仕える上級戦士であり、彼が扱う二本一対なる禍々しい戦斧<ヴォーマ>は魔剣や妖刀などに属する魔造兵器の一つである。
魔造兵器であるヴォーマは一振りだけでも平均的な人族であれば両の手で持たねばならない程大振りの作りをしており、使用者の魔力と対峙する相手の血を吸収する事で更なる力を解放するという。
そんなヴォーマを軽々と扱うゼハクは見た目の異様さもさることながら、魔族の中においても異質な存在であり、魔大公レゲネンエルトにより作られた合成生物魔族の実験体である。
――ガギン!!ガン!ギィインッ!!
「素直に死を受け入れろ……。そして我がヴォーマの糧となれ。」
「ふん、誰が貴様の為になど死んでやるものか。むしろここからがワシのターンじゃ!大人しく尻尾を巻いて逃げるなら今のうちじゃぞ?」
「ファハハ。これは可笑しな事を言う。俺一人であれば勝てるとでも?――"雷迅"よ。」
ゼハクの言葉に一瞬ではあるが、髭の戦士は眉を顰めた。だがそれもすぐさま表情から消し去ると逆にゼハクへと問い掛けた。
「ほう……どこでそれを――いや、それを知っていて尚ワシに挑む気か、"業血"よ。」
「さぁな。どこで手に入れた記憶だったか……。貴様も俺を知っているのなら気付いているのではないか?この俺が、屠った者の血を取り込み我が物とする合成生物魔族だとな。」
「……故に業血とはよくいったものじゃな。ならば――」
「最早言葉は不要。」
言葉を交わしながらも重い斬撃を一合、また一合と互いにぶつけ合い、その度に周囲の空気を震わせ轟かす。彼らの間合いに不用意に入ろうものなら一瞬でボロ屑の様になるのは間違いない。
ゼハクに雷迅と呼ばれた髭の戦士のハルバードの扱いは鋭く卓越しており、特に突き技に関してはその軌跡が雷が走るが如くである。
対するゼハクもその片割れだけでも普通の人間であれば両手で持つ以外保持出来ないであろう禍々しく重々しい二本一対の戦斧ヴォーマをその両手で軽々と振るい、雷迅の攻撃を弾き返しては攻め立てている。
両者の実力は一見互角に見えるが、未だ底が見えぬ不気味な雰囲気を出すゼハクと、加齢による体力低下が見受けられる雷迅ではゼハクの側に分があると言えた。――そもそもヒュームと魔族との種族能力差は魔族側に軍配が上がるのだ。
徐々にゼハクが雷迅を押し始めるが、押されても尚その表情は落ち着いており、派手さは無いもののフェイントを時折挟んだり、武器だけではなく脚運びのついでに地面の砂や小石を蹴り上げ目潰しを狙うなど、堅実な一手を打っては合間に奇策を織り交ぜ戦う事でゼハクを攻め切らせない正に老獪さを発揮している。
攻め切れない状況を認識したゼハクは俄かに両腕に魔力を流し、その手に持つ戦斧ヴォーマへと注いでいく。注がれる魔力は赤黒い光を発して傍目から見れば血流の様にも見える。
注がれた魔力を吸収した戦斧ヴォーマはドクンドクンと鼓動を打ったかと思うと、その刀身を赤黒く変色させてより一層禍々しさを増した。
その様子を確認した雷迅も自らの得物に魔力を流し込み、彼の持つ無骨ながらもどこか品のあるハルバードはバチバチと帯電しはじめ、アックスブレードの部分に不思議な回路の様な模様が紫色に発光して現れ、その回路模様はフルーク側にも伸び、穂先全体へと広がっていく。
「<血の殺戮>!」
先に動いたゼハクがその腕を大きく、そして力強く振るうと、戦斧ヴォーマは変色したその刀身を肥大化させ、赤黒い軌跡を空間に刻みつけながら雷迅へと襲いかかった。
「<紫電一閃槍>!」
対する雷迅も先程より大きな刀身に向け自身の得物を振り絞った後、紫色の雷光の軌跡を描きながらゼハクのヴォーマへ繰り出した。
ガァン!ギッギギギギギギギギギィ……
赤黒い光と紫電の光が激しく明滅する強烈なインパクトが発生し、二人を中心にした衝撃波が広がるが、二人は鍔迫り合いの形で止まっている。
恐るべき膂力で雷迅を押し込もうとゼハクはより力を込めるが、火花を散らしながら刃同士は互いに噛み付いたまま動かせずにいるのだ。
ギリリ……ギギ……
魔族よりも幾分も劣るその身体のどこに此処までの力があるのか……ゼハクは表情を変えずに感心していた。
