表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/94

【 Ep.1-005 悪魔の奪い合い 】

『――あーあーあー、セラ?聞こえてるかな?ケントなんだけど、今どのあたりに居る?』


 どうやらウィスパー機能による通話だったようだ。相手の名前が分かっていれば、距離が離れていても念話のように会話ができるネトゲお馴染みのシステムだ。ゲームによっては「ささやき機能」とも言うらしいが、個人的にはその呼び方は好きではない。

「xxx売ります。ささ下さい~」とかいうやり取りを見る度に、おまえはパンダなのか?!という実にくだらない事を思ってしまうからだ。


 声の主の名前を頭の中に意識して集中してみるとウィスパー機能が立ち上がった。


『こっちは初期位置から北の方角の小川の傍に生えてる少し大きめの樹の下に居るぞ~』


『おk、身体の動かし方掴みながらそっち向かうわ』


『あいあい、早めに合流して初期装備もらいに行こうぜ』


『わかってるって。てか本当にセラか?声が随分とアレなんだが』


『お互い様だろ。――早く来てね?おにーちゃん』


『っぶはははははwwwwwwwwその声でwww、それ言うのやめろよwwww』


『割と混み始めてるから早めにね』


『りょー』


 ここで一度通話を切ると、いつの間にか周りをやや遠巻きながら囲まれていた。



「えっとー…?」


 なんだこの状況。嫌な予感しかしないんだが…聞き耳を立てると、


「あいつだろ、最初にあのすっげぇ2回転空中ジャンプ決めたやつ」

「つーかすんごくかわいくね?俺もあんなキャラ作ればよかったわ~~~」

「妹に欲しい…。」「問題は中身だろ中身!どーせおっさんだよ。そうだと言ってくれ!」

「おい、お前パーティに誘って来いよ!」「お、お前が行けばいいだろ!!」


 本人そっちのけで盛り上がってきたぞ…


「中身がどうとか関係ない!俺はあの子に恋をした!!」


 やめろ、中身はアラサー手前のほぼおっさんだぞ。君が中高生だった場合、間違いなく心に深刻なトラウマが残るぞ!


「み、見抜きしていいですか?」


 今誰が言った!!前に出てこい!!!!!!!!


 思わず叫びそうになるが、ここは我慢だ……目立つ待ち合わせになりそうな場所なせいか人がどんどん集まってくる。程よい人の集まり故か、パーティの募集や、他ゲーでは組合(ギルド)戦闘集団(クランに当たるファミーリアの募集も始まっている。


「まったり系ファミーリア設立予定のエリクだ!そこの君、うちにこないかい?」


――手あたり次第に声をかけてる優男風のヒューム男性まったりとかいう謳い文句は定番だけどそれ故にはずれの比率が高い。後々戦闘系コンテンツに手を出し始めると爆発離散するところが多いのもまた特徴だろう。


「こちら女キャラオンリーのファミーリア設立予定でーす。女子あつまれ~!」


――女キャラクターオンリーを謳う女エルフ。こういう所は中身の殆どが野郎だ……実質オカマバーなのでは。


獣人族アニールオンリーのファミーリア”けもみみもふもふ”に入りたい奴はいないか!」


――獣人オンリーを謳う獅子獣人ライオネルの男性。えらくいい声なのに、ファミーリアネームとのギャップで思わず噴き出しかけた。


「ワシはゴンゾー、うちは農商工や製造、貿易中心に生活系全般のファミーリア予定だ!」

「リアル優先で大丈夫ですにゃー!みんなでワイワイ楽しもうにゃん!」


――農耕商工貿易を中心活動にする生活系ファミーリアを設立予定と、声高に呼び掛けるドワーフのゴンゾー氏と猫獣人(キャタリス)の女性。ロールプレイしている感じがありありと出ていて好印象を受ける。


 生活系に食指が動きかけるが、やはり自分の居場所は自分で作りたい。他の人が作ったクランやギルドには何度か世話になった事がある。

 居心地が良い所もあれば、内部格差でギスギスしてて空気が悪い所もあった。居心地が悪い所は論外だけど、良い所でも自分が納得できない箇所が多々出てきたりする。そうなると自分の好き勝手にできないので痒い所に手が届かないストレスが溜まる環境になる。

 自分の理想を突き詰めたい俺としては、よそ様の軒先を借りるよりかは、例え小さくても1から積み上げていく方が性に合っている。そこに賛同して一緒に理想を追いかけてくれるやつがいれば言う事はない。

 なので、勧誘はスルーだ。さっきから最初の優男がチラチラと目線を向けてくるがシカトだ。


「ねえ、そこの狐耳のアニールの君!そのかわいさでボクのところの看板キャラにならないかい?」


きたよ、来ると思ったよ…はぁ、めんどくせぇ…。


「……興味ないんで」


 こういう時ははっきりと断った方がいい。勢いに流されて加入すると後々後悔するパターンが多いのだ。


「あ、ずりぃぞお前、その子は俺が目を付けてたんだ。君、そんな奴の所よりうちへ来いよ!」

「そんな奴とはなんだ?こういうのは早いもん勝ちだろう!」

なんか始まったぞ。


「そこの君ぃ!君も獣人ならけもみみもふもふに入ろう!!!」


 暑苦しいなこのライオン!動物は好きだがその名前は流石にお断りだ。


 この二人の勧誘がきっかけとなったのか、断ったから自分達にもチャンスがあると勘違いしたのか、次々と勧誘の声がかかるのがもう本当に鬱陶しい。"かわいいは正義"だが"かわいいは罪"でもあるのだ。実に悩ましい問題だ。


 断り続けるくらいなら自分も設立予定と伝えればいいだろうって?

バカだなぁ、そんな事言ってごらん?キャラ目当てだかどうだかわかんない有象無象を、碌な面談もできずに抱え込まざるを得なくなり、将来的にいつ爆発するかわからない爆弾を身内に抱え込む事になる。よく聞く話だろ?姫ちゃんとかさ。所謂サークルクラッシャーみたいな奴。別に女に限らないけど男でもヤバイ奴はごまんといる。

 長く続く組織運営をするならば、そういった要素ははじめから除外し、しっかりと意思疎通の取れる相手を受け入れるべきなのだ。


 っと、持論を脳内展開している間に勧誘合戦が激化して、勧誘する順番決めだとか当の本人が置いて行かれてるぞー。普通に加入先探している人からすれば迷惑この上ない状況だと思うんだけどなぁ…。逃げ出したいけど、ケントと待ち合わせしているし人の壁で無理だこれ。


 早く来てくれねぇかなぁ……




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