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【 Ep.2-018 悪夢 】



 ――あたりに何も見えない暗闇の中、自分自身の姿形さえ判別がつかぬままボクは前に進む。

 真っすぐ進んでいるのか、それとも緩やかに円弧を描きながらなのかは定かではない。

 ただ、理由(わけ)も無く、それが責務であるかのように付いているのかどうかすら分からない足を前へと進める。


(……これは、夢。"あの日"から時折見る夢だ。)


 意識だけがハッキリとした状態のまま、あてどなくふわふわとした肉体を前へと進めると不意に目の前に高さが2m程もある大きなガラス窓が現れた。

 灯りに惹かれる羽虫の如く窓へと近寄り"中"を覗き込む。そこにはある車内の空間が映し出されている。

 運転席に座るガッシリとした肉付きの男性、助手席に座る髪が長く儚げに笑う女性、後部座席に座る顔の見えない少年。


(あれは……ボクだ。運転しているのが父さんで、助手席で笑っているのは母さん。)


 車内は和気藹々と家族水入らずのとても楽しげな雰囲気を映し出し、記憶の中の色褪せない思い出が車内の窓に映っては流れて消えていく。

 

(やめろ……。もういいだろ……。)


 窓に映し出される車内の光景は移り変わる。

 男性の驚愕の声と女性の悲鳴が響き渡り、強烈な衝撃が車内を襲う。後部座席でシートベルトをし忘れていた少年はフロントガラスを突き破って車外へ放り出される。

 映し出される映像は少年視点になったのか、空と地面、周りの景色が猛烈な勢いで回転し、唐突に現れた水面から水中へと景色が移り行く。

 

(そう、信号を無視した無免許の未成年の男による危険運転が原因で、ボクらが乗っていた車と衝突してボクは車外へ放り出され、近くの公園の池へと落水したんだ……。)


 公園を散歩していた男性により池より救い出されたボクは奇跡的に軽傷で済んだものの、衝突した車同士は大破していた。


(何度……何度見せれば気が済むんだ。いつまでこの夢と向き合わなければならないんだ。)


 ふらつく足取りでグチャグチャになった車へと向かい両親の姿を探す……。


(やめろ……。)


 フロントガラスには自身が飛び出した時にできた穴が拡がり、細かな罅が全面にいきわたっていて中は見えない。


(やめろ……!)


 見せられているボクの想いを他所に少年は更に車へと近づく。その鬼気迫る表情を見たのか、周囲にいつの間にかできていた野次馬や救助活動をしようと四苦八苦している人達の動きが止まる。


(もういいだろ……!もうッ!!!)


 恐る恐る、一歩ずつ、その重い足を引き摺る様にして前へと進み、助手席側の窓から中を覗き込む――


『あああ"ぁ"あァァ"ァアア"ア"ああぁ"ぁ"ぁあ"あぁ"ぁッッッ!!!!』

(あああ"ぁ"あァァ"ァアア"ア"ああぁ"ぁ"ぁあ"あぁ"ぁッッッ!!!!)




 自身が発した悲鳴とも絶叫とも判断できぬ声にガバッと上体を起こして覚醒したセラは、あたりを見回すとまだ昼を少し過ぎたあたりである事を陽の照り具合から察した。

 部屋の中は自分一人だけでクロさんの姿はない。


「体は楽になってるけど気分は最低だよ……。」


 顔に手を当てて項垂れながら吐き捨てるように呟くと、ガチャという音の後部屋の鍵が解除され、続いてギィイという音を立てて部屋のドアが開けられた。


「あら、お目覚めになられてましたか。」

「ごめんクロさん、寝てしまったみたい。」

「構いませんよ。それよりもお体の具合は如何ですか?」

「薬湯が効いたのか大分楽になったみたい。」


 扉を開けて部屋に入ってきたのは姿の見えなかったクロさんだった。


「そう言えばクロさんはどこへ行ってたの?」

「お昼を取りに下に行ってたんです。お腹空いていませんか?」

「ん、結構減ってるかも。」

「起き上がれますか?」

「うん、大丈夫だよ。」


 考えれば朝にあんな事があったお陰で、朝食も取らずにベッドに横になってたんだった。

 体調はマシにはなったけどそれでも鈍い痛みは下腹部を持続的に襲ってきており、そこまでお腹に食べ物が入る気はしない。

 のっそりと起き上がりベッドサイドに腰かけると、サイドテーブルを近くに引き寄せたクロさんがその上に樹皮で編まれたバスケットを置いて隣へ腰かけた。

 中身はボクがモーリィに差し入れしたサンドイッチだ。これなら軽めに食べれるし、この気遣いは嬉しい。


 軽い昼食をとりながらクロさんと少しずつ言葉を交わす。その殆どはラインアーク時代の話題だ。それ以外の共通の話題が無いのでそうならざるを得ないのだから許してほしい。

 隣に腰かけているクロさんは心なしか表情が嬉しそうなので、話題がどうというよりかは単純にこの状況が気に入ってるのだろう。――ボクは少し息苦しいけど。


「ところでクロさん、この後なんだけど冒険者ギルドへ行ってみない?」

「動いても大丈夫なんですか?」

「大分楽になったし、ギルドもすぐそこだからそれくらいなら平気だよ。流石に戦闘は避けたいけどね。」


 食事を取りながら考えていた事、それはカサネさんに協力を仰ぎ、この世界について書かれてある文献がないか聞く事。もしあればそれを読ませてもらう事が目的だ。

 今のボク達はこの世界においては田舎出身の常識知らずみたいなものだ。これから生活していく上で、この世界の一般常識や作法、国による文化の違いなど知っておいたほうが良い知識は無数にある。

 幸い今は休息日みたいな感じになっているし、こうした機会をそう言った知識を得る為に使う事はきっと役に立つと思う。


「そうですか……では私もお付き合いさせて頂きますね。」

「付いて来るなって言うつもりもないけどいいの?多分クロさんには暇な時間になってしまうかもだけど。」

「何かお考えあっての行動でしょう?それにマシになったとはいえ今の状態のセラさんを一人にさせるわけにはいかないです。」

「そっか、じゃあ行こう。」


 薬湯のおかげでからの具合は随分と良くはなっているが、それで戦える状態かと聞かれれば非常に難しいと答えるしかない。何しろ生活魔法ですら制御が乱れるのだ。

 そんな状態なので武器を持てたとしても十二分に扱うのは難しく、解除不能の弱体魔法(デバフ)が掛かっている感じだ。



 少し気怠い身体に気合いを入れてベッドサイドから立ち上がり、クロさんと二人ギルドへ行く用意をする。

 戦闘をする状況があるならば、いつも通り白黒の聖乙女(モノクロームジャンヌダルク)を着用するのだけれど、今日は冒険者ギルドに行ってそこで用を済ませるだけなので、愛用の森羅晩鐘も懸架せずにインベントリへ収納したままである。

 とは言え流石に寝間着のままでいくわけにもいかないので、普段来ているウェアには着替え、その上から素朴な作りのケープを羽織った。

 クロさんはいつも通りのローブを纏い、練技士(エンハンサー)向けの片手で扱えるワンドを腰に差していつもの装備に着替え終えていた。



 宿の主人とベスちゃんに冒険者ギルドへ行く旨を伝えて宿を出て斜向かいにある冒険者ギルドへと向かうと、そこには見たくもない面構えの男が立っていた。




今回は短めです。

このまま続けようとしたらまた長くなりすぎてしまう事態になったんです…。

バランス難しいですねぇ……。

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