合成生物として作られた自身のポテンシャルの高さへの自負と、特殊な魔族であるが故の強大な力故の傲慢さと力への渇望も自認している。そんな自身の存在と互角に殺し合えるこのヒューム族の戦士への一種の敬意がゼハクの中に芽生えていた。
――だがそんな感情に浸っている時間は残り僅かである事を認識せざるを得ない。
逃げた人族を捕らえるために放ったインプ達がケントをはじめとした天兎メンバーによって駆逐され残りは手負いの三匹であり、また自身に突如斬り込んできた獣人族の小娘を相手をしているキリカが、その小娘によって追い詰められはじめているのを複数ある眼で視認していたのだ。そしてまだ距離はあるものの、複数人が駆けてくる微細な震動をキャッチしていたのだ。
「……頃合いか。」
そう小さく漏らしたゼハクは更に魔力を腕に込め、ヴォーマへと流し込んでいく。
魔力を注がれるにつれヴォーマは先程よりも更に赤黒く明滅しては脈動し、その姿は禍々しく肥大化する。
「フンッ!!!」
「ぬぅッ!!!」
肥大化したヴォーマを更なる膂力を以って振り抜き、鍔迫り合いをしていた雷迅を弾き飛ばし、そのまま流れる形でキリカに向け駆け抜けながら言葉を紡いでヴォーマを覚醒させる。
「吼えろ!唸れ!その刃を血色に染め上げよ!ヴォーマ!!!<憤怒の狂刃>!」
ゴゥッ!!と鈍く重い音が付近の空気を引き裂き悲鳴を上げ、キリカに迫った凶刃とその主を跳ね飛ばした。
「キャッ!!!」
ゼハクの言葉を受けたヴォーマは低い唸り声の様な鳴動を起こし、血管の様なものが複雑に走る刀身を煌めかせ、空気を引き裂きながら斬撃が地面を割っていき、セラが放った<刺突>を防いだ上にセラをも弾き飛ばしたのだ。
「……引くぞ、キリカ。」
「ぜ、ゼハク様?!で、ですが……。」
「レゲネンエルト様より仰せつかった一次目標は達成したのだ。よしんば二次目標をとは思ったのだがな……。直に彼奴らの増援が到着する。この場は引くぞ。」
「はっ!」
「待てっ!!」
魔族二人のやりとりに、ゼハクにより後方へと弾き飛ばされた雷迅が戦線復帰を果たし自身の得物を再び魔族の二人へと向けた。
「よせ。今はまだその時ではない、"ラウル"。」
「なッ?!その声……バルバスなのか!?」
雷迅の姿を目に入れたゼハクはそれまでとは全く別の、似ても似つかぬ人族の声を発し、その声を聞いた雷迅は思わず目を見開き誰何した。彼の隣に居るキリカですら目を見開いて彼を見上げているところから、彼女も初めて聞く声である事がわかる。
「ゼハク……様?」
「……ククッ、取り込まれて尚此処までの執念を見せるか。雷迅よ、この勝負は一旦預ける。宿業の果て、再び合間見えようぞ……。――キリカ。」
「はい、お任せを。――昏き闇へと至る途、闇の落とし子たる我等を母なる深淵へと導かん……<魔界転移門>」
不気味に嗤ったゼハクはまるで独り言の様に言葉を漏らし、ヴォーマの片割れを雷迅に向けながら再戦の予告をした。
ゼハクに促されたキリカは短く詠唱すると、彼らのすぐ側に転移魔法のゲートが出現した。ゲートの内側は昏く、異質な揺らぎが絶えず形を変えながら冥府への道を開いている。
二人はこちらを警戒しつつ、ゆっくりとゲートの中へと入っていき転移していく。
ゼハクは雷迅に視線を置きながら、キリカは弾き飛ばされたセラへと目をやりながらその姿を消すと、転移門はその役割を終えて静かに収束して消滅した。
「……行ったか。さて――。」
魔族二人の転移を確認してから雷迅と呼ばれた立派な髭を蓄えた男性は一息を付き、保護した若者達の護衛と加勢についてくれた天兎のメンバーの方へと向き直る。
「大丈夫か、セラっ!」
「セラさん!!」
「ッぐぅぅ……。」
「ケントは少し離れて。ヒールを掛けるから。クロさんは村人の方の手当てを。モーリィ、ポーション出しておいて。」
「あぁ、わかった。」
そこにはゼハクの割り込みにより弾き飛ばされたセラを囲んで天兎の面々がリツ主導の下負傷者の手当てを開始していた。村から飛び出した若者達も相応に怪我を負っているが、インパクトの直前に割り込まれ、真っ向から弾き飛ばされたセラは受け身を取る事が出来ないまま地面に落下した為、口から血が垂れており見た目以上のダメージを受けていた。
