【 Ep.2-026 旅立ちに向けて 】
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トリガーメンバー達との談話を終えて、天兎のみんなで夕食を取ろうと宿へ戻る為階下へ降りて外へ出ると、冒険者ギルド脇の厩舎前で黄金の交易路を中心にギルド職員も交じって物資の配分作業をしているところだった。
凡そ一万人にも及ぶ元プレイヤー達を含めたこの開拓村全体の食糧を、大規模な荷馬車隊を編成して運送したとしても積載量からしても限界がある。――だがそんな問題も誰しも一度は思いつく手法を実現できれば可能となる。
護衛任務の折に荷馬車の中を確認させてもらったのだが、そこには無理やりかき集めたであろう様々なインベントリポーチやバッグ、冒険者ギルド保有の収納箱が積載されていたのだ。
ゲームとしてスタートした際、配布装備の一つとしてインベントリポーチをボク達は受け取ったが、本来時空間魔法を付与されたものに該当する収納系アイテムは非常に高価なアイテムである。それ故個人で幾つも所有するというのは現実的ではなく、また複数所有していたとしても強奪された時のリスクを踏まえるとおいそれと複数持ち歩くのは現実的ではないのだ。――それを今回は緊急特別措置として冒険者ギルドが手配したおかげで実現された。
そう言った事情もあり、今回の護衛に割り当てられたパーティは冒険者ギルドから見て非常に信頼の厚く、実務能力の高い者達であると言えた。
談笑の間に大体の振り分け作業などが終わったのか、賑やかではあるが和気藹々とした空気が流れている。その中にはボク達が現在寝泊まりしている宿屋の主人も混ざっていた。
「おっ、嬢ちゃん達ここに居たのか。さっき狼の兄ちゃんとドーンエルフの兄ちゃんの二人組も戻ってきてたぜ。」
ボク達に気付いた宿の主人は、右手を大きく手を振って此方に声を掛けてきた。反対側の手には袋に大量に詰められた食材らしきものを持っている。それ多分インベントリバッグなんだろうけど、限界までモノを詰め込んだらあそこまでパンパンに膨らむものなのか……。
「あっ、セラさん!用件はもう御済みなんですか?」
宿の主人と会話していると、作業に従事していたリントさんがボクらを見て駆けつけてきた。両手でじゃがいもらしきものを入れた箱を抱えて。
「要件っていうか、顔出しに来ただけだから用という用はなかったんだけどね。ところでその手に持っているのは……芋?」
「はい、二十日芋の種芋です。」
「はつかいも?」
「なんだぁ嬢ちゃん知らねぇのか?二十日芋といやぁ、痩せた土地でも成長するっつー食糧問題の救世主様だぜ?」
「へぇ、そうなんだ?」
「ええ、そうなんですよ。名前の通り二十日程度で種芋に成長しますし、食べるだけであれば八日目から食材として使えるのでギルド長が急いで手配したんです。収穫も何度かできますから昨日の緊急輸送みたいな事をせずに済みます。ただ連作はできないのでこちらのアリム・コーンの種を植えてローテーションを組んで栽培しないといけないんですけどね。」
抱えていた箱を地面に置いて腰に括り付けてあった袋からアリム・コーンの種を手のひらに出して見せながらリントさんは説明してくれた。
その後も村の南の耕作地と絡めて懇切丁寧に説明してくれるリントさんを見るに、どうやらこの二十日芋などの耕作物関係はリントさんが入れ知恵した結果の産物であろう事が読み取れる。カサネさんも優秀な人だとは思うけど、いくらなんでもこの世界での農耕の知識があるとは思えない。――にしても少々説明や薀蓄が長い。
「リントの嬢ちゃん、その辺にしときな。いくら嬢ちゃんがお気に入りだからってそう捲し立てる様にガーっといっても頭ん中に入らねぇぞ?」
「あっ……。すいません、つい話に熱が入ってしまいました。」
「がはは!ま、こんな可愛い嬢ちゃんが今この村では随一のパーティのリーダーで最速でファミーリアまで設立したんだっていうんだから、リントの嬢ちゃんが熱を入れるのもわからんでもないがな!あーそうだ嬢ちゃんたち、悪ぃんだがこっちの箱の食材一緒に宿に運んでくれねぇか?晩飯はその分サービスすっからよ!」
「うん、いいよ。」
