【 Ep.2-005 セラの決意とそれぞれの想い 】
「あぁそうや忘れてた。宿の主人が飯食うんやったら下に降りてくるか、部屋で食うんやったらカウンターまで取りに来い言うてたわ」
「そういやなんか腹減ったな」
込み上げた感情をリツの胸の中で静かに吐き出したシオンがようやく落ち着いた頃、マリーが食事の事を口にした。
再ログインする前に夕食を現実で食べたのでお腹は空いていないと思っていたのだが、マリーの一言で急にお腹が空いてきた。
「……皆無事に戻って何よりだ。安心してるところ悪いんだが冒険者ギルドから言伝を預かってる。伝えてもいいか?」
「カサネさんからかな?頼む」
今まで只管目を瞑って黙していたモーリィが皆の無事を確認してようやく口を開いた。冒険者ギルドからという事は、先のやり取りの事もある以上ギルド長のカサネからで間違いはないだろう。
「あぁ、あの空間震動以降冒険者ギルドに様々な情報がもたらされたらしくてな?事態の把握と対応でてんやわんやしてるらしくて人手が欲しいんだと。できれば直ぐにでも顔を出してほしいらしい。とは言え言伝頼まれた時点で皆の無事が分からなくてな。ゲーム内時間で明日の朝には顔を出してほしいって感じで頼まれたんだわ」
モーリィの話を詳しく聞くと、ボク達三パーティがそれぞれ村を出ていた時、モーリィは冒険者ギルドの近くにあるファミーリア専用の製造用施設で、ボクから渡された素材を使って雑貨や初級装備を製作していた時に空間震動に襲われたらしい。そこから外が俄かに騒がしくなり怪我を負って戻ってくるプレイヤーが増え、ログアウトメニューが消えている事や一部機能が動作しないという情報が広まってプレイヤー間で騒ぎに発展。
ギルド長のカサネが自らプレイイングGMである事を明かして事態の収拾に努めて一旦混乱は収束。ところがそこに身なりがボロボロになったとあるパーティがもたらした"パーティメンバーの死亡"という衝撃的な出来事に再びプレイヤー達はパニックへと陥り、今度は村の守備兵を動員して事態の鎮静化を図る局面となった。
施設の窓越しに一部始終を見ていたモーリィの下へギルド職員が来たのはそれからすぐだったそうだ。ファミーリア向けの専用施設の利用には利用登録が必要な為、そこから冒険者ギルドへ所在が知られたのだろう。職員から先程の言伝を頼まれたモーリィは、それまでに作ったアイテム類を販売分と所有分に分けてから宿に戻り皆の帰りを待っていたそうだ。
「状況は分かった。冒険者ギルドへは朝顔出すとして、それぞれの報告や情報共有と今後の対応とか話し合いたい事が結構あるね。とりあえず今は一度食事をとって落ち付いてからにしよっか。」
「んでどうするんや?下いく?それとも部屋?」
「折角だから下のフロアって言いたいところなんだけど、この状況だし他のプレイヤーとの接触は最小限にしておきたいから部屋でみんなで食べよう」
「おっけー。んじゃ俺おっさんにそう言ってくるわ。料理運ぶ必要あると思うから何人か付いて来てくれ」
モーリィの話のおかげで村の中の状況はある程度把握できた。細かな情報は明日の朝に冒険者ギルドへ顔を出してカサネさんから仕入れれば大丈夫そうだ。
ひとまず空腹を満たしながらでも話を進めておきたい。お腹が膨れれば疲労も幾分か回復するだろうけど、ここがもし"現実"であるならば満腹感と同時に疲労から眠気がきっと来るはずだ。だから食事をしながら話を進める方が良いだろう、それもボクたち以外に聞かれない状況で。
ケントの呼び掛けにベネデクトとモーリィ、チグサとセトの五人が部屋を出ていった。残った六人で男部屋で食事が取れる様に部屋の中の配置を動かす。足りない椅子などは隣の女部屋から持ってきてちょっとしたパーティ会場みたいになった。6人部屋というこの宿の中では大部屋に当たる為、間取り的に余裕があったのが幸いした。
