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【 Ep.1-004 器のポテンシャル 】

――意識が吸い込まれる瞬間思わず目を瞑ってしまった。


 恐る恐る瞼を持ち上げてみる…。下を向いているせいでもあるのだが、いつもより地面が近い。

視界に入ってくる自分の脚や手は白くキメ細く、綺麗な肌をしている。

手をクルクルとまわして手の甲や掌を確認し、握ったり開いたりする。

うん、間違いなく自分の身体らしい。あたりから聞こえてくる音の聞こえ方も違う。

耳がある位置に手をやると何も引っかからない。

え?!と焦り慌てて頭をくまなく手で捜査すると、

人間の耳があった位置の延長線上の頭頂部少し前側に2つ、ふわふわした耳らしき物に触れた。


「おぉ~ちゃんと耳がある!」


 ん?んん~~~~~?なんだ今のかわいい声は?!

いやわかる。これが今の自分の声だということは!

でもなんだこれ、正直可愛すぎじゃないか???


 自分でも信じられないくらい興奮しているのがわかる。

同時にお尻の少し上あたりがむずむずしている。

さっきから腰付近に触れるもこもこふわふわした感触も気になる。

首を回してお尻の方を見ると、そこにはキャラクリでしっかりと設定した通りの尻尾がある。

ある程度は任意に動かせる感じがするけど、無意識に動いている感じが強い。

自分で尻尾を触ってみると、これがまたベルベットの様な最高級の手触りがする、

ほっぺもプニプニしているしもっちりと手に吸い付いてくる。


 顔や全身の立ち姿は後で鏡なりで確認するとして、残る確認部位はおっぱいだ。

男のロマンであり夢が詰まっている素晴らしき神の造形物、それがおっぱいだ!

不自然にならないよう、下から胸を持ち上げてみるとぽよぽよと揺れる。

意外と胸の付け根にかかる負荷があるものだと感心する。

続いてゆっくりと揉んでみると、程より張りと柔らかさの調和の取れた感触が手に伝わる。

素晴らしい手触りだ!と思うと同時に、自分で揉んでもあまりグッと来るものがない…。

なんとなくではあるが、女性が自身の胸に興奮しない長年の疑問が解けたような気がした。

何よりも残念な事は、ハラスメントガードによって下着のキャストオフは出来ないのだ。

脱ぐどころかずらす事も出来ない念の入れようとは恐れ入る。

 この時この確認行為なんてせずに先入観を植え付けなければ、後の醜態は回避できたかもしれないなど思いもしなかった。


 さて、ボディチェックの後は身体機能の確認だ。まずはその場で軽く跳ねてみる。

トントンって感じにイメージしてやってみたはずだが、体重も軽いせいか思っていたよりも跳ねた。


 続いて凡そ目視で300mほど先の大きな樹に向けて軽く走ってみる。

体が軽い…獣人という種族ボーナスもあるのだろう、どこぞの陸上選手みたいな速度が出る。

疲労感も全く感じないし、このまま全力疾走してもちゃんと体を動かせる気がする。

お腹…所謂丹田に力を籠め、それを血液に乗せて全身にいきわたらせるイメージをする。

流石爺ちゃん直伝の奥義だ。

リアルでは100m走でビリっけつが3位になる程度だったが、こっちではそれどころじゃない強化だ。

風を切る感覚を顔で感じると視界が狭くなる。

目の前は緩やかな下り坂になり、下りきった場所には幅3m弱の小川が見えてくる。

坂を下りきる辺りでジャンプすると、思ったよりも高く飛んで空中2回転して5mくらい飛べてしまった。

着地で勢いとバランスを殺さないようにして、そのまま大樹の下へと駆け抜けるとすぐに着いた。


 そこそこな運動量のわりにほとんど息切れもなく、自身のポテンシャルの高さに驚く。

これだけの事をやると悪目立ちしそうなものだが、世界初の神経同調形VRゲームを全身で体感しようと、似た様な事をしているプレイヤーが他にも多く居るおかげかそこまで目を惹いたりはしていないみたいだ。


 種族によってある程度身体能力値の補正に幅があるのか、獣人系の人達は余裕をもって小川を飛び越えているのに対し、あまり数を見かけないドワーフの爺様は脚が短いせいなのか、川を飛び越えられずにドボンしちゃっている。

ずぶ濡れになって自慢の髭がべっちゃりと肌に張り付いてる姿は、雨に濡れたシーズー犬に似ていてかわいい。周囲のプレイヤーも最初は驚きこそしたが、その姿を見て笑っている。

笑われた方の爺様も気分を害した様子もなく一緒に笑っている。こういうオープンベータ時特有の空気は本当に楽しくて好きだ。


 何度も他のネットゲームで体験してきたが、やはりこの雰囲気はたまらない。

子供の頃、新しい公園を見つけたり、新しい玩具をもらった時と似た様な感覚。

大人になるにつれ新鮮味が消えていき、感動が薄れていく現実。

そんな無味無色になっていく感情に色彩を戻してくれるのがこの光景なんだと俺は思う。


 少し離れたところからそんな微笑ましい光景を見ていたところ、

頭の中に少し遠いところから呼びかけるような音量で声が聞こえてきた。




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