リントさんの長い会話を宿屋の主人が見事にカットしてくれたので、お礼も兼ねて彼の頼みを二つ返事で快諾する。箱そのものもそこまで大きいものではなく、一人当たり2箱ずつ重ねて持てる程度のものなのでお安い御用って奴だろう。
「おしっ、じゃあそれ持って宿まで頼むわな!」
「またね、リントさん。」
「ええ、また。おやすみなさい。」
リントさんに別れを告げ、食材が詰め込まれた箱を抱えて宿へと向かう。
主人に付いて行く形で宿の裏手に回る道の途中にある出入口から中へ入り、キッチン傍のスペースに主人の指示通り箱を置いた後そのまま部屋へと戻った。
部屋の前でケントとチグサと別れ、女子部屋の方へと入ると調子を取り戻したマリーにシオン、クロさんが三人で談笑していた。ベネとリツの姿がないが、恐らく用が済んだので男子部屋に戻ったのだろう。
「お?おかえりー。」
「おかえりなさい、セラさん。」
「おかえりーセラ。今まで外いってたんか?」
「ただいま。今まで外っていうか、昼前にケントとチグサの三人で村の南の開墾地見たついでに小川の傍で昼食べた後はダラダラここと似た様な感じで駄弁って、陽が傾いてからは冒険者ギルドの三階会議室に顔出してた。」
「ふーん。なんだかんだ三人共他のメンバーより付き合い長いもんね。」
「まぁ腐れ縁だしね。それよりリツは?てっきりこっちにいるもんだと思ってたんだけど。」
「んー、なんか気ぃつかって旦那と一緒にあっちの部屋行ったわ。なんか用あったん?」
「いや、特にこれと言って用があったわけじゃないよ。ただ珍しいなって。」
「リツ姉……というかもう兄だけど、セラとは逆だけど性別変わっちゃったでしょ?まだ整理しきれてないんだけど、色んな違いとか感情に馴染めてないって言っててさ、これから男として過ごすのだから自分も男部屋で寝泊まりするってさ。」
「リツの事だから何だかんだ戸惑いながらも楽しんでそうだけどね。ボクとしてはリツの恋愛観がどう変化するのか興味あるけど。」
「あー、確かにそれはあたしも興味ある。」
「そう言えばシキやセト、モーリィは?」
「シキとセトの二人ならセラが帰ってくる少し前に戻ってきよったで。なんやシキがえらい嬉しそうにしとったけど。モーリィはまだ作業場ちゃうかな。」
「そっか。ちょっとしたらモーリィ呼びに行って下でみんなでご飯にしよう。」
「せやね。まぁまだご飯タイムまでには余裕あるし、少しは部屋でゆっくりしとき。」
よくは分からないが、シオンとのやり取りは俗に言われていた女子会みたいなものなのだろうか?ボクと同じで元の性別とは逆になったリツの嗜好の変化は下世話ではあるけども興味をひかれる。元が天兎鬼腐神会のトップだったリツが、かつては御飯三杯はいけると自ら豪語していた美形男子になったのだ。
嗜好が元のままなら、あの美形エルフが手を付ける対象が男のままという事になる。個人的にはあまり見たいとは思わないけど、シオンあたりは喜びそうだ。ただ、昼にボクが指摘されたようにリツにも変化が起きていると仮定するなら、きっとリツもそのあたりの変化が起きているんじゃないかと思う。そしてマリーが教えてくれたシキとセトの様子から、ペアハントを通して何か得るモノがあったのだろう。
しばらく四人で喋った後、俄かに階下が騒がしくなってきたので恐らく晩御飯の頃合いになったのだろう。マリーとシオンに男部屋の連中に声を掛け、レストランスペースでスペースを確保して先に待っているように頼んで、ボクとクロさんは予定通りモーリィを迎えに一度宿を出て製作施設へと向かった。
「モーリィ、そろそろ晩御飯にしよー。」
「お、もうそんな時間か。ちょっと待ってろ!すぐこいつを仕上げる。」
製作施設の扉を開けて中に居るであろうモーリィへと声を掛けるとすぐに返事が返ってきた。
手にしていた作業途中のものを一気に仕上げて道具を仕舞うと、肩を伸ばしながらモーリィは此方に合流し、そのまま三人で宿へと戻ってその足でレストランスペースへ向かうと、ベスちゃんに衝立で半個室になっているスペースへと案内された。
「そう言えばシキとセトはなんか収穫あったの?」
「はい、俺は種族固有スキルの"獣化"を覚えて、セトは"隠遁"のスキルを獲得したっす。」
「"隠遁"は分かるけど、"獣化"ってどんなスキルなの?」
「口で説明するより実際に見てもらう方が早いんすけど、流石に周りの目があるところでやるのはアレなんで後で見せるって事でいいっすか?」
