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【 Ep.1-029 ファミーリア設立 】


 ギルド長の部屋から出て一階へと戻ったセラ達三人は、窓口から少し離れた位置にある飲食スペースで既に依頼受注を済ませて寛いでいた残りのメンバーと合流して窓口へ向かった。


「ほんでセラ、結局ファミーリアの名前天兎にするんやろー?」

「うん、そのつもりというかそれ以外の選択肢取れなくなったからね」

「はーん?なんかあったん?」

「それは後で改めて説明するよ。勿論みんなにね。」


 マリーがセラにファミーリアについて話しかけるが、流石にこの場で先程のやり取りを説明する事は出来ない。普通に多数のプレイヤーが行き交うホットスポットである冒険者ギルドで、ギルド長兼プレイングゲームマスターとのやり取りなど漏れようものなら、ギリギリグレーなやりとりが一気に黒く塗り潰されてしまうだろう。その事を危惧したセラは、言葉を濁しながら後で説明するといってその場を収めた。


 十一人という序盤にしては大所帯で受付へと並ぶと流石に目立つのか、周りから好奇の目を向けられているのが嫌でもわかる。これから嫌でも多少目立つことをしないといけなくなるのだ、今更この程度の事に反応していたらこの先やっていけないだろうとセラは背筋を伸ばして前を向いた。

 順が回ってきて受付窓口前へと進むと、此方を確認したそれまでの職員は後ろへと下がり、代わりにギルド長からの指示との事でリントさんが担当してくれた。あのギルド長め、俺達の担当受付嬢まで調査済みとでも言いたいのだろうか……。そんな俺の思考などお構いなしにリントさんは明るく笑顔で聞いてくる。


「セラ様達がファミーリアを設立するとギルド長から伺っております。私、こうして皆様のその手続きをさせて頂けるなんてとても嬉しくて光栄です」


 自身もメンバーの一員になったかのようなテンションで、ファミーリアの設立に関する情報を喜んで説明してくれるリントさん。そのリントさんの説明によるとこの世界におけるギルド的集団組織であるファミーリアは、基本的には大体のネットゲームのギルド等に該当する組織と大体が同じ仕様で、ゼノフロンティアでの特筆すべき仕様は次の様な物らしい。


・2名以上からなる冒険者の集まりであり、最低1名はDランク以上でその者をマスターとする事。

・パーティが登録上限数10人に対し、ファミーリアは事実上無制限。

・実績に応じてファミーリア限定への依頼が割り振られる事がある。

・ファミーリア専用の各種施設の利用が可能となる。

・ファミーリア独自の商会の設立が可能となる。

・パーティの依頼達成による貢献度がファミーリアメンバーにも割り当てられる。

・ファミーリアの紋章を登録できる。ファミーリアメンバーは体の任意の部分へ紋章を刻印可能。


 この他細々した違いはあったが、大まかには基本的にはパーティの上位互換で特典が付いているという認識で間違いない。小規模な集団であればパーティという括りでも問題はなさそうではあるが、将来性を考えるとファミーリアの設立または所属はプラスになるというシステム設計との事。



「――説明は以上となります。何か質問はございますか?なければ手続きに入りたいと思いますが」

「はい、特に質問はないので手続きをお願いします」

「畏まりました。それではファミーリアの登録名と所属員の名前、紋章登録を致しますので図案も併せて此方の用紙へ記入下さい」


 そう言ってリントさんは一枚の用紙をカウンターの上へ置いて此方へと滑らせてきた。手元に寄せて一度確認してみると、上からファミーリアの登録名称を書く欄、ファミーリアの代表者であるマスターの名前を書く欄、紋章の図案を描く欄、所属員の名前を書く欄となっている。

 上から順に「天兎(てんと)」、「セラ」と記入し、紋章は「死神兎(リーパーラビット)」時代から使用している大鎌を背負った横向きの兎の図案を描く。その後それぞれメンバーに記入してもらってリントさんへ提出した。


「ありがとうございます。ファミーリアネームは"天兎(てんと)"、マスターは"セラ"様で申請を承りました。マスターのセラ様及び、メンバーの方々のタグを一度ご提出願えますか?」


 リントさんの案内に従って全員冒険者タグを提出し、それを受け取ったリントさんはカウンター奥へと向かって手続きを進める。それぞれのタグを変わった模様が浮き出ている石板に乗せ何やらよくわからない作業をしているが、あの石板がこの世界におけるパソコンの様な情報端末なのだろう。石板の上へと設置されたタグをそのままにして、先程記入した用紙を持ったリントさんは更に奥のスペースにいる職員へそれを手渡す。渡された職員はリントさんにメモのような小さな紙を渡し奥の部屋へと消えていった。その場でメモを見たリントさんはパァっと明るい表情を浮かべたのち、再びタグの置かれた石板の場所へ戻ってきてタグを回収しカウンターまで戻ってきた。