隣の部屋から持ってきて連結した机の上に階下から食事を持ってきた五人がそれぞれの料理を置いていく。大きなボウルに山のように盛られたサラダに、大皿の上に乗った鶏を丸々揚げた物、別の大皿にはパエリアに似た料理が乗っており、もう一つの大皿にはパスタが盛られている。少し控えめな皿にはソーセージが盛られていて、鍋にはいい香りのするスープが入っており、椀におたまでよそってそれぞれへ配膳する。やや大きめの樽の中にはエールが入っているらしく、ジョッキにそれぞれ注いでいき皆の前に取り皿を置いて食事の準備が整った。
「今日はお疲れ様。皆の無事に感謝し、いただきます」
『いただきます』
流石に状況が状況だけに乾杯と言うわけにはいかず、労いの句を入れて食事を始める。それぞれ思い思いに料理を取り分けて口に運んでいる。
「食べながらでいいから聞いて欲しい。今後の方針を決める為に何よりも各自の情報共有が大事だ。まずはそれぞれここに戻ってくるまでに目にしてきたものを各パーティリーダーは報告してほしい。勿論食事中だからアレな部分はぼかしてね」
ソーセージにフォークを刺し、口に運んでいるセラの言葉を受け、チグサから報告を上げていき、続いてマリー、セラの順に続いた。そうして天兎メンバー全員が同じ情報を共有し、このゼノフロンティアの世界で起きたそれぞれのパーティの異常事態について共有して把握する事となった。
"パンドラ"、"魔晶核の謎"、"ログアウトメニューの喪失を筆頭に幾つかのゲーム機能の喪失"、"知らないはずなのに知っている知識"、"プレイヤーの死"。
食事を進めつつ、様々な状況を加味して幾つかの仮説を組み立てていく。そもそもこの食事を取るという行為自体、VR世界では本来不必要な行為である。加えて自分自身が体感したトラウマを植え付けられた尿意といい、考えれば考えるほど今のこの現状がゲームをプレイしているという状況から大きく逸脱している。今口にしているこの揚げ物ですら、現実の鶏の唐揚げに似ているが微妙に違う味で、食感も鶏肉のそれとは異なってむしろ牛肉に近い。神経接続式感覚同調型デバイスであるオラクルを通せば、味覚や匂いの再現だけでなく、触覚や痛覚もコントロールできるらしいが、それにしては味や食感など態々ベースと思われる料理から外すだろうか?
疑問は尽きずキリはないが、自身の思考能力をこれでもかと働かせて考えをまとめていく。
―大凡30分程度で会話をしながら食事を済ませて片付けをし、部屋の中心に向かって円座になる様に各自が座り、自身が導き出した幾つかの推論をみんなへ披露する。
「じゃあ、今から皆が話してくれた内容や現時点で確認されている事象から、ボク達に何が起きているのか推察した内容を言っていくよ?」
メンバーはみなこちらに顔を向け耳を傾けているのがわかる。今から自分が口に出す言葉は、本来なら鼻で笑われてもおかしくない代物だ。だけど、食事中ずっと考えてみたけど現時点で推察して出した結論がそうとしか考えられない物なのだ。
「今何が起きているか、これについては次の三つの可能性が考えられる。1つ目は単純に運営の不具合による接続関係の不備によるログアウト不可状態。ただこれは、運営からのゲーム内アナウンスによるメンテナンス告知や、プレイイングGMのカサネさんも状況の掌握が出来ていない所を見ると可能性は低い。2つ目は運営側による意図的なプレイヤーの拘束。この場合プレイイングGMはグルの可能性もあるけど、知らされずに巻き込まれている可能性もある。正直この説であれば、現実世界で警察組織が動いてボク達もそのうち解放されてログアウトできるという道筋も見えるけど、あれだけ大々的に宣伝していたタイトルでそんな目立つ事をするかという疑問や利点が思いつかない。3つ目は……正直ばかばかしいと思うんだけど、GMも含めたプレイヤー全てがこの世界に"転移"した可能性」