「……~~ッ!!」
「むっ?」
ザッザッザッと彼らに向かって足を向けた髭の男性だったが、そこに向けて<火矢>の魔法が飛んできた。
直撃コースではないものの、彼の足を止めるには効果的な軌跡を描いて放たれた<火矢>に、彼は魔法の使い手のコントロール能力の高さに感心した。
彼は魔法が飛んできた方向へ向き直るとこちらへ駆けてくる一団が見えた。
「ちょっと止まりぃ!それ以上うちらの身内に近づくのはやめてもらおうかぁ!」
「シオン、貴女は倒れてるセラの回復を!」
「セト、俺らはあのヒゲのおっさんの足止めをするっすよ!」
駆けながらやってきたのは対岸の探索に別れたもう一組の天兎パーティで、それぞれ得物を抜いて髭の男性の正面にベネデクトが構える形で彼を包囲した。
対する髭の男性は特に慌てる事もなく、自身の右手に持っていたハルバードを見やると、なるほどと頷いて紫電が迸っていた穂先からその力を霧散させてから流れる仕草で自身の背中へ懸架した。
チグサをリーダーとした天兎第二パーティの面々はその行動を見て頭の上に疑問符を浮かべた。
「みんな、そのヒゲのおっさんは敵じゃない。武器をしまってくれ!」
「ケント……?!ホンマかー?このおっさん敵やないんか?」
「マジマジ!つーかそのおっさんかなり強いから武器しまえって!」
「……失礼ですが、本当でしょうか?」
「おっさ――あぁ、ワシが武器を持ったまま君らの仲間に不用意に近づいて勘違いさせたみたいじゃな。すまんすまん!」
割と失礼な物言いでマリーが確認し、若者達を護りながらも魔族とのやり取りを少しだけ見る余裕があったケントが慌てて注意する。
そんなケントの慌てぶりに第二パーティのリーダーにあたるチグサが落ち着いた声で確認を取ると、髭の男性は頷いて自身の不手際を詫びた。さっきまでの戦闘で見せていた真剣な表情からは打って変わって飄々とした表情で、ケント達からすればそのギャップに少し戸惑いを覚えた。
「ケントの言う通りそのおっさんは敵じゃないよ。ボクのダメージはそっちが姿を見せる前に転移した魔族の二人組から受けたやつだから。」
「セラ!あんた無事なんか?!」
「ダメージはリツの回復魔法とモーリィが渡してくれたポーションと、シオンの駄目押しの回復魔法で大丈夫だよ。とは言っても痛いのは痛いけどね……。とりあえずそのおっさんは行方不明になってた村の人達を護ってたし敵じゃないよ。でしょ?」
「おっさ……ぁあ、まぁそうじゃな。ワシの方こそ加勢してもらって助かったくらいじゃ。礼を言う。」
「これは失礼しました。私達の早とちりが原因で危うく怪我をさせるところでした。非礼をお詫びします。」
「いや、気にするでない。ワシこそ誤解を招く行動を取ってしまっていたしな、お互い様じゃろう。」
回復魔法で持ち直したセラが半身を起こしフォローに入り髭の男性の無実を説明してようやく第二パーティの面子も警戒を解いて武器を下ろした。
さりげなく自分の呼び方が"おっさん"である事に軽くショックを受けている様子だけど、名前も知らないからそう呼ぶのは仕方ないと思う。
「さて、そこの若者達を村に届けてやりたいところじゃが、ワシらだけならまだしも彼らを連れてとなると流石に途中で陽が落ちるのう。奴らが撤退した故にさほど脅威になるモンスターが出てくるとは思えんが、ここはこの場で野営するとしようかの。」
「あー、そうだね。怪我の手当ては済んでいるけど精神的に疲労しているみたいだし無理をさせるのは良くないね。」
「そうじゃろう、そうじゃろう。若いのにしっかりしておるのう。と、そう言えばまだ互いの事を紹介すらしてなかったのぅ。ワシの名はペインゴッズ。元冒険者じゃ。」
「ボクはセラ。ファミーリア"天兎"のマスター。こっちが――」
――こうして髭の男性改め、元冒険者の"ペインゴッズ"と互いに紹介を済ませ、保護した村の若者達も合わせて共に野営の準備を進めるのだった。
髭のおっさんこと"ペインゴッズ"はこの章ではレギュラーメンバーとなる人物です。
彼の正体は割とすぐに判明すると思います。はい。
ゼハクとキリカは次回登場の機会はありますが、まだ先になる予定です。




