【 Ep.1-027 天兎メンバー集結 】
――収縮する感覚が終わり、五感が戻ってくる。初ログイン時と同じ様に瞼を上げるとそこはログアウトした場所とほぼ同じ位置、ログアウト前の光に包まれるときに見ていた光景と同じ場所だった。どうやら無事に再ログインできたようだ。
「おかえりーセラ」
「たでま~」
声のした方へ向くとそこには既にケントがログインしていて手を振っている。と、その横に光の柱が降り注ぎ、光が収まるとそこにはリツの姿があった。初ログインの時は興奮して周りの光景をよく見ていなかったが、プレイヤーのログイン時のエフェクトはそういう感じで表現されるらしい。
「おや、二人とも待ってた?」
「ボクは今さっきログインしたばっかりだよ」
「俺はセラ達より早くリログしてたけどそんなに待ってないから大丈夫」
どうやら三人共大体30分程度で所用を済ませてこれたらしい。まぁ大体のネトゲプレイヤーは狩りの約束やボスの集合時間に間に合わせる為だったりとかで、普通の人より早くご飯を食べたり、短時間で風呂を済ませたりとかするので、ネトゲ歴の長いこの三人なら問題はない時間だったと言える。
「そうそう、それよりも残りのメンバーもそろそろこっちに着くってさ」
「あーそれぞれ狩り終えて引き上げてきたのかな?」
「時間的にそんな感じじゃない?」
ケントがゼノフロンティアへ移住してくる残りの天兎メンバーが合流する事を知らせてきた。抜けてる様に見えてメンバー間の連絡役を一番自然にこなして和を取り持っているのは実はケントだったりする。昔からコイツは不思議とコミュ能力だけは高く、ラインアーク時代のギルドの窓口対応役を担当させてたくらいだ。ニートにしておくのが勿体ないと思えるが、そこは個人の問題だし俺が口出しするものではないしするつもりもない。
「どうする?先に冒険者ギルド行って報酬受け取っておく?」
「いや、まとめて手続した方が良いだろうし合流優先にしよう。多少遅れても問題はないっぽいし」
冒険者ギルドからは30分弱かかると伝えられているので、時間的にそこまで急いで行く必要性もない。それならば他のメンバーと合流してから向かう方が手間もかからないだろう。
「私は他のみんなと会うのは一年ぶりくらいかなぁ」
「リツの仕事が忙しくなって一旦引退してからそんなに経つかぁ」
「流石にあの当時は仕事以外に割ける時間が無いほど忙しかったからね」
俺にケント経由でゼノフロンティアに誘ってくる前まで、リツは仕事のライター業が多忙を極め、ラインアークをプレイする時間すら取れない程働き詰めで止む無く引退する事態となったのだ。ただ、5ヶ月前にフリーランスへ転向してからというもの、最初こそ忙しかったが徐々に時間的余裕ができたらしく、丁度いいタイミングでゼノフロンティアのリリースが発表された事もあり、その内容から俺好みのゲームという事で誘ってきたらしい。
「ところで待ち合わせ場所はどこにしたの?」
「ん?いやここだよ。冒険者ギルドにも近いし、村の中心ともいえる場所だしな」
「マリ姐やシオンは元気かなー。久しぶりに顔合わせるしなんか緊張してきたよ」
「あの二人は全然変わらないよ。それよりボクはシキやチグサ、モーリィと寡黙あたりは付いてくるだろうとは思ってたけど、クロさんが付いてくるとは思わなかったなぁ。寡黙と同じで口数少ないから今一つ感情が読み切れないんだよね」
「確かに!クロさん狩りに誘ってもあまり乗ってこないのに、あの丁寧な物腰の割に対人戦には顔出してきたりするしな」
「あぁ……クロさんは確かにミステリアスだよね。私も実はそこまで話した事ないんだよ」