「転移っていうと、ラノベとかで良くある異世界転生とか異世界転移ってやつ?俺達纏めてトラックにでも轢かれてたのか?!」
ボクが転移についての可能性を口にすると、我慢できなくなったのか思わずケントが横槍を入れてきた。正直他人が同じ事を口にしたら自分でもそうしちゃうかもしれない。
「ケントが思わずツッコミ入れちゃう気持ちはよくわかるよ。自分でも馬鹿げていると思う。原因がトラックならまだラノベは本当だったとかふざけられたかも知れないんだけど、恐らくこの現象を引き起こした原因は超巨大台風の影響じゃないかと思うんだ。みんなTVなりSNSなりどこかしこで話題に上がってたからその事については知っているでしょ?どういった原理でそうなったかなんて想像もつかないけどさ、一部のプレイヤーだけでなくログイン状態にあるプレイヤーがみんな同じ状況になったって事は、個人の環境の差どうこうじゃなくて運営側で問題が起きたと考えるのが自然だと思う」
「確かに……クライアント側の問題であれば個人単位での不具合として処理されるでしょうが、現状は皆一様に同じ様な現象に遭っているところから運営側で問題が発生したと考えるのは自然ですね」
静かに聞いていたチグサも顎に手を当てこれまでの事を思い出しながら同意する。
「うん。で、ボクが転移したって考えたのはあの空間震動の直後からの数々の異常事態から。ハラスメントコードは今は一切機能していないから服も脱ごうと思えば全部脱げちゃうし、他人の胸に触ろうとしてもアラートも出ない。さっき数人トイレ行ってたけど、それって本来VR世界のここでは必要のない行動だよね?第一に催してきたらそれもアラートメッセージが表示されるはずでしょ?さっきトイレ行った奴は行く前にアラートメッセージ出たりした?」
「いや、出てないっすね……」
「そもそもうちらが最初にここきた時、階段脇にトイレなんてなかったと思うんやけど」
「そう、確かに最初にこの部屋までとされた時、階段の脇にトイレなんて言うスペースはなかった。パッチが当てられて追加されたとしても、それ以前にラグやノイズが視界を襲っていた不具合を後回しにしてそんな事すると思う?」
「……合理性が無いっすね」
「VR世界のままであるならそんなもの後回しにするか、そもそも実装する必要性なんて一切ないんだ。それにね、さっきみんなで食事とったけど、それもVR世界で考えれば単なる嗜好品みたいなものだよね。オラクルの性能を踏まえれば、食事を取ると満腹になったと認識させたりとかは可能かもしれない。でもさ、味覚まで再現するにしてはさっきの料理どこか変じゃなかった?」
「そういやさっきの唐揚げみたいなの、鶏肉かと思ったら牛っぽい味と食感だったな」
「そうですね……。他の料理もどこかしら現実の料理とはズレた感じのものが多かったように思います」
転移したと推察するに至る数々の点をあげていくと、シキは納得した様子で同意しマリーは思い当たる点を上げてくる。料理の事で不審に思った点を挙げると即座にケントが反応し、クロさんも違和感を感じていたのか引っかかった点を上げてきた。
「料理ごとの味の再現ができるなら、鳥の唐揚げなのに牛肉の食感にするとか態々そんなことをする必要性ってある?ベースとなる料理の見た目と匂い、味をそのままストレートに実装する方が自然だと思うんだよね。何よりもボクが転移だと確信に至ったのはプレイヤーの死という事実だよ」