「お待たせしました皆さん。こちら冒険者タグを返却致しますね」


 戻ってきたリントさんは俺達一人一人に冒険者タグを返却し、タグと一緒に魔法陣の描かれた薄いシールの様な物も合わせて渡してきた。


「なんやこれ?」


 右手の親指と人差し指でシールの様な物を持ってピラピラとさせながらマリーがリントさんに尋ねる。他のメンバーも気になるのかリントさんに顔を向けた。


「そちらは紋章刻印シールです。任意の場所に張り付ける事で、貼った場所へファミーリアの紋章が刻印されます。一度刻印された後は、ファミーリアからの脱退、または追放までは変更ができませんのでご注意下さい」

「へぇ、これがねー」


 死神兎(リーパーラビット)の紋章をどこに刻むかぁ……。各々シールを手に思案する。目立つ場所にするか、普段は見えない場所にするかそれぞれ個性が出そうだ。


「ん~うちはここやな!」


 マリーが真っ先に決めて貼り付けた位置は右胸の上側。中々扇情的な位置に貼り付けたなコイツと思う中、それがきっかけとなったのか皆思い思いの場所へ貼り付けていく。


「んじゃー俺はここだな!」


 張り合うかのようにケントは右腕の二の腕にパチンと貼り付ける。その場所なら防具を着込んでいてもギリギリ見える位置だ。


「んじゃボクはここにしよっと」


 そう言って俺は自分の右肩側面部へ貼り付ける。防具の形状的にハルバードを扱いやすい様に右肩だけ露出しているので一番目立つ場所でもある。

 ベネデクトは額に、シキは左手の掌に、チグサはうなじ、リツは右手の甲、寡黙は左頬に貼り付け、モーリィはベネデクトに手伝ってもらって肩甲骨の間の背中に貼ってもらっている。シオンは右太腿に貼り付けようとしていて、ローブを捲ったせいでいやらしい視線で外野から見られ、そいつらに向けて見るなと喚いている。何やってんだ……。その一方クロさんは臍の下にコッソリ貼っているのがチラッと見えた。


「皆様貼り終えましたか?それではマスターであるセラ様、冒険者ギルド側での承認は済んでおりますので、ファミーリアの設立処理をお願い致します」


 リントさんが喋り終えるや否や、目の前の空間に半透明のウィンドウがポップアップし、ファミーリア設立の確認ウィンドウが開く。

 ファミーリアネーム:天兎(てんと)、マスター「セラ」の文字の下に登録した死神兎(リーパーラビット)のモチーフ紋章が描かれ、最後に"上記内容でファミーリアを設立しますか?"とメッセージが表示され、「はい」「いいえ」のボタンが浮かび上がってくる。一呼吸おいてから「はい」を選択する。


「おめでとうございます!たった今ここに!当冒険者ギルド初のファミーリア"天兎(てんと)"が誕生しました!!」


 大きなよく通る声でリントさんが声を上げ、周囲のプレイヤーやNPC達が声を上げたリントさんの前に集まっている俺達の集団に視線を集中させる。リントさんが声を上げた同じタイミングで其々に貼り付けたシールが光を放ち、それぞれの部位へと紋章を刻印していく。

 全員に黒一色で描かれた死神兎(リーパーラビット)の紋章が刻印された後、頭の中に直接響くような感じでシステムアナウンスが流される。


『<システム:エリア>本サーバーで初となる、ファミーリア"天兎(てんと)"が設立されました。』


 ……ギルド長のカサネが何かやるとは思っていたが、ここまで堂々とシステム権限を使ってアピールされると開いた口が塞がらない。セラとリツは直立不動で固まり、他のメンバーはなんだこれという表情をしていた。


「ぶっははははwwwあの人あんな顔してこんな事するのか、おもしれーw」


 固まっていたセラとリツを横目にケントが笑い出す。こいつのこういうところが偶に羨ましいと思えてくる。他のメンバーはそれぞれの紋章を確認していてそこまで気にした様子はない。まぁさっきのやり取りの場にいなかったし仕方がないだろう。