待ち合わせ場所で今から合流するメンバーについて話し合う。今回セラのゼノフロ移住にラインアークから付いてきたメンバーはケントとリツの他に八人。誰も彼も筋金入りの天兎コアメンバーである。全員が古参メンバーというわけではないが、各々セラの魅力に惹かれて天兎に加入し、共に在る事を選んだ変わり者達だ。勿論その八人以外にも移住しようとした者はいるのだが、残念ながらそいつらはテスター権の抽選に当選できず泣く泣く諦めている。当然一般開放が始まればその時にはまた仲間として集う約束はしている。
「っとそろそろ着くみたいだ」
そのケントの声の直後。
「お~~~~い!セラさーーーん!!!」
「おーあれがもしかしてセラ?うけるんだけどー!ちんまいーwかわいーw」
声のした方向を見やると、髪の色や種族も身長もバラバラなバラエティに富んだ一団が此方へ向かって歩いてくるのが見えた。
先頭の手を振りながら駆けてくる眼鏡をかけた灰色の髪をした狼獣人の男性。その後ろから小走りで近寄ってくる薄桃の髪色をしたツインテールをクルクルロールにしているヒュームの女性。
その二人からやや離れたところに六人。白髪を綺麗に整えた柔和な顔をした初老のヒュームの男性、ナイスバディな肢体を惜しげもなく露出する衣装を着ている火の様に赤い髪色をしたドーンエルフの女性と、連れ添うように歩く2mは超える身長に頭部から突き出た角が凛々しい牛獣人の男性。
その隣に此方は身長差のギャップもあって余計小さく見えるドワーフの男性。更にその後ろには薄紫色の髪のやや小柄でぱっと見暗めな表情に口元をマスクで隠したドーンエルフの男性と、牛獣人の男性に隠れる様にして歩いてくる白緑色のストレートロングが特徴の幸の薄そうなエルフの女性がいた。
「おー、随分目に痛い集団だな?」
「えぇ~~?!そりゃないっすよーセラさん!!」
いの一番に駆け寄ってきた狼獣人に向けてセラが水を向ける。
「冗談だよ、シキ」
「やっぱり俺だって分かってくれんすか!感激です!!」
「いや、その喋り方はどう考えてもシキだろ……」
――シキ。ラインアークにてセラが直接勧誘して引っ張ってきた人材だ。
元々はセラ達天兎の属する高天原連合とは別の連合に所属するギルドに在籍していたが、所属連合の解散に伴い所属ギルドも半崩壊。本人も半分燃え尽きてた感じがしていたので引退を考えていたところにセラに声を掛けられたのがきっかけで天兎へ移籍した。
何度か敵として対峙した事のあるセラに突然声を掛けられ、それも引き抜きの話に戸惑っていたシキ。解散した連合首脳部は脳筋ばかりで雑務や各種調整はシキがやっていたが、その頑張りは誰にも評価されずシキは悶々としていた。外にはあまり知られる事のないその情報をセラは把握しており、シキのその能力を高く評価していて是非うちに来て欲しいと告げられてシキは天兎に加入した。
戦場の指揮もそれなりに多く執っていて、そちらは多少内外から評価はされども、連合内部の調整は地味で旨味もない仕事であるが、実のところ組織としてはとても大事な役回りでもある。その点をしっかり認めてくれていたのが敵であり、指揮の腕を尊敬すらしていたセラだったのだ。自分の苦労を同様に経験しており理解してくれる存在に飢えていたシキは、天兎に移籍してからはセラのサポートを率先的に務め、程なく高天原連合内のセラの右腕としてその存在を確固たる地位へと繋げたのだ。
「リツ姐おひさ~~~!ん?いや、今リツ姐エルフ男子だからリツ兄?どっちだろ?にしてもとんでもないイケメンだね~!それとセラとケントも三日ぶり~」
「久しぶりシオン。どうだいこの私の理想を体現したアバターは。惚れてもいいんだよ?」