「うん、全然それでいいよ。」
食事を取りながらそれぞれ思い思いに会話をする。気になっていた事をシキに聞くと、二人とも新しいスキルを獲得したらしくそのおかげで機嫌が良かったみたいだ。
シオンがシキの獣化に興味津々らしく少々食いつき気味に尋ねるが、シキの返事からするとあまり周囲には見せたくない部類の物らしい。ちょっとボクも興味を惹かれる。
「とりあえずこの後は男部屋に集まって今後の事を話そう。」
そう全員に向けて言ったあと、再び宿の主人が手によりをかけて作った料理を口に運ぶ。今日の料理のメインは二十日芋を中心とした料理で、数種類並んでいるポテト料理の中でもボクが気に入ったのはポテトサラダだ。
今回仕入れたものとは別の二十日芋らしいけど、全体として程よい塩気に調整され、食感が残る形でカットされた卵の白身、少しだけ形の残った黄身に1㎝弱の幅で短冊切りにされたハムと、しんなりとしたキュウリとオニオンがポテトのホクホク感を邪魔をしないようにしつつも控えめな主張をする。人によってはリンゴやコーン等を入れるようだがボクはこのシンプルな食材だけで作られたタイプが好き。
他のメンバーもそれぞれ二十日芋のガレットや二十日芋で作られたジャーマンポテトっぽい料理に舌鼓を打っている。そんな中でも目を惹くのが大きめの二十日芋の香草蒸し焼きだ。切れ目を入れられた二十日芋の上部にはバターが乗せられ、蒸された芋の熱によって溶けていってはその香りが鼻の奥から脳を刺激する。
切れ目に沿って切り分けて各自の小皿に取り分け口へと運ぶと、ホクホクの芋の食感に香草の香りと溶けたバターがいい塩梅に絡み合って口の中が幸せで満たされる様だった。
食事を終え軽い身支度だけ済ませると、男部屋へと天兎メンバーは集まった。
本来であればこうした会話は食事の場ですれば済む話ではあるが、話す内容的にまだ他の元プレイヤーの冒険者達に聞かれるわけにはいかないのでこうしている。
全員が思い思いの位置へ座ったのを確認するとセラは口を開いた。
「明日は転移後5日目になるわけだけど、先に予定だけ伝えておくと6日目の夜にはこの村を発つよ。目的地はこのアートゥラ辺境伯領の中心都市である領都エイブラム。ボク達の旅の目的はちょっと癪だけどパンドラに託された魔晶核の収集と、この世界を見て回る事ってところかな。」
「となるとそれに向けて色々と物資を揃えておく必要がありますね。食糧、野営用の道具、武器の手入れ道具。他に必要な物はありましたかね……。」
「旅程にもよるとは思うんすけど、どんくらいあれば十分なんすかねぇ?」
「極力野宿をしないルートで領都を目指す予定だけど、早い時期から野宿にも慣れていた方が良いと思うんだよね。今後安定して宿に泊まれる保証があるわけではないし、慣れるのが早ければ早いほど手際も良くなると思うし。」
ボクの告げた内容に即座に頭を回転させ始めるチグサ。言葉を発していないだけできっと今頃脳内で全員分の必要な食料や物資のリストアップをしているはずだ。この話し合いが終わる頃には必要な物資のリストを仕上げてくれるだろう。
シキは携行する食糧の分量がよく分からないみたいだけど、これについてはボクも適量が分からない。ケントとチグサの三人で一度キャンプへ行った事があるが、それでも食材を余らせたり水が不足したりと四苦八苦した苦い思い出がある。
「やっぱり野宿もする事になるよね……。ま、覚悟してたけど。みんなは大丈夫なの?」
「俺はマリーと定期的にキャンプへ行ってるから問題ないが、こっちではただのキャンプってわけにもいかねぇぞ。何しろモンスターや野盗の襲撃の可能性があるからな。」
「せやねぇ、うちらは大丈夫やけど言い出しっぺのセラやケント、シキやセト、それにクロさんは平気なんか?」
「なんかナチュラルに私とモーリィが除外されてないかい?」
「あんたら二人はなんだかんだその手の経験あるやろ?」
「俺はソロキャンプ何度かやったことあるが結構若い時の話だぜ?」
「私はキャンプっていうか車中泊とかだよ?」
現役大学生だったシオンは旅行の経験はあれどもキャンプの経験はないようで、野営に対して少し嫌だという表情を見せるが他のメンバーの経験状態が気にかかるようだ。