アルバの森で見た時の死亡エフェクトと、チグサ達が報告を上げた死亡の様子は話に聞くだけでも明確に違う。ダメージを受けた時に血などは出なかったし、部位欠損や必要以上の痛覚適応など本来のゼノフロンティアでは実装されていなかったはずだ。仮にそういうパッチを適応したとしても、アナウンスもなく適応するだろうか。ただでさえ序盤の操作難易度は少し高めに設定されているのに、そこに必要以上の痛覚や部位欠損等のCEROレーティングに引っ掛かるような事を態々する意味が分からない。もしかすると運営側の計画にそう言った予定が組まれていたのかもしれないが、そこはカサネさんに確認するしかないだろうし、その信憑性も正直な所当てにはならないだろう。
死という言葉で凍り付いた部屋の空気を感じながらボクは続ける。
「ボクとしては3つ目の可能性が一番高いと感じているんだ。そうじゃなきゃ説明がつかないような事柄も多いし、そう考えるのが最も腑に落ちるんだよ。自分で言ってても大分馬鹿げた事を言ってるって思うけどさ」
「正直な所信じたくないって気持ちが多いんだけど、私もセラと同じ様な事考えてた」
「あ、あたしも信じられないけど、今のこの状況ってそうとしか考えられないよね」
「他のみんなはどう思う?」
やや自嘲気味に語ったボクに、リツとシオンは肯定の意を示す。他のメンバーにもどう思ってるか水を向けると皆首を縦に振っている。それぞれ思うところはあったのだろうが、一つ一つ論拠を並べていけば行き着く場所は大体同じという事なのだろうか。
「とりあえずは転移したものと仮定して話を進めるよ?」
「うん、続けて」
「この転移したという前提で話を進めるとして、3つの可能性とそれによる不安材料があるんだ」
「と言いますと?」
シオンがせかす様に続きを催促し、チグサも普段の落ち着きぶりからは似つかわしくない感じで話の続きを促してくる。
「まず一つ目。転移したのが精神や魂といった物だけである場合。この場合現実世界の肉体の処置が一番問題になる。警察や医療機関による保護がされなかった場合、例えこっちで生きている状態だとしても現実世界の肉体が死ねば、それに伴ってこっちのボク達が死ぬという可能性がある。ケント、人間が飲み食いせずに生きていられる期間は分かる?」
「えーっと……確か水さえ飲んでいれば2,3週間、長くても4週間は生きられる可能性はあるけど、水も飲まないとなると3,4日が限度だな」
流石に医者の息子であるケントはその辺りの知識は持っているようだ。彼はニートではあるが、別に勉強のできない馬鹿などではない。単純に上の兄弟二人があまりにも優秀過ぎた為、家族以外から事ある度に比較される事に辟易して今の遊び人の様なライフスタイルになったのだ。元の地頭はそこらに居る現役の大学生よりも出来は良い。
「確かゼノフロンティアのゲーム内時間は現実世界の時間の2倍に設定されているはず。それをオラクルで時間認識を調整する事によってゲーム内の1日を1日として捉える事ができるんだったっけ?」
「はい、現実世界での12時間がゼノフロンティアの世界では24時間になりますね」
「つまり、ここでの暮らしを凡そ一週間したところでボク達が死ぬという可能性がある。勿論個人差はあるだろうからみんな一緒にって事にはならないだろうけど……。一週間経ってもボク達含めてプレイヤーが戦闘行為等を除いて死ななければ、現実世界での肉体は保護されたという考え方ができる。ただ、それでもこの転移の原因になった超巨大台風による被害を想定したら、みんながみんな保護されるとは考えられないんだけどね……」