「アハハ、リアルでもそれなら考えるけど結局アバターだしねー。それにしてもセラはセラで相変わらずロリ系アバターなのねってナニコレー!!ちょースベスベでモフモフで柔らかいんですけどー?!」
「ちょっとシオンー!雑に耳と尻尾触らないで」
――シオン。ピンクの髪をドリルツインテールにした如何にもアニメチックなキャラクターをしている女性アバターの彼女の本名は「如月 藍那」。都内の某大学の理系に通う才女ながら、そのファッションや言動はギャル系というギャップの塊である。
天兎へはセラという"面白い"存在を目にして興味を持ち自ら志願して加入。人の命を自分の手で左右できるのが面白いという理由でヒーラークラスをしていたとんでもない奴だ。ギルドでの狩りのトラブルの大半の原因がシオンにあると言っても過言ではない程ぶっとんだヒーラーだが、敵対陣営との戦闘時にはパーティメンバーを滅多な事で落とさせない動きをする等、目を見張る活躍をしたりする確かな腕を持ち"難攻不落の聖女"の二つ名でも呼ばれていた。
「その辺にしときな~シオン。セラの毛が揉みくちゃになってるやん」
「そうだぞー、動物の毛の手入れは見た目以上に手間がかかるんだからな」
「はーい、ごめんねー」
火の様な赤い髪をした露出の多いドーンエルフの女性と牛獣人の男性がシオンへ注意し、ドーンエルフの女性は牛獣人の男性の左腕に両腕を回してくっつきながら近づいてくる。
「や、マリーとベネデクト。相変わらずゲーム内でも見せつけてくれるね」
「なんねーセラ、羨ましいん?でもうちの旦那はわたさんよー?」
「流石に周りがこんなにいるところではやめてくれ……マリ」
「いらないし、羨ましくないし、ベネも困ってるんだからその恰好で絡みつくのやめてやりなよ……」
「いらないって……」
セラの言葉に肩を落として少し落ち込むベネデクトと呼ばれた牛獣人の男性の身体にべっとりと絡みつくマリーという名のドーンエルフの女性。この二人はリアルで夫婦である。ベネデクトとマリーの二人は、ラインアークで比較的初期の頃にメンバー募集をしていた際に加入してきた古参組である。戦闘ではガチムチファイターのベネデクトが被ダメージを無視して敵陣深くに入りこんで掻き乱し、混乱している集団にとにかく火力重視の魔法を過剰なまでに撃ち込むマリーという天兎には珍しい比較的脳筋寄りの二人だ。そんな二人ではあるが、戦闘以外においてはギルド内でも年長に当たる事からそういう立ち位置からの意見やアドバイスを送る事も多く、身内からはマリーは姐さん、ベネデクトはベネさんと呼ばれて慕われていた。また敵からは"躍る筋肉"と"血濡れの赤頭巾"と呼ばれて恐れられていた。
「一月ぶりかのーセラ。ほれこの櫛やるからクシャクシャになったその毛を直しな」
「ありがとモーリィ。仕事は落ち着いた?そしてよくきてくれたチグサ、お前が居ればこちらでも怖いものはないし、ボクは嬉しいよ」
「あぁ、こっちは大丈夫だ」
「そんなに褒めても何も出ませんよ?しかし頼りにされてるのは素直にうれしいですね」
乱れた自分の尻尾を直すために櫛を投げ渡してきたドワーフの男性の名はモーリィ。リアルで親族経営の金属加工場で働いている影響なのか、ゲーム世界でも武器や防具を製作するという筋金入りの職人で、ラインアーク時代はギルドメンバーの装備の6割は彼が製作した物だったりで"殺戮兵器製造人"と呼ばれていた。どうやら合流前に早速色々作っていたようでこの櫛もそのうちの一つだろう。彼は戦闘コンテンツよりかは生産系コンテンツに惹かれてゼノフロンティアへ移住を決めたタイプだ。