ベネはマリーと定期的に行っていたみたいで、恐らくこの中で一番の経験者である事は間違いないだろう。みんなが作業に慣れるまでは指導に当たってもらおう。
ベネに続いてマリーから水を向けられなかったリツが冗談めいた抗議の声を上げ、モーリィとそれぞれの経験を述べるが、まぁしてないよりかはマシ程度かなと思える内容だ。
「ボク達三人は一度キャンプに行った事はあるけど、正直初心者に毛が生えた程度だと思うよ。」
「俺は子供の時に親に連れられて数回ってくらいっすね。正直テントの設営とか料理とか殆どやった事が無いっす。」
「俺は……経験なしです……。すいません。」
「私はコテージやバンガローに泊った事ならありますが、テントを張るなどのキャンプはした事がありません。」
「ん~、まぁみんな基本ゲームばっかやってる引き籠りやしな!わかったわ、うちらがその時は手取り足取り教えたるさかい、みんなで覚えてこ……ってさっきから静かやと思ってたら寝とんのかい、ケント!」
スパーンッ!と小気味良い音を立てて頭をはたかれたケントが目を覚ます。
「まったく……この状況で寝れる神経が少し羨ましいですよ。」
「いやぁ、なんか飯食ったから睡魔がつい……な?」
「な?じゃないよ。兎に角、ボク達の村周辺の調査に関しては一応の完了は認められるみたいだから、明日は冒険者ギルドに顔を出してボクが話を付けてくるよ。ついでに領都への行程の相談とかも兼ねてね。」
「ならあたし達は必要物資の買い出しとかの準備かな?」
「この先ずっと使っていく物になりますからある程度しっかりした物を選びたいところですね。」
「セラー、ファミーリア資金からの捻出やんね?」
「勿論。毛布とかはそれぞれ体格や手触りとかの拘りあるだろうからそこは各自で。インベントリの容量踏まえた上で無理のない金額で買い揃えてほしい。」
「足りねぇもんは俺がある程度用意しといてやるよ。そうだなぁ、例えば鍋とかフライパンとかの調理器具とかだな。作る為の素材は今日までに製作して販売した金から捻出するが問題ねぇよな?あーあと、お前らの装備品それぞれ持って行けよ。完璧とは言えねぇかもしれねぇが、性能面は問題ねぇはずだ。」
「ある程度ボクらは資金には余裕があるけど、だからって無尽蔵じゃないからね。切り詰めれるところは切り詰めて、使うところにお金かけていこう。」
――セラを中心に細々とした詰めの話し合いを行い、其々の予想される必要なものなどはチグサが算出し、キャンプ経験者のベネデクトとマリーの監修の元必要物資が選定されていく。
冒険者ギルドからのガイドブックなるものは出されてはいるものの、セラ達天兎の様なファミーリア向けに書かれてはおらず、あくまでも参考になる程度のものなので当事者である自分達で物事を決めていく。
各自が出来る事を担当し、手が開いている者はそれぞれのサポートに就く事で経験を積んでいくのは天兎のお家芸と言える。決して大規模な戦闘ギルドではなかったラインアーク時代の天兎では、そうした大手を相手にする為には各自の得意分野を積極的に活用し、そのサポートに何名か付ける事で経験の共有化を図って戦力増強をしてきたのだ。
「ま、今更あーだこーだ言っても結局は場数踏むしかねえんだから気楽に行こうぜ。」
「寝てたケントが言うとなんか腹立つね。」
「何にしろ、俺とマリーで分からない所はフォローするから少しずつでも覚えていこうや。」
「心配せんでも4,5回もやれば慣れてくるから大丈夫やで。」
「あの……私でも上手くやれるでしょうか?」
「大丈夫やってクロさん。うちだってベネに教えてもらいながら覚えて出来る様になったんやから。」
「はい、よろしくお願いします。」
いつものムードメーカーらしいケントの調子よいセリフにすかさずシオンがつっこみを入れ、年長者のベネがしっかり皆のフォローをすると言ってくれた事で野営に対しての不安が薄れた気がする。こればかりはマスターのボクでは出来ない芸当なんだよね。しっかりと歩んできた年月からくる言葉は力強く、そして安心感を与えてくれる。
「とりあえず俺ぁ明日は今日までの製作物の在庫を整理して金にしてくるわ。その後はさっき言った様に調理用金物作っておく。昼過ぎくらいにはまとまった金には出来てるだろうから物資購入費に充てる為にも一度取りに来てくれ。」