「確かにそうですね……。前代未聞の規模と称された超巨大台風ですから、それが引き起こす災害の規模は想像以上に大きなものになりそうですね」
「少しでも被害が小さい事を祈るばかりだけど、それよりもこの仮定におけるゼノフロンティアでの死がどう現実世界の肉体に影響するかは正直分からない。精神体としての此方の肉体が死ぬって事は多分現実世界では脳死とかそういう状態になるんじゃないかってボクは考えてる」
「一理ありますね……」
ボクの問い合わせにチグサが答える。そしてその回答により仮定ではあるがボク達の死へのカウントダウンが設定された。勿論現実世界でプレイヤー達の肉体が保護されれば当面の生命は保障される事となる。だが現実世界の肉体が生きてるからと言って、此方の世界で死んで強制的にゲームからログアウトを試みても恐らくいい結果にはならないという事も忘れず付け加えた。
「次に二つ目。転移がボク達の存在丸ごとだった場合。つまりは肉体や魂、精神体とかその辺丸々ひっくるめて転移したらって仮定した場合ね。この場合は現実世界の肉体は残っていないと想定するから、現実世界での飢えによる死亡って状況は起こり得ない。ただこっちはこっちで現実でのボク達がどういう扱いで処理されるのかわかんないんだよね。向こうの人達の記憶に残ったままなのか、はたまたボク達が居たという記憶も含めて転移しているのか……。ま、どっちにしても今は気にしても仕方がない事だけどね」
「俺はこっちの可能性が高いと思うんだよなぁ。飯中に話したと思うけど、空間震動後からアバターとの違和感がスッキリ消えちゃってるし。……んでもう一つは?」
一つ目の可能性が精神や魂だけの転移。二つ目が存在そのものひっくるめての転移。ケントは自身の感覚から二つ目なんじゃないかと訴えた。正直自分自身もそう感じているが、直感だけで物事を判断するのはこの場合危険じゃないかと思う。
「三つ目は単純に夢オチ。そうであればいいんだけど、こんなに大勢が同じ夢を見るなんて事はちょっと想定し辛いし、ここまで感覚がハッキリしている悪夢なんて今まで経験した事もないし、ぶっちゃけこれは単なる願望だね……。おまけで言っておくと転生じゃなく転移と限定した理由は転生ってつまりは生まれ変わりって事でしょ?仮に超大型台風の被害でゲームプレイ中に死んでいたとしても、やっぱりここまでの人数が一斉に死ぬなんて事態は考え辛いんだよね。だから転生じゃなくて転移したんじゃないかなって」
「夢なら早く醒めてほしいところなんだがなァ……」
モーリィの言うようにこれが夢ならば本当に早いところ目が覚めてほしい。だけど体が、脳が、五感全てがこれは断じて夢ではないという奇妙な現実感を訴えてくる。ここで現実逃避するのは簡単だけど、みんなを纏める立場としてしっかり気を持たなくちゃいけない。
「いずれにしても、現時点でボク達は戻る方法を知らない。食事中話したパンドラが何かしらの情報を持っている可能性はあるけど、それだって微かな望みでしかないし解決に繋がる保障すらない。とりあえずは少なくともこっちの世界で一週間過ごす事で一先ずの生命の安全を確認できるって感じだね。一週間過ぎても生きてたら、現実世界の肉体が保護されたかどうかがわかるわけだし。ただ、それはそうとしてその場合一つ目と二つ目をどう判断するかってのは今の段階ではボク達だけじゃ判断できない。運営側が問題発生時点でのログイン人数の記録を持っていて、今後一週間の間プレイヤーの情報管理の徹底が出来れば、死亡理由と照らし合わせて比較する事で前者か後者かの判断は付ける事は可能だと思う。個人的にはボクもケントと同じで二つ目な気がしている。明日カサネさんと会った時に何かしら新しい情報が出たりすれば、判断する材料の一つになるかもしれないけどね」