そしてチグサと呼ばれた白髪の初老の男性。アバターは年老いてはいるが精悍な顔立ちとしっかりした体付きで、頼りなさよりむしろ老練さを感じさせる。中身はセラより2歳年上の29歳とそう変わらない年齢である。ラインアーク以前からの付き合いであり、ケントと同じくらい古い最古参メンバーの一人でもある。相手に合わせてバフを絶妙に切り替え、変幻自在に対応する戦闘スタイルはギルド内外でも真似出来ない水準にあり、こと戦闘面に関してはケントよりもセラに頼られ、セラ不在時の名代を任されるなど信頼は厚く、名実共に天兎のナンバー2である。天兎メンバーにしては言葉遣いや振る舞いは極めて紳士的であり、"完璧なる執事"の二つ名を持つ。
「んでベネの後ろに隠れている二人はいい加減出てきたらどうなんだい?」
セラがそう呼び掛けると、巨体を誇るベネデクトの背後からソロリとややオドオドした態度で少し小柄なドーンエルフの男性が薄紫色の髪に片眼を隠しながら出てきてセラに会釈した。この男こそが"寡黙"ことセト。その二つ名の通り彼は基本的に殆ど喋らない。そういう縛りプレイというわけではなく、単純に彼が極度のコミュ障なだけである。
セトは害プレイヤーから嫌がらせを受けていた時、颯爽と現れて害プレイヤーをボコボコに倒していくセラ達に遭遇して以来、セラの強さとキャラクターのかわいさに強く感銘を受けて熱烈な崇拝者となり、自分も彼らの様に強くなりたいとセラの強さに惹かれて加入した、ある意味セラの強さとキャラのかわいさを一番理解しているメンバーでもある。コミュ障故正面切って戦う事が苦手な彼は、暗殺系のクラスに就く事でその才能が開花した。以降、彼はセラが現れる戦場のどこかに必ず潜む様になり、影に紛れては一撃必殺で敵を屠る事でセラのサポートをするのだが、セラからはそのストーカー気質故にやや敬遠されている。
「あれ?クロさんはどこ行った?ってなんでまた離れてるのさ……。隠れてないでこっちおいでよ」
セラの視線の先、広場の中央部に生えている大樹の影から、垂れ目がちな瞳を上目遣いにして此方を伺う白緑色の髪をしたエルフの女性。彼女が"クロさん"ことクロノスレイ。ラインアーク一般公開前の事前メンバー募集時に天兎加入申請をしてきた最古参メンバーの一人であるが、オフには一度も参加した事はなく、また自分の事についても殆ど語らない為、一番謎の多いメンバーである。在籍歴は長いものの、彼女自身の強さは天兎メンバー内においては極めて平凡な物であるのだが、タイミングさえ合えば対人コンテンツには顔を出すなど意外な一面も見せる。
「クロさん何してんー。はよこっちおいでやー!」
マリーの呼び掛けに応える形でおずおずとセラの前に出てきたクロさんは心なしか頬を赤くしている。雰囲気だけで言うなら一番天兎メンバーらしくないメンバーとも言える。
「此方でもよろしくお願いします、セラさん」
「あぁ、よろしくね」
綺麗な所作でお辞儀をするクロさんを見た後、セラは全員の顔をもう一度見まわす。参加人数制限一万人の中、ここまでの人数の仲間が揃った事は非常に恵まれていると言える。
「ケント、これで全員?」
「あぁ、これでゼノフロ参加組は全員だ」
「そか。じゃあみんな。まだファミーリアは作れてないけど、こっちの世界でもよろしくね」
『『『『『よろしく!!』』』』』
まっすぐ突き出されたセラの拳に、他の十人の仲間が同じ様に拳を突き出し突き合わせる。セラに惹かれた者、セラを信奉する者、セラといれば面白そうだと付いてきた者、様々な理由はあるが、彼らは皆セラという強い光を放つ存在に惹かれ集った一癖も二癖もある変わり者達だ。
こうしてゼノフロンティアという新たな世界に、天兎移住組メンバーは再集結した。