「それでしたら私が一度製作所に伺わせて頂きましょう。」
「あ!そう言えばシキの言ってた"獣化"見せてよ!」
「え、まだ話済んでいないんじゃないっすか?」
「大体方向性決めれたから大丈夫だよ。他のみんなも興味ありそうだしね。」
「そ、そうっすか。じゃあ失礼して……。」
シキは立ち上がって部屋の隅の方へと移動すると、足を肩幅に開いて自然体の状態になる。
「ハァァァァアアア……。」
眉間に皺を寄せながら集中して全身に魔力を流していくと、シキの顔が徐々に動物タイプの頭部へと変貌していく。その光景はまさしく狼男の変身シーンそのものだと言えた。
変化は頭部だけにとどまらず、露出している腕や足も毛が覆い始め、あっという間にふさふさの体毛に覆われていき、手は若干肥大化して鋭い爪が生え、上半身はやや前傾気味の姿勢になって変化は止まった。
「どうっすか?!これが"獣化"っす。」
「これはまた……狼男そのものですね……。」
「すごーい、シキが等身大ワンチャンになった!」
「より獣人ぽくなるスキルなのかぁ。何かステータス向上効果とかあるの?」
「そっちの方が男前やん、シキぃ。」
見事な狼男へと変身したシキが、少しだけ得意げに色んなポーズをとって此方へ聞いてくる。
皆一様に感嘆の声を上げ、直ぐに思い思いの感想をシキへと投げ掛ける。ていうか姿勢は悪いけど顔はカッコイイ。こうみると元の動物寄りの獣人族もいいなと思う。
「シキ、その格好ってずっとなれるの?」
「このフル獣化モードは魔力が切れたら無理っすね。獣化している間は基礎ステータス、嗅覚をはじめとした身体能力が向上するみたいっす。ただ、魔力を消費する影響で魔法の使用は全くできない感じっすね。」
「魔力量を調整したら応用が利くのでは?」
「出来るっすかねぇ?ちょっと試してみますね……スゥー……フゥゥウウウ……。」
静かに呼吸を整えて再度シキが魔力操作をすると、それに合わせて脚から体毛が引っ込んでいき、続いて腕の体毛も引っ込んでいき姿勢も真っすぐになっていく。
なんとなく感覚で魔力の流れを感じ取っているけれど、シキの魔力操作は力強くも丁寧さを感じ取れる。恐らく彼のクラスが"修道士"で、スキルの幾つかに自身の気力操作を行うものがあるので恐らくそれの感覚と似たイメージで操作しているんだろう。
「こんな感じっすかね?」
頭部だけ狼状態のシキが口を開く。ぶっちゃけこっちの方がキャラも立っててカッコイイ。
「その状態の方がシキはカッコイイと思う。」
「え?マジっすか?!」
ボクの素直な感想に頭を手で掻きながらまんざらでもない表情でドヤるシキだが、彼の腰の後ろで激しく揺れる尻尾が全てを台無しにしている。自分自身も気を付けないとなぁこれ……。
「なんかこう見てると獣人族って尻尾の感情表現をコントロールできないと大変そうだね……。あたしヒュームで良かったって今思ったよ。」
「元になった動物によりそうですけどね。で、どうです?その姿なら魔法は使えませんか?」
「えーっと、ちょっと待って下さい……<乾風>!」
「お、いけるじゃん!」
「使えたっすね。」
「ステータス的にはどんな感じになってるん?」
「さっきより多少能力は低下してるんすけど、それでも素の状態よりかは能力向上はしてるっすね。」
「その状態なら維持はできそう?」
「ん〜、まだ難しいっすね。自然回復する魔力量の方がまだまだ多いっす。っと、そろそろ解除するっす。」
チグサのアイデアを実行してみたところ生活魔法ではあるものの魔法の行使ができた。
獣化の使い方次第では変装にも使えそうだし、割と利用できる場面は多そうだ。維持については意識して総魔力量を増やしていければ持続時間もそのうち問題なくなるだろう。
狼獣人のシキが覚えれたって事は、獣人族のボクも習得できる特性なのだろうか気になるところだけど、折角苦労してキャラクタークリエイトしたこの姿が変わるのはちょっと嫌だなぁ。
「さて、シキの獣化のお披露目も済んだし、もう少しだけ細かい所を詰めていこう。」
――ボク達は迫る旅立ちに向け、遅くまで意見を出し合ってその日に備えるのだった。
次回投稿日の予定は速ければ12/8(土)、ずれ込めば12/12(水)になると思います。
今年中に第二章は終わらせたいと思います。