「確かに今取れる方針としては、一週間の様子見というところが無難でしょうか」
「うん。まぁこれまでのがボクが考察した推論なんだけどさ、そこを踏まえた上でみんなに確認しておきたい事があるんだ」
そういってセラは徐に立ち上がり皆の顔を見回した後口を開いた。
「ボク達が現実世界に戻れるのがいつになるのかその目処はたっていない。もしかしたらもう二度と戻る事は出来ないかもしれないんだ。だから、今この場でみんなに言っておきたいんだ」
どこか決意めいた表情で語るセラに天兎メンバー全員の視線が集まる。
「この世界はもうVRゲームの域を超えた現実と何ら変わらない世界になっている。元はゲームだけどこの世界で死ぬという事は現実での死と何ら変わらない状況になるっていうのは情報の共有した時点でみんな認識したと思う。ボクはそんな世界になってもこの世界を見て回りたい、冒険したい。でもこれはボクの我儘だしみんなを危険な目に巻き込みたくはない。だから―」
「俺は付いて行くぞ、セラ」
「え?」
「お前どうせ、"だからこの先覚悟が無い奴はここでお別れしよう"とかそんな感じの事言うつもりだったんだろ?」
「あ……うん」
「ばっかだなぁ……何年お前とつるんでると思ってんだよ?今更そんな事言うよりかはお前らしく付いて来いって言えばいいんだよ」
セラの肩をバシッと叩いてケントは言う。
「いや、でもさ……。遊びじゃないんだよ?ラインアークならココだ!と思ったところで死んで来いとか言えたけど、もうそんなの通じないんだよ?!ボクの我儘に流れで付き合って、もし死んだりしたらそれこそ洒落にならないんだよ?!」
「なぁ……俺だけじゃなくてここにいる奴らはさ、お前と出会ってから迷惑を掛けられた事もあるし、迷惑を掛けた事もあったし、持ちつ持たれつ長く続いてきた連中だろうがよ。頼りにもしてるし頼ってももらいたいんだよ。お前達の力が必要だってな」
「そうっすよセラさん。俺、ラインアークでセラさんに声掛けてもらってすごく嬉しかったんっすよ?あれが無かったら、俺腐ったままゲーム辞めてたと思うんです。あの時なんて声掛けてくれたか覚えてますか?"今までは誰にも理解されない苦しみだったけど、この手さえ掴めば俺という理解者が出来る。シキ、お前が必要だ。お前に理解者が必要な様に、俺にも理解者が必要なんだ。俺達と一緒に笑ったり、怒ったり、泣いたり、楽しくプレイしないか?"って言ってくれたじゃないっすか!!あの言葉嘘だったんっすか?!俺達……仲間でしょ!」
ケントの言葉を引き継ぐかのように、顔を紅潮させたシキがまくし立てるかのように言葉を吐き出す。当時シキを引き抜く時に言った台詞、こいつずっと覚えていたんだな……。
「せやせや!シキの言う通りやで。うちらのやらかした事のケツまで拭いて回ってたアンタが何今更尻込みしとんねん。悪魔の帝王の名が泣いてるっちゅーの。加入する時にも言うたけどな、うちとベネはアンタのやる事成す事が楽しみで天兎に入ったんやで?一緒に怒ったり、泣いたり、笑ったり、敵をボッコボコにしたり、みんなして反撃におうて全滅したり……。その楽しみを奪うっちゅーんか?夢見させるんやったら最後まで夢見させぇや!」
「ちょ、ちょっとマリー、言い過ぎだ。……なぁセラ、マリーが言った様に俺達二人はお前と一緒なら、どんな辛い事でもこれまでと同じ様に一緒に笑い合ってやっていけると思ってここに来たんだ。お前が俺達の事を想ってくれてるのは分かる。分かるけどな、お前が俺達を想ってる様に俺達もお前の事を想ってんだ。そこは理解してくれ」
