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【 Ep.1-003 ゼノフロンティア 】

 間接照明で柔らかな明るさに包まれたやや薄暗い部屋の中――時刻は18時頃。

全国規模の超巨大台風が列島を覆う中、早めに仕事を終らせて余裕の帰宅を果たした俺は、

いよいよ始まるゼノフロンティアのオープンベータへの参加準備を行っていた。

オープンベータテストのテスター権を「ファストパス対象者」として得る事が出来たのは僥倖だろう。


「さてっと…ゼノフロする環境はとりあえずはこれで整ったはず。まさか学生時代にラノベやアニメで読んだり見ていた神経接続式感覚同調型VRゲームが出来るようになるなんてな……」


少しばかり散らかった自室の定位置の上で、VR同調用ヘッドギア「オラクル」に視線を向け俺はひとりごちた。


 俺の過ごしてきた青春時代はそこまで明るくはない、決して暗くもないが。

友人と呼べるものはいるにはいたが、現実での友人よりネットでの友人の方が多かった。

そんな調子であったので趣味と呼べるものはネトゲと言ってしまえるくらいには電子の海にどっぷりと漬かっていた青少年期。

―誰が陰キャだ、今言ったやつ前に出ろ。


 確かにインドア派ではあったが、オフ会にも顔を出すなどその辺りは割とアクティブなのだ。

そうした中で少ないながらも太い繋がりの友人もでき、同じゲームで遊んだり、時にはそれぞれ別のゲームで活動したりとゆるい関係が続いている。

 ネトゲの友人との付き合い方は適度な距離感ってのが大事だと俺は思っている。

オフ会等で顔を合わせたりはしているが、リアルに踏み込み過ぎないとかそういうのね。

やはり互いのプライベートな部分というものは大事だ。


 ゼノフロンティアの存在は各種ゲームサイトやSNSで話題に上がり認識はしていた。

世界観やシステム、キャラクター周りを見て一目惚れはしていたが、

移住を決定づける最後の一押しとなったのはそういった友人達からの誘いであった。

持つべきものはやはり友だと思う。




ピロロロン♪


 耳触りの良い音が鳴り、俺のタブレット端末に最も長い付き合いの友人からメッセージが届く。


「ん…ケントからか。えーっと…」

『こっちはやっとキャラクリ終了!そっちはどうせロリキャラなんだろ?

 リツの準備もそろそろ終わるらしいし先にインして顔合わせしようぜ!』


 メッセージの送信元の名はケントこと、我妻がさい 健斗けんと。26歳の男性でAB型。

都内有数の我妻総合病院の三男坊で、裕福な家庭事情と末っ子に甘い親によりニートである。

俺とは中学3年からの付き合いであり、親友というよりもはや兄弟のような間柄に近い。

性格は大雑把であるが明るく楽天家。家の事情もあり色眼鏡で見られる事が多いらしく、

優秀な兄二人と比較される事が嫌で仕方ないと事ある毎に愚痴る。

 そんな中某ネトゲで出会った俺とは、性格が反対ながらも不思議と馬が合い、

気兼ねなくバカをやれる関係となり、俺の一番の親友かつ理解者になった。

俺との関係は奴に言わせれば「腐れ縁」

使用キャラクターは平均的な人間の男性タイプが多く、何事もそつなくこなす才能がある。


「あんのやろぉ…リアルと違うんだから男キャラ使って何が楽しいんだよ…。それにちっこいキャラで不釣り合いのでかい武器ぶん回すのがギャップ合っていいんじゃないか。

 大体だ、ファンタジーなのにやれコイツがこの武器を持つには筋肉が足りてないとかどこのアメリカだよ?!そんな奴は黙ってムキムキマッスルのオークでも使ってりゃいいんだよ。」


 悪態をつきながらもケントにキャラネームが「セラ」だと返信する。

誰がどう言おうと俺はかわいいものが何よりも好きなため、プレイするキャラクターは基本的にかわいさに重点を置いている。

ゼノフロンティアで自身の依代(アバター)となるキャラクターも当然かわいさに全身全霊をかけた力作である。


 今回俺がクリエイトしたキャラクターはアニールという獣人系種族の女の子キャラクターである。

ベースとなっているモチーフはキツネ。狐獣人フォクシスとかいうらしい。

ピンと立った長細いケモ耳にふさふさの尻尾。髪の色はおとなしめのライトグレー寄りの銀髪。

肩辺りから緩くウェーブしつつ腰のあたりまで伸びている。

もちろん尻尾も同じ色であるが、此方は尻尾の先に向かって白くグラデーションさせた。

ジト目気味の目の中央には、ブルー寄りの紫色の瞳。身長は低く見た目は少女そのもので、華奢なほっそりとした四肢。

そして、やや不釣り合いな巨乳とまではいかないまでも、大きさをしっかりと主張している胸。

俺はちっぱい主義者ではない。

胸の好き好きは置いておくとして、このキャラクターはよくある路線を押さえつつ、

俺の拘り部分をしっかりと出されており、非常に愛らしく思われる容姿をしている。

事前キャラクタークリエイト期間にたっぷりと時間をかけて作成したかいがあるってものだ。


 その姿をヘッドマウント型の「オラクル」の中のモデレートモードで確認した後、

ベッドに横たわってから、音声認識される声量でコマンドワードを発した。


「リンク ゼノフロンティア エンゲージ!」


 目の前が文字通り真っ暗に暗転する。

と同時に体から力が抜け、睡眠におちていくような感覚が襲い、浮遊感を感じる。


 中空に浮遊している様な感覚の中、目の前にアククス社のロゴが浮かび上がった後、どことなく無機質な女性の音声が流れる。


『神経同調システム…グリーン

 視神経リンク  … 確立

 運動神経リンク … 確立

 聴覚リンク   … 確立

 嗅覚リンク   … 確立

 触覚リンク   … 確立

 エチケットリンク… ON

 

 システム オールグリーン

 

 ―ようこそ、ゼノフロンティアへ』


 瞬間──強い風が頬を撫でつけながら後ろへと流れていき、眼前には壮大で幻想的な光景が広がっていた。

耳にはノスタルジックでそれでいて今から冒険が始まるぞっていう気分にさせるBGMが流れている。


 眼下には白亜の城とその周りを取り囲むように広がっている城下町。

都市部から視線を上へあげていくと街全体を取り囲むかの様に広がる湖。

更にその奥に左手には様々な樹木が不思議な生え方をしている森。

右手には広大な草原が広がり、その先には一体どれ程の高さがあるか見当もつかない山々。

そしてその山々を橙に染め始めようとする鮮やかな夕焼けに染まりつつある空。

その空の中にはそこが異世界だとハッキリと認識させるかの如く、空に浮かぶ大地と2つの月がその姿を主張している。


 思わず見惚れしまったが、これが所謂ログイン画面だ。

思考を切り替えて頭の中で自身のIDとパスワードを思い浮かべる。


 入力は上手く行ったのか視界は再び暗転し、その中央から淡い優しげな光が浮かび上がる。

その光の中からうっすらとこれから自分自身となるキャラクターが輪郭を現す。

事前作成可能なキャラクターは1キャラのみであった為、他にキャラクターはいない。

最も当面の間はサブキャラクターを作る事などもないだろうが。


 こうして見つめてるだけでも幸せな気分になれるが、ケントとの待ち合わせの事もある。

今から自分の依代(アバター)となるマイキャラクター「セラ」に意識を向ける。


 ふと視線が合ったような気がする。そう思った瞬間、意識はその瞳の中へと吸い込まれていった。




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