「すいません、これもギルド長の方針でして……。私は普通にお祝いしたかったのですが……」

「ええ、事情は分かっているので心配しなくても大丈夫です……」


 リントさんは一転申し訳なさそうな顔で頭を下げてくるが、リントさんが悪いわけではない。エリアメッセージだからこの付近のエリアより先に進んでいるプレイヤーには聞こえていないだろうが、ほとんどのプレイヤーにはこの世界に天兎がいるぞという強烈なアピールがされた事だろう。


「ま、これで無事ファミーリアが設立できたし、さっきのでカサネさんの目的もほぼ達成したと思うけどね」

「だといいな……」


 リツも同じ様な事を考えていたらしい。流石に今のアナウンスで態々突っかかってくる奴もいないだろうし、害的な思考をするプレイヤーへは十二分な牽制効果は出たと思いたい。ただ、逆恨みしている連中の中に未だ復讐の念を抱いている者には逆効果になり得るかもしれない。


「それとセラ様、先程売却依頼をされていたアイテムの販売が無事完了致しましたので、指定の分配依頼での手続きによる売却金をお渡し致します。お預かりした"|審判者の薔薇の棘(ローズスパイクメイス"、"ブラックトレントハチェット"、"トレントアイヴィーウィップ"、"ブラックトレントメット"の4点ですが、それぞれ銀貨9枚、銀貨3枚、銀貨4枚、銀貨2枚の合計銀貨18枚となり、各パーティへの等配分という事でしたので銀貨6枚となります。合わせて依頼達成報酬として納品依頼で一人当たり銅貨160枚、討伐依頼の報酬としてパーティ単位で銀貨17枚となっておりますが、今回セラ様達はネームドモンスターを討伐されておられますので、特別報酬として銀貨50枚が追加されます。」

「となると、パーティ単位で銀貨73枚と個人報酬として銅貨160枚か。」

「はい、そうなりますね。此方がパーティとしての報酬分の銀貨73枚と、其方の三つの小さな布袋の方に個人分の銅貨160枚をそれぞれ分けて入れております」


 そう言ってリントさんはカウンターの上のキャッシュトレイに銀貨と銅貨を入れた布袋を乗せて此方へ寄越した。こうした細かな心遣いは助かる。


「ありがと、リントさん」

「どう致しまして。それでは名残惜しいですけど、他に要件が無ければ次の方の取次ぎをさせて頂きますね」


 一礼するリントさんに会釈し、窓口を後にして少し離れた位置へ移動する。受け取った報酬は三人パーティ時の物なので他のメンバーは分配対象からは除外し、ケントとリツに布袋を一つずつ渡した。銀貨は三等分すると24枚とあまりで1枚となるがどうにもキリが悪い。


「リツ、ケント、銀貨なんだけどそれぞれ20枚ずつにして残りの13枚はファミーリア資金に回していい?」

「俺は構わんよー」

「私も問題ないよ」

「んじゃそういう事で、これそれぞれの取り前ね」


 というわけでそれぞれ銀貨20枚と銅貨160枚をウォレットに収納する。

 ウォレットを確認すると依頼報酬とモンスタードロップからの収入で銀貨56枚と銅貨271枚になっている。この世界における物価が今一つ掴み切れてはいないが、初級回復ポーションが銅貨3枚、初級マナポーションが銅貨5枚だった事から十二分な手持ちだろう。


「そちらの用件は済みましたか?」

「うん、分配も済んだしもう大丈夫だよチグサ」


 俺達三人から少しだけ距離を取っていた他メンバーが近づいてきてチグサが代表して声を掛けてくる。分配が終わったのを確認できたのでマリーとシオンも声を掛けてくる。


「ほな、アレせーへん?」

「そうそう、折角皆お揃いの紋章刻んだんだしさ、アレやろうよセラ!」


 そう言われて皆の顔を見ると、全員微笑んで頷く。


「わかった、じゃあやろう。みんな台詞忘れてないよね?」

「大丈夫大丈夫」


 右手を前に突き出しセラが言う。


「The heart is one even if the body is distantly separated(体は遠く離れていても心は一つ)」


 セラ以外も右手を突き出し拳を重ねて言う。


『May my heart be with you(離れていても心は繋がる)』


 最後に重ねた拳を左胸へと付けて皆で言う。


『Make our hearts one!(心は一つに)』


 古くはデモンズオンライン時代から続く一種の儀式的な行為だが、メンバーが加入した際等にこうやる事が俺達のお約束事みたいになっていた。台詞もくさいっちゃくさいけど、ネットを通じて仲間になった俺達にこれ程似合う言葉もないだろう。



 周囲のプレイヤーやNPC達から羨望の眼差しを向けられる中、俺達は肩を組み合い大いに笑い合った。




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