シキに続いてマリーとベネが言葉を紡ぐ。なんだろう……マリーの関西弁で捲し立てられてるんだけど妙に心が落ち着く。天兎の中での姐御ポジは今もこうして健在なんだなと実感する。ボクには兄弟は居ないけど、もし姉がいたならこんな感じの姉がいいなと思ってしまう。ちょっと不器用な物言いのマリーをフォローするようにベネデクトも言葉を繋げ、互いにそれぞれの身を案じている事を落ち着いた声で伝えてくれる。
「ねぇセラ。あたしもマリ姐と似た様な理由で天兎に入ったんだけどさ……他のギルドとか入った事が無いからよくわかんないけど、見たり聞いたりする他のギルドのマスターに比べたらセラはよくやってると思うよ。言葉は確かに荒かったりするし、行動も時たまぶっ飛んでて引く時もあるけど、セラがぶちぎれる時って家族の悪口やメンバーへの根拠のない誹謗中傷をされた時だってのもあたし達はちゃんと知っているんだよ。それが原因でセラ自身が叩かれるのに平然としてるし……。あたし達が強くなろうって思えたのはそんなセラの背中見てきたからだよ?いつまで頼ってばかりじゃなくてさ、偶にはあたしたちを頼ってよ!心は一つに!でしょ?」
少しだけ瞳を潤ませたシオンも感情を吐露するかの如く自分の思っている事をストレートに伝えてくる。なんか、こうハッキリと言われるとこそばゆいし照れくさい。
「お、俺もっ……。セラさんやみんなと離れ離れになるのは嫌です……。俺、ゲームですら人見知りだし、俺には、セラさんを筆頭にみんなが必要なんです……!」
「―私も……私も離れるつもりはありません!今までここに参加できなかったメンバーも含めてみんなで歩いてきたではないですか。参加できなかったメンバーの分も私達が支えます。ですから……離れろなんて言わないで下さい……!私の居場所はセラさんの傍なんです。他の誰かだなんて想像できないししたくもないんです」
普段あまり積極的にしゃべる事のないセトやクロさんまで感情を露わにして言葉を紡ぐ。常に穏やかな雰囲気を纏っているクロさんがこんな感情的な面を見せたのは初めてなんじゃないか。
「たっくよぉ、水くせぇったらねえってもんだよ。ケントの言うように大方てめえの力量じゃ俺達を守り切れないとか自分一人で考え込んで背負いこんだんだろ?責任感があるってのは無いよか全然いい事だ。だがなぁ、それも限度を超えりゃ単なる独りよがりでしかねぇ。俺達は集った理由はそれぞれバラバラだがよ、お前の事を痛く気に入って信頼してんだ。気ぃ張ってばっかいねぇでいつもみたいにドーンと構えて物事にあたりゃぁいいんだよ!違うか?」
「フフ、モーリィの言う通りだよセラ。セラが私達の事を慮ってさっきの決意をしたのは理解できるよ。でもね、セラがいつも言ってたじゃん"迷ったら相談しろ"ってさ。まぁその後ろに望んだり期待してる答えが出るかは別だがなってのはアレだけども。セラがみんなの事を想っているように、私達もそれぞれの事を考えているんだからさ、多少回り道になってでもこうしてみんなの意見は聞くべきじゃない?」
鼻を右手の人差し指でこすりながらモーリィが言葉を繋いでいく。オフ会の時に気付いた彼が照れ隠しをしている時の癖だ。そんなモーリィの言葉をリツが更に繋げていく。
"相談しろ"か……。自分が投げかけていた言葉で気付かされるなんてね。確かにボクは独りよがりで勝手に話を進めていた。みんなの意志や想いを確かめる事もなく、唯々勝手に重圧を感じて話を進めようとしていた。だけどそうじゃない。それじゃダメなんだよね。
「どうやら皆さん同じ意見の様ですよセラ。勿論私もあなたと離れるつもりはありませんよ?時折こうして自分勝手に物事決める癖は貴方のイケない所です。貴方が皆をしっかり見て考えているように、皆も又あなたをしっかり見て考えているんですから。"考えて動け"もあなたが常日頃いってた言葉でしょう?みな口ではワーワー言いながらでも、貴方の言葉はしっかり聴いているんですよ」
おいしい所を待っていたかのようにチグサが声を掛けてくる。そうか、みんなには伝わっていたんだ。―思わず目頭が熱くなる。
「な、言ったろ?みんな俺やチグサには及ばねぇけど付き合い長いんだからさ。なんだかんだ言いつつもみんなお前に毒されてんだよ。お前に惹かれて集った奴らをここで切り捨てるのか?それが本当に俺達の為だって思ってんのか?違うだろ。お前が言うべき言葉はもう何か分かるよな?」
そう言ってケントは右手を突き出した。
「ほんと馬鹿だよみんな…。この先の保障なんて何にもないのにさ。――死ぬかもしれない、それでも……いいんだな?」
そう言ってケントの右拳に自身の右拳を突き合わせた。他のメンバーも徐に立ち上がり拳を突き合わせていく。
一度深く深呼吸をして想いを告げる。
「これまでがそうだったように、これからもボクはみんなと一緒に居たい。旅をして、戦って、笑って、泣いて、苦楽を共にしたい。だから……だからみんなボクと一緒に付いて来て欲しい!」
こっぱずかしさに俯いてしまう。きっと顔は真っ赤になっているだろう。僅かな時間無音が部屋を支配する。だがその無音に冷たさは感じられない。どこかあたたさを感じる静寂だった。
俯いてたセラの肩を叩いて最初に静寂を破ったのはケントだった。
「だから俺は最初に言っただろう、お前に付いて行くってさ!」
「俺も地獄の果てまで付いて行くっすよ!」
「勿論うちらも付いてくで~!こんな楽しそうな状況やのに置いてけぼりにしようとかほんまないわー。次はないかんな、セラ!」
「まぁそう言ってやるなよマリー。ま、マリーがこう言っている以上俺もセットだ。これからもよろしくな、セラ」
「あたしもみんなと離れる気はないよ!大体そんな姿になったセラを一人で行かせる方が心配になるし後味悪いよ。こんな世界だからこそみんなにセラが必要なんだからさ」
「お、俺はまだ、一人前とは思われて、ないかもしれません。だ、だけど、少しでもみんなの、役に立ちたい……です!だから、連れて行って下さい!」
「私の居場所はいつでもあなたの傍です。今までも、そしてこれからも」
「俺が付いて行かなきゃお前のブツ含めて誰がこいつらの武器や防具の面倒見るってんだよ?手前の命を預ける大事な得物を見ず知らずの奴に任せて安心して使えんのか?使えねぇだろ。腕利きの職人が付いて行ってやるって言ってんだ、有難がれってんだ。ったく」
「結局みんなセラの事が放っておけないんだよ。居ない奴らの分も含めてこの世界を一緒に旅しよう!」
「私も腐れ縁の一人ですからね。例え死ぬ事になろうとも最後まで付き合いますよ」
天兎メンバー全員が、それぞれの正直な想いを投げつける。各自理由は様々だが、根の部分はセラという強い光を放つ存在に惹かれたと言う点で一致している。
単体では鈍く光る程度の原石だとしても、その光の下に集まり互いに切磋琢磨して磨かれ、光を浴びる事により本来の輝きを放つ。そうして天兎は力を付けてきた集団なのだ。
顔を上げみんなの顔を見回すと、どいつもこいつも思い思いのいい笑顔をして頷いてくる。こんな世界に放り込まれても、ボクは恵まれた仲間に囲まれている。その事実に思わず口元が緩んだ。
「Make our hearts one(心は一つに)」
『Make our hearts one!』
思わず口から出た言葉に皆が続いた。
大幅に投稿が遅れました。今週から来週頭にかけ、健康診断と実家への帰省があるので次回更新予定は来週後半になるかと思